「むせやすい」「声が低くなった」50代以上の女性は老化のサイン!週2〜3回の「のどトレーニング」と「全身運動」で誤嚥性肺炎を予防<イラストで図解>
50代になり、食べ物が飲み込みづらい、むせやすくなった、高い声を出しづらくなったと感じている人が多いのでは?年だから仕方がないとあきらめ、何もしないでいると、誤嚥(ごえん)性肺炎(※1)になり、死に至ることも。100才まで元気に過ごすためにやるべき「のどの鍛え方」を伝授します!
※1…食べ物や唾液などが食道ではなく気管に入り、それを咳でうまく排出できずにいると、肺に細菌が入って炎症を起こし、肺炎を発症する。
教えてくれた人
西尾正輝さん/医学博士・日本海医療福祉研究施設の施設長。元新潟医療福祉大学教授。現在は、日本海医療福祉研究施設の施設長として、発話や嚥下障害の予防・治療にかかわる研究、啓蒙活動を行う。著書に『ノドトレ いつまでも美味しく食べたい人のムセと肺炎知らずのノドの筋トレ5秒メソッド』(Gakken)ほか多数。
更年期以降の女性は特に注意が必要!
のどには主に、嚥下(えんげ/口に入れた食べ物や飲み物を飲み込んで胃に送り込むこと)、呼吸、発声の役割がある。さらに空気中のほこりやウイルスの侵入を防ぐフィルターのような機能も担っているが、加齢によりのどの筋力が落ちるなどすると、これらの能力が軒並み低下するという。
「飲み込む力の低下により生じやすい病気が、『誤嚥性肺炎』です。2024年の誤嚥性肺炎による死亡者数は6万3665人(※2)で、1日約174人がこの病で命を落としたことになります。高齢者ほど罹患しやすく、80代の肺炎患者の約80%、90才以上では95%以上が誤嚥性肺炎だったという報告もあります」(日本海医療福祉研究施設・施設長の西尾正輝さん)
特に閉経後の女性は、女性ホルモンのエストロゲンの減少により筋肉量が低下しやすい。
むせたり、声が低くなったりすること自体は病気ではないし、誰もが年をとれば経験すること。しかし、軽視は禁物なのだ。
※2…令和6(2024)年人口動態統計月報年計(厚生労働省)より。
人間ののどは誤嚥が起こりやすい構造
そもそもどうして誤嚥性肺炎は起こるのか。それには、人間特有ののどの構造が関係していると、前出の西尾さんは話す。
「人間ののどは、ほかの動物に比べて咽頭(いんとう)が広いという特徴があります。咽頭とは、鼻の奥から食道の入り口までの部位で、口から入った食べ物は咽頭→食道→胃へと流れ、鼻から吸い込んだ空気は咽頭→喉頭(こうとう)→気管→肺へと送り込まれます」(西尾さん・以下同)
人間ののどは“魔の交差点”
気管の入り口には喉頭蓋や声帯などを含む「喉頭」という器官があり、飲食物の侵入を防ぐ働きをしてくれるのだが、人間の咽頭部はかなり広く、飲食物と空気の通り道が交差している特殊な構造ゆえに、喉頭だけでは気管に食べ物が入り込むのを防げず、時に“事故=誤嚥”が起こってしまう。
咽頭と喉頭を合わせた部分が“のど(咽喉)”であり、上図に示す通り、咽頭は食べ物と空気が通る交差点になっている。
「こうした構造を『咽頭交差』といい、これは人間の進化の過程で生じた設計ミスだといわれています」
咽頭部分が広いため、本来なら咽頭→食道→胃と運ばれていく食べ物が、気管に入ってしまうことがある。これが誤嚥だ。
「若い頃なら、気管に食べ物が入ったとしても咳をする力が強いので、何回かむせれば吐き出せ、大事には至りません。ところが、50代以上はのどの筋力が衰えるため、むせても吐き出す力が弱く、誤嚥が起こりやすくなります」
筋肉量は50才頃から低下傾向に生じ、20才頃と比べて50才で約10%、80才では約50%減少する。そのため、50才以上から誤嚥性肺炎を発症する割合が増える。
「食べ物を飲み込むときに安全に咽頭から食道へ送り込む機能を持つ『舌骨上筋群(ぜっこつじょうきんぐん)』という筋肉が衰えると、喉頭を覆って気管への侵入を阻止する喉頭蓋(こうとうがい)という器官がうまく動かなくなり、誤嚥のリスクが高まります。さらに、加齢により声帯が萎縮すると、弓状に変形して中央に隙間ができてしまうため、そこから気管に食べ物や唾液が垂れ込んで誤嚥を招きやすくなります」