猫が母になつきません 第393話「シン・精神科(外来)」
最初に入った施設で骨折、入院した精神科で二度目の骨折と脱臼を経て施設を移った母。それに伴い精神科も新たに探すことになりました。正直なところ精神科には不信感しかなくなっていた私。とはいえ前の精神科で処方された薬を離脱症状など様子を見ながら減らしていきたいと思っていたので精神科に通うことは必須でした。新しい施設から通えて評判のよさそうなところを調べて病院を決めたものの患者さんが多いらしく、何とか予約がとれたのはだいぶ先になってしまいました。
予約当日、施設から介護タクシーで病院に向かいました。大きい病院なので先生は何人かいますが、私たちの担当の先生はとても若く、まだ学生といっても通るくらいの童顔にメガネの優しそうな人でした。先生は私の方をほとんど見ることなくずっと母に向き合っていろいろ質問していました。以前の精神科では先生は主に私や施設の人に話を聞き、母と話すことはほとんどありませんでした。
私は前の病院で処方されたすべての薬と量を時系列で一覧表にしていて、それを先生に見てもらいました。先生はそれを見ながら医師として疑問に思う点や、薬の中でこれとこれはやめていける、これは残してもいいかも、最終的にはこれだけにできるのが理想など具体的に示してくださり、私も薬をすべてやめてしまうということでなく残してもいい薬もあるのだとわかりました。
先生が母にした質問の中に「自分はここに来てもしかたないと思っていますか?」というのがありました。「ここに来てもしかたない」というのは自虐的というか精神科をネガティブな場所と前提した上で、患者がそこに連れてこられたことを不本意と思っているのではないですか?という質問です。前の病院では精神科の薬にしても入院にしても「患者さんのため」「本人もそのほうが楽」を何度も強調され、うっかり私もそうなんじゃないか?と思ってしまいそうだったし、そう思うしかない状況に置かれたことがあったので、この質問にハッとしました。母は首を傾げて考えていましたが「みんなが私の悪口を言って…」と被害妄想を話し始めました。先生はそれも最後まで聞いてくれました。
母は自分をまっすぐ見つめながら真摯に対話してくれる先生にハートを射抜かれたようで「先生、今度ごはん行きましょうよ」といきなり誘っていました。たしかに母の好みかも。メガネ男子好きだよね。インテリも好き。でも先生は「行きたいけど私は仕事があるので行けません」と、適当にいなさずにちゃんと断ってくれる優しさも持っていたのでした。
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作者プロフィール
nurarin(ぬらりん)/東京でデザイナーとして働いたのち、母とくらすため地元に帰る。典型的な介護離職。モノが堆積していた家を片付けたら居心地がよくなったせいかノラが縁の下で子どもを産んで置いていってしまい、猫二匹(わび♀、さび♀)も家族に。