倉田真由美さん「どうしたらよかったのか」「すい臓がんの夫と余命宣告後の日常」Vol.86
漫画家の倉田真由美さんは、遠野なぎこさん(享年45)とは10年前、番組の共演をきかっけに仲良くなり、なぎさんと呼んでいた。夫を失って1年半が過ぎ、そしてこの夏、10年来の友人が旅立ってしまった…。摂食障害を抱えていた彼女にどう接したらよかったのか――。
執筆・イラスト/倉田真由美さん
漫画家。2児の母。“くらたま”の愛称で多くのメディアでコメンテーターとしても活躍中。一橋大学卒業後『だめんず・うぉ~か~』で脚光を浴び、多くの雑誌やメディアで漫画やエッセイを手がける。新著『抗がん剤を使わなかった夫』(古書みつけ)が発売中。
なぎさんがが男性に求めていたこと
なぎさんは何度も短期間での結婚、離婚を繰り返したり同時並行で何人もの男性と付き合ったりして世間を騒がせたりもしましたが、根はとても潔癖な人でした。
男性との付き合いが短期間で終わるのは、「絶対にこれだけは守ってほしい」というなぎさんの要求が少しでも守られなかったり疎かになったりすると、相手の言い訳を許さずバッサリ関係を切ってしまうから。実際「今、かなりいい人がいる」と嬉しそうに新しい彼の話をしてくれた数日後に、「やっぱり無理だった」と急転直下で別れたりということが何度かありました。
なぎさんが守って欲しかったこと、それは贅沢なことでも難しいことでもありません。でも、人によってはかなり苦痛に感じるかもしれないこと…「一日に一度、必ず連絡する」という約束を守りきれる男性には、なかなか巡り会えないようでした。
たった一言でもいい、だけど必ず一日一回は連絡をするって、人によってはハードルが高い要求になってしまうのは私にはわかります。私も、そういう約束が苦手な方だから。なぎさんと関わった男性の中にも、「一日も欠かさず」という約束が重くなってしまうタイプはかなりいたと思います。
お金がないとか、イケメンではないとか、そんなことにはこだわっていなかったなぎさんですが、なかなか一人の男性と長く付き合うのは難しかったようです。これは、摂食障害を患う前からずっとそうでした。
マッチングアプリをやめた理由
マッチングアプリで刹那の出会いをいくつも繰り返していたなぎさんですが、ある時とうとう猫を飼うことを決めました。「愁くん」と名づけたその猫を飼い始めてから、なぎさんはピタリとマッチングアプリをやめました。
「まったく興味がなくなった。自傷行為の一種だったのかもしれない」
なぎさんは晴々とした顔で言いました。そして愁くんに愛情を注ぎました。彼は彼女の最大の癒しであり、大事な家族になりました。
そのままなぎさんが猫と平和に暮らせたらいいな、と願っていましたが、それは叶いませんでした。
人に頼るのが苦手だったなぎさん。摂食障害は一向によくなる兆しがなく、むしろ悪化していたなぎさん。本当はもっと強引に医療施設に繋いで、点滴を打って栄養をとらせるべきだったのかもしれない。でも、誰がそれをできた?私にはできなかった。なぎさん自身もそれを望んでいなかった。じゃあどうすればよかった…?
なぎさんの訃報を聞いてから、何度も自分の中でぐるぐる考えて、未だに答えは出ません。
きっとこれからも、答えは出せないままだと思います。