猫が母になつきません 第455話「ていばん」
自分と同じく独身ひとり暮らしで同年代、そういう友人とはやはり話が合います。独身だと皆だいたい親の面倒をみていて、すでに見送ったという人も多い。親を東京によんだり、自分が実家に戻ったり、実際に親を看た人だけがわかることというのがある。
電話で話した友人は仕事で知り合った女性で、若い頃はバリバリ仕事をしていた。東京に呼び寄せたご両親を見送ったあと仕事を離れ、今は早めの隠居生活を謳歌している。いまだに締切に追われている私からするとうらやましいかぎり。
以前一緒にやった仕事のことでちょっとした確認事項があり電話をしたのだけれど、そんな用事は速攻で終わり、「袋があけられないとかうそだろうと思ってたけど、ほんとにあかない」とか「この服かわいいと思っても今の自分に似合うか、一度客観視してよく考えないと危なくてぽちれない」とか「最近のわかいもんは《こつこつやる》っていう言葉をしらんのか」とか「マンション買ってても修繕積立金が一気に値上がってぞっとした」とか、健康の話に始まりお金の不安まで会話はすっかり高齢者定番のテーマばかり。私たちは着実に、いや、ちゃんと歳をとっているらしい。
50歳から64歳までの年齢層を《プレ高齢者(プレシニア)》といって、それは《高齢者》になる前の世代を指し、この年齢層は「人生の後半戦に向けて、新しい挑戦や自己投資への意欲がある重要なターゲット層」としてマーケティングの上でも注目されているのだとか。友人も「体が元気なうちに遊んで、もしかしたら後で困るのかもしれないけど、それはそのときに困ることにする」という。老後になんの不安もない人なんてほとんどいないでしょう。ましてや配偶者なし、子なし、社会的地位なしなら…でも親と暮らして送った経験というのは何よりも強いと思う。老いをそばで見続け、死を見届けた。老後2周目、すべて経験済み。だから、きっと、私たちはとても強いと思うのです。
「今が自由で楽しい」と言える彼女ほど自分はまだ全然吹っ切れていないけれど、軽やかな彼女に励まされて元気が出ました。
作者プロフィール
nurarin(ぬらりん)/東京でデザイナーとして働いたのち、母と暮らすため地元に帰る。ゴミ屋敷を片付け、野良の母猫に託された猫二匹(わび♀、さび♀)も一緒に暮らしていたが、帰って12年目に母が亡くなる。猫も今はさびだけ。実家を売却後60年近く前に建てられた海が見える平屋に引越し、草ボーボーの庭を楽園に変えようと奮闘中(←賃貸なので制限あり)。
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