猫が母になつきません 第367話「ふおん_その1」
突然ですが、これが今の母の状態です。驚かせてすみません。母が施設に入所してからもうすぐ半年になろうとしています。連載が週1回なのでタイムラグが生じているのと、いろいろなことがあって私自身がそれを書きあぐねていたのとで突然になってしまいました。《不穏(ふおん)》という言葉は文字どおり「おだやかでない」という意味ですが、介護(医療)の現場では「落ち着きがなく興奮して行動が活発になる状態」のことで、具体的には「そわそわと落ち着きがなく歩き回る」「大声で叫んだり暴れたりする」「攻撃的な行動や発言をする」「突然意味がわからないことを言い出す」というような症状をさします。入所前の母はとても健康で、常用している薬もなく、血液検査の結果も「よすぎる」と言われるほどでした。動き回ることができる母は施設で朝5時ごろから起きだして夜勤スタッフのところに行ったり、他の人の部屋のドアをノックしたりすることもあったようです。帰宅願望があってひとりで外に出ようとしたりも。「大声で叫んだり暴れたりする」ことはなくても他の入居者の方に迷惑をかけることは許されないことでした。認知症の人を受け入れているのに「問題行動を伴わない方」「共同生活に適応できる方」というようなことが施設の入居条件に入っているのをよく見かけます。それはとても矛盾していることのように私には思えますが。そして《不穏》だとされた私の母は矛盾に満ちた《認知症医療》の沼に飲み込まれていくことになったのです。それは私が知っている《医療》とはまったく別のものでした。つづく
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作者プロフィール
nurarin(ぬらりん)/東京でデザイナーとして働いたのち、母とくらすため地元に帰る。典型的な介護離職。モノが堆積していた家を片付けたら居心地がよくなったせいかノラが縁の下で子どもを産んで置いていってしまい、猫二匹(わび♀、さび♀)も家族に。