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《介護職を経験》Wink・鈴木早智子が語る介護現場のリアル 今でも“後悔”している出来事と職員の待遇改善の必要性「想像以上に“過酷”だとやめていく人が多かった」

相田翔子さんとの2人組ユニット・Winkで知られる鈴木早智子さん(56歳)が、2021年から3年間の介護職経験で見た現場の実情を告白。情報共有の不足が招いた入居者の転倒事故への無念を吐露し、介護職の待遇改善の必要性を訴えた。【全3回の第3回】

介護職は「過酷」だと覚悟して就職しても、「予想以上だった」とやめていく

――介護職を振り返ってみて、どんな思いがありますか?

鈴木さん:3つの介護施設に勤務しましたが、介護の現場は問題がたくさんあると感じました。まず問題なのは、「介護職は誰でもできる仕事」だと誤解されている点です。確かに、仕事内容に比べて給料水準は低く、慢性的な人手不足から、就職のハードルは高くないかもしれません。

けれども、施設の入居者様の中には病気の関係から暴力をふるう方もいて、そういう方の対応をしなければいけないですし、排泄のお世話もします。忙しすぎて職員同士の関係が悪くなったりもします。体力や精神力も必要なので、過酷な仕事だと話では聞いていたけれど想像以上だったとやめていく人が多いんです。特に若い人は耐えられずに短期間でやめてしまうので、職員が中高年の方ばかりの職場も少なくありません。

入居者様の命や尊厳を預かる責任のある仕事ですから、きちんと給与面や職場の環境の改善などをしないと、ギリギリで踏みとどまっている職員さんたちも、なにかの拍子に心が折れて、やめてしまう可能性だってあります。

心配していた入居者が骨折、未然に防げたのではと悔恨

――人口の多い団塊の世代が、これから本格的に介護施設を利用するはずなので、そのあたりの整備は早急に進めてもらいたいですね。

鈴木さん:それに、職員同士での情報共有も足りていないと思いました。ある施設では、ユニット(少人数のグループ)ごとに担当が分かれていたのですが、複数人でワンユニットの入居者様を担当するので、当然、申し送りがあります。ノートにも記録します。けれども、あまりに忙しいせいか、入居者様に関する重要な情報が職員間で共有されていないケースがあるんです。

例えば、ある時、入居したばかりの認知症の方がいて、車椅子だったので立てないと思っていたんです。ところが、その日の夕方、その方が掴まり立ちをしているのを別の職員が見かけたんですね。それはかなり危険で、補助もなく一人で歩いたら転倒するかもしれません。おそらく本人は無意識に立ち上がっているんです。

そういう方は、夜の見回りで普通より意識しておかないと、万が一のことがあるかもしれません。だからその日、夜勤の職員に申し送りをして帰ったのですが、すごく心配でした。ちゃんと注視してくれているかな? その入居者様が倒れたとしても大事に至らないように、床にマットを敷き詰めておくべきだったかな? って。

悪い予感は当たって、翌日、その方は骨折していました。入院することになり、それから寝たきり状態です。本来ならまだトイレに自力で行けたのに……。お年寄りの転倒は、骨折に直結しやすいんです。そして、そこから寝たきりになってしまう方もいる。この件は印象深くて、何かできたんじゃないかと後悔しています。だから、情報をしっかりと共有することが大切だと思うんです。

そして、人手不足をどう改善するか。介護職の人手不足は深刻だと何年も前から言われているのに、状況は全く改善されていません。介護職に就きたくなるような、そしてやめない環境を作っていかなければいけないと思います。

自身を大切にした上で、介護をすることが大事

――鈴木さんは「介護とエンタメの融合」をテーマに活動をされているとか。

鈴木さん:数百か所の介護施設とつなげた無料のオンラインライブに参加して、入居者様たちに呼びかけながら歌ったり踊ったりしたんです。理想はそういうことを毎月行って、入居者様の定期的な楽しみになるといいなと考えています。まだそこまで計画が進んでいないので、いい企画があったらアイディアをいただけたらうれしいです。

――ご家族や自身の介護の準備はしていますか?

鈴木さん:父がもうすぐ90歳なのですが、骨折してから日課にしていた散歩ができなくなってしまったんです。部屋でずっとテレビを見るような毎日で、そういう高齢の方は多いようです。足が弱ってしまった父が心配で、転んでもケガをしないように床に柔らかいものを敷いています。母は病気で他界しているのですが、家で看取ったので、その時に手すりや段差などのリフォームは終わっています。

――介護をされている方にメッセージをお願いします。

鈴木さん:仕事でもプライベートでも、介護は本当に大変です。我慢を重ねると心を病んでしまうこともあります。つらいことや悩みは、仕事であれば上司に、ご家族の介護なら周りの人に打ち明けてください。一人で抱え込まないで、時には手を抜くことも大切です。

自分がつぶれてしまう前に休むことは、巡り巡って相手のためにもなります。心に余裕が生まれたら笑顔で接することができて、相手にも笑顔が増えてくると思います。まず自分を大切にした上で、介護をすることが大事です。

◆歌手、タレント・鈴木早智子

すずき・さちこ/1969年2月22日、東京都生まれ。1988年に相田翔子とアイドルデュオ・Winkとしてデビュー。翌年『淋しい熱帯魚』で第31回日本レコード大賞を受賞するなど、アイドルとして一世を風靡した。1996年のWink活動休止後は、ソロシンガー、女優、タレントとして多方面で活動。2021年から3年間は介護職員として勤務。

撮影/小山志麻 取材・文/小山内麗香

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