猫が母になつきません 第371話「精神科」
精神科です。エレベーターを降りたら鍵のかかった扉が。インターホンでスタッフの人を呼び鍵を開けてもらいます。そこは《精神科急性期治療病棟》という「精神症状が悪化して集中的な治療が必要な」の患者さんが入院する病棟で、認知症以外の若い患者さんもいます。母を整形外科から転院させた日、母を看護師の人にあずけてエレベーターで下に降りようとすると非常ベルがけたたましく鳴り響きエレベーターは停止。中にいる患者さんがボタンを押したのです。スタッフの人は慣れた感じで「誤報です、ご心配なく」と。先行きが不安でした。
整形外科でリハビリをした母は自分で立って歩けるようになっていました。精神科でもリハビリは続けられると聞いていました。しかし看護師の方に「また転倒して骨折するリスクをおってでも歩かせますか?」と何度も聞かれました。「ずっと車椅子のほうが安全」ということです。私は「介助や見守りありきで、手すりを使って歩く時間を少しでも作ってほしい」とお願いしました。歩けるのにずっと座っていろというのは酷だと思いました。看護師の方の提案で頭部を保護する介護用の《保護帽》をかぶって生活することになりました。
転院から1ヶ月、経過を診てもらうため整形外科を受診。術後の経過は問題ありませんでしたが、この頃母はまた歩行困難になっていました。足がほとんど上がらず歩こうとしてもかなり小刻み歩行、危なっかしい感じです。意識もずっとぼーっとしていて半分寝ているような状態。食事も介助が必要で、口に食べ物を入れるともぐもぐはしますが、味わっている感じではありませんでした。
《要介護》は4ヶ月で1→3になりました。病院からは「認知症がかなり進んでいる」との報告がありました。トイレではないところで排泄したり、他の患者さんの部屋に入ったり、ひとの物をさわったりとのこと。「転倒した」という連絡も2度ありました。床に倒れていたのを他の患者さんが見つけたそう。この時は骨折していませんでした。
大雨などの天候不順に見舞われて面会に行けない日が続き、久しぶりに病院をたずねると看護師の方が「午前中に部屋の床によつんばいになっているところを発見されて、脚が痛いと言っている」と。前回骨折したのとは逆の右側です。動かすとひどく痛がるので嫌な感じがしました。痛いところを調べるため母の体を見るとあざだらけでした。両腕、腰、あごに濃い紫のあざ。色からして今日できたものでないことはわかります。「転倒した」と連絡があったときのものなのでしょう。ぼーっとしているので反射的に手をついたりしないのかもしれません。
看護師の方はいつもどおりのやり方でオムツ替えをしました。母の顔が苦痛でゆがんでいました。見ている私も同じ顔になっていましたが、何も言うことはできませんでした。
面会に行った日は日曜で、月曜も祭日だったのでレントゲンは二日後になりました。やはり骨折でした。《右大腿骨骨折》。また整形外科の病院に戻って左側と同じ手術をすることになります。2度目の骨折をしたのは入所から《154日目》のことでした。
*ご報告*
母は施設を移りました。実家から車で40分弱。実家が片付いたら私も施設の近くに引っ越します。母はいまのところ落ち着いています。医療的なケアが手厚くリハビリもしっかりしてくれるというのが今の施設を選んだ理由。読者の皆様にはとてもご心配いただいていますのでご報告しておかねばと。いつもありがとうございます。「奇跡の復活」を目指します。
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作者プロフィール
nurarin(ぬらりん)/東京でデザイナーとして働いたのち、母とくらすため地元に帰る。典型的な介護離職。モノが堆積していた家を片付けたら居心地がよくなったせいかノラが縁の下で子どもを産んで置いていってしまい、猫二匹(わび♀、さび♀)も家族に。