《“さっちん?”と騒動も》Wink・鈴木早智子、介護職として働いた理由や苦労を語る「入居者様に蹴飛ばされたことも」「夜勤は1人体制。仮眠をとる時間もなかった」
1980年代末にデビューし、社会現象を巻き起こしたアイドルデュオ・Winkの鈴木早智子さん(56歳)は、コロナ禍の2021年から2024年にかけて、人知れず介護の職務に就いていた。彼女はなぜ介護福祉の現場に従事したのか――。いきさつを聞いた。【全3回の第1回】
介護職は最短でも3年間、中途半端な気持ちで臨みたくなかった
――なぜ介護職に就こうと思ったのか、いきさつを教えてください。
鈴木さん:訪問看護事業をしている友人に、コロナ禍で普段以上に疲弊している現場の職員の方に向けて、リモートで応援メッセージや歌を届けてほしいと頼まれて。私でよかったらと引き受け、その結果、すごく喜んでくれたのでうれしかったんです。
その時に改めて、介護職は大変で業務がひっ迫していると話は聞いていても、実際にはどんな仕事なんだろうと気になったのがきっかけですね。命を預かってる現場で奮闘する大変さを想像できないのに、簡単に「頑張ってくださいね」って言ってよかったのかなって。
介護はどんな人でも必ず関係する問題だと思うんですね。私の親も介護が必要な年齢になってきました。入居者様はどんな介護を受けているのかなとか、職員さんの大変さとかって、体験しないとわからないと思ったんです。
――介護職は3年間従事されましたが、はじめから期間を決めていたのですか?
鈴木さん:そうです。中途半端な気持ちで臨みたくなかったので、3年は続けたいと思っていました。最初の一歩は勇気がいりましたし、もう大変でした。勤務先には病気の関係で暴力的になる入居者様もいたりして、蹴飛ばされたこともあるんですよ。
でも、お1人お1人の気持ちに寄り添っていると、意思疎通ができなくても、この方はこの言葉で笑ってくれるんだなとか、こうされると嫌なんだなとか、1対1の目線で日々お付き合いしているとわかってくるんです。それぞれ個性があるので、その人にあったコミュニケーションの取り方を、職員それぞれ工夫していました。
なれない電車通勤で“迷子”になることも
鈴木さん:毎朝4時に起きて、電車で同じ場所に通勤することが初めてだったので、人生勉強にもなりました。自宅から勤務先のグループホームにたどり着くルートを覚えたのですが、そのルートからちょっとでも外れちゃうと、自分がどこにいるのか分かんなくなっちゃうんです。
グループホームは浅草にあったのですが、浅草にあまり行ったことがなかったので、帰りに道に迷ってしまって。いくつか路線があるなか、電車に乗ればどうにかなると思って乗ったら知らない駅に来てしまって、駅員さんに「どうやって帰ればいいですか?」と聞いたり、準急に乗ってしまったために降りたい駅で降りられず、1駅戻るつもりが、やっぱり知らない駅に行ってしまったり(苦笑)。そんなことが何度かありました。
――芸能人であることで、トラブルなどはありませんでしたか?
鈴木さん:面接を受けるときには私の職業を伝えていました。ご迷惑をかけしてしまう可能性があるので、それを含めた上で採用していただけたらうれしく思いますって。それで施設長だけが私の肩書を知っている状態で働きました。特別扱いのようなことはされたくないと思ったんです。
でも、それは杞憂でした。Winkの鈴木早智子だと職員さんに気づかれたところで、そんなことお互いに気にならないくらい現場は大変なんです。だから意識されることはあまりなかったのですが、1回だけ大ごとになったことはあって。「あの人、さっちんだよね」みたいな噂が広まって、ホームがおかしな空気になってしまったんです。
施設長に「みんなに言った方がいいんじゃないか」と提案されましたが、噂は噂のままでいいんじゃないかと思って。直接確認されることもなかったので仕事に差し支えることもないし、1年目の介護職で覚えることがいっぱいで、それどころじゃないというのが本音でした。幸い、そのうちに噂もおさまりました。
――介護施設で働きながら1年目に介護職員初任者研修を取得されたそうですね。ご苦労はありましたか?
鈴木さん:合格できるのか不安でしたが、勉強は楽しくもありました。学校に行って勉強することは、成人してからは経験していなかったので、大変ではありましたけど新鮮でした。それに資格を取らなくても介護の仕事はできますが、資格があると信頼度が違いますよね。
施設の環境をよくして、介護職員の働きやすい職場に
――3年間の介護職で、なぜ1年ごとに施設を変えて3か所で働いたのでしょうか?
鈴木さん:リアルな介護現場を体験して、現状をみなさんにお伝えしたいという気持ちがあったからです。施設を変えるとルールも違うし、また新人からスタートになるので大変。ですが、同じ場所で長く働くより、異なる環境の複数の施設で介護職を経験したいと考えました。
だから1年目はグループホーム、2年目は夜勤専従のサ高住(サービス付き高齢者住宅)、3年目は日勤の特養(特別養護老人ホーム)にしました。サ高住は本来、介護度の軽い方が入る場所なんですけど、介護度が高い人が多くてびっくりしました。つまり、特養の順番待ちで入っていたりするんです。特養は要介護3以上など条件がありますが、利用料は比較的安いですからね。
やっぱり、大変だったのは夜勤でした。基本的に朝まで1人体制になるので気を抜けないし、書類作成などやることが多かった。夕方4時頃に入って朝の9時半に終わるんですけど、仮眠をとる時間もありませんでした。
予定していた3年が終わるとき、悩みました。というのも、あまりにも介護現場の環境が悪くて、介護従事者がいなくなってしまうのではと心配になりました。みなさんストレスが溜まっちゃって、疲れて気遣う余裕もないから職員同士の人間関係も悪くなってしまう。そうして離職が多くてつぶれてしまう施設もあります。施設の環境をよくして、介護職員が働きやすい職場になってほしいですね。
◆歌手、タレント・鈴木早智子
すずき・さちこ/1969年2月22日、東京都生まれ。1988年に相田翔子とアイドルデュオ・Winkとしてデビュー。翌年『淋しい熱帯魚』で第31回日本レコード大賞を受賞するなど、アイドルとして一世を風靡した。1996年のWink活動休止後は、ソロシンガー、女優、タレントとして多方面で活動。2021年から3年間は介護職員として勤務。
撮影/小山志麻 取材・文/小山内麗香