『MIU404』今夜最終回|菅田将暉は人々を悪の方向に一押しする「スイッチ」
綾野剛と星野源、最高バディ誕生の刑事ドラマ『MIU404』(TBS金曜夜10時)。10話はネットの陰謀論、フェイクニュースが拡散する構造を暴くような展開になり、ドラマと現実がシンクロするような感覚もあった。謎の中心にいる久住(菅田将暉)はどうなる? 野木亜紀子ドラマを考察してきた大山くまおさんによる振り返り&予想です。
いよいよ今夜最終回、10話までのストーリーをじっくりおさらいします。
菅田将暉=久住という男
綾野剛&星野源VS菅田将暉! ついにラストスパートに入った『MIU404』。今日の放送が最終回だなんて寂しいなぁ。
先週放送された第10話「Not found」は、4機捜チームの伊吹藍(綾野)、志摩一未(星野)らと久住(菅田)が本格的に対峙した。
ここでもう一度、久住という男をおさらいしてみよう。
大阪の天王寺出身で池袋近辺に出没。仮想通貨に明るく、システムをハックして大金を動かし、人に甘い言葉で言い寄って居場所や利益や危険ドラッグを与え、さらに危険ドラッグの工場まで操る男。裏社会で力を持つエトリ(水橋研二)を影で操っていたのも久住だった。
ただし、久住を「ラスボス」「最後の敵」などという言葉で表すには少し物足りない。久住は人々を悪の方向に一押しする「スイッチ」である。
久住が触れようとした蝶は「バタフライエフェクト」の象徴だろう。蝶の羽ばたきが遠くの場所の気象に影響を与えるという意味だが、久住が指(これも象徴的に映し出される)を少し動かすだけで、多くの人々と物事が動き始める。彼が動かす相手は殺人犯から意識の高い若者、居場所をなくした高校生、上昇志向を持つ動画配信者、SNSを使っている一般人まで多岐に渡る。
久住が「悪の権化」であれば、話は簡単だ。久住をやっつければ世の中は平和になる。しかし、そうではない。久住は触媒にすぎない。志摩は久住のことを「メフィストフェレス」と呼んだ(伊吹いわく「メケメケフェレット」)。甘い言葉で人間に近づいて欲望を満たしてやり、その魂を奪う悪魔のことだ。久住のおかげで自分の欲望をかなえたつもりでいると、いつの間にか人生をめちゃくちゃにされて被害者にされる。
彼のような存在は日本のどこにもいて、甘い言葉の蜜を垂らした先に黒い口をぽっかりと開けて人々を待っている。
陰謀論と「404 Not Found」
特派員REC(渡邉圭祐)はエトリが殺された爆発事件を「警察の自作自演による悪事の隠蔽」だとして動画サイトで報じていた。情報源は「浜田」を名乗る久住。RECは羽野麦(黒川智花)を「女詐欺師」と言い、かつて自分が遭遇したメロンパン号の伊吹に注目する。ここで1話と9話、10話がつながった。さらにRECは4機捜のサイトが「404 Not Found」になったことを指摘(1話)。4機捜は警察の悪事を隠すための秘密部隊だと結論づける。
「あなたは点と点を強引に結びつけてストーリーを作り上げてるだけだ」と志摩が指摘していたが、事実をつまみ食いして自分の都合の良いストーリーを仕立てる「陰謀論」はネットのあちこちに蔓延っている。「フェイクニュース」も似たようなもの。部分的に事実が混じっているから信じる者も多い。そしてRECもそうであるように陰謀論は自己承認欲求と金儲けに直結する。
陰謀論やフェイクニュースに踊らされないようにするには、志摩が言うように「自分が騙されていると想像」してみることだ。自分が嫌いな○○は嘘を言っている、自分だけが真実を知っている、真実を知っているから自分は優れている、真実を知っているから注目が集まる……と陶酔している間は騙されるばかりである(ドラマでは若者だが、実際には中高年にこういう人が多い)。野木亜紀子はこのことをドラマ『フェイクニュース あるいはどこか遠くの戦争の話』で克明に描いていた。
→ドラマ『フェイクニュース』が描くメディアと社会 今こそ問われる正しく情報を見抜く力
RECが拡散した情報はネットの大海に散らばり、インフルエンサーたちは「女詐欺師」と桔梗ゆづる(麻生久美子)の関係まで暴露して陰謀論で盛り上がる。ベテラン刑事・陣馬(橋本じゅん)の「ネットなんか置いておけ、こんなもん見なきゃいいんだ」という言葉が重い。
桔梗はネットの記者たちの取材に応える。「美人すぎる隊長!」というネットのコメントは1話の記者会見とつながっている。「あかん奴だったのか」「言い訳はよ」などのネットらしい言葉遣いが野木亜紀子は本当に上手い。
アクセスが集中して「404 Not Found」が出たと説明する桔梗に、動画サイトの取材者が得意げにそれは「503エラー」のはずだと告げる。これは実際に1話が放送された後、筆者のITに強い知人たちもSNSで得意げに語り合っていた。すべてはお釈迦様の手のひらの上。
追及を突っぱねる桔梗に対して「こいつ感じ悪い」というコメントが出るが、これはトーンポリシング。また、すぐさまネットでは「育児放棄してそう」「幹部と寝て隊長になり、その時にできたのが息子の『ゆたか』。シンママへの道荒れてるな~w」などの桔梗への攻撃が並ぶ。SNSの女性への攻撃性がよく現れたシーンだった。
SNSでの空疎なコメントを見せた後、志摩と桔梗、九重(岡田健史)と陣馬がそれぞれ対面で酒を酌み交わしながら語り合い、心を通わせるシーンがあるのも象徴的だ。
結局、RECは自分の愚かさを悟り、伊吹と志摩の操作に協力して久住に接触するが、逆にPCを乗っ取られてインカメラで盗撮され、さらに自分のパソコンから偽の犯罪予告をいくつも送りつけてしまう。陰謀論に踊らされた者の無惨な末路だ。なお、どちらも過去に実際にあった事件であり、まったく我々の生活と無縁なわけではない。
東京同時多発テロ、そして「#MIU404」
「死んだ奴には勝てねぇよ」
夜明けまで桔梗の部屋にいたが、酔った桔梗に死んだ夫の写真を見せられ「キャッキャウフフ」しないでメロンパン号に帰ってきた志摩はこう呟く。「あらためて見ると派手な車だな」という呟きには、伊吹が「いいじゃん、いいじゃん、やましいことないし」と返す。これらの何気ないセリフが、すべて後半につながっている。
アナログ人間の陣馬は足で稼ぐ捜査で、危険ドラッグの工場を追い詰めていく。一方、久住はというと……東京各所に爆弾を積んだドローンを発進させて一斉テロを実行! 捕まるのは犯罪予告を出したRECというわけ。
東京同時テロにパニックになるSNS、そして警察。久住の居場所に向かっていたメロンパン号だったが、病院でも爆発が起こったと知らせを聞いた2人は久住ではなく病院へメロンパン号を走らせる。
「なぁ、志摩ちゃん。死んだ奴には勝てないって言ったけど、それ違うよ。生きてりゃ何回でも勝つチャンスがある! な?」
「了解、相棒」
きっと志摩の脳裏を死んだ「相棒」の香坂(村上虹郎)がよぎったことだろう。6話と10話がつながっている。伊吹に判断を任せた志摩の姿も印象的だ。1話で「自分も他人も信用しない」「自分のことを正義だと思っている奴が一番嫌いだ」と言っていた志摩の姿はもうすでにない。パトカーを見送る久住が「正義の味方は辛いのう」と侮蔑的に言っていたが、志摩は伊吹を信用し、人の命を救って誰かを助ける「スイッチ」になることを自分たちの「正義」だと明確に考えて行動している。
現場に到着した伊吹と志摩だが、爆発はどこにもなかった。すべてはフェイクだったのだ。久住はSNSに偽の動画をアップしただけでパニックを作り上げてみせた。警察への通報も虚偽のものだ。警察への虚偽通報ゲームをしていた3話と10話がつながった。そして今回のタイトル。東京同時多発テロは「404 Not Found」だった。
「テロの実行犯はメロンパンの車に偽装! 情報求む!!! #MIU404」
久住による書き込みによって、「派手な車」であるメロンパン号は人々の好奇の目に晒され、陰謀論に踊らされて自分の「正義」を信じる人たちによって画像と情報がSNSに拡散される。フェイク情報で非常線を張った警察の裏をかいて、久住はまんまと危険ドラッグを積んだトラックを逃そうとした。
そして「#MIU404」はリアルの世界でもドラマの世界でも同じハッシュタグがトレンド1位になる。視聴者は興奮したが、単なる話題づくりではないと筆者は考える。その理由は後に述べる。
『MIU404』の「2019年」問題
ところで、『MIU404』は「2019年が舞台」という設定が貫かれている。1話のドライブレコーダーの日付も2019年だった。4機捜は翌年である2020年の春に解散する可能性についても何度も言及されていた。この謎について様々な考察が飛び交っているが、筆者は新型コロナウイルスと関係していると考えている。
つまり、2020年の春が舞台ではあらゆることが現実と異なってしまう(4機捜の面々は居酒屋で酒を酌み交わすこともできない)。ドラマはエンターテイメントだが、単なる虚構ではない。現実と地続きであるという作り手側の考えが2019年という設定になっているのではないだろうか。「#MIU404」というハッシュタグでドラマとリアルを橋渡ししたのも、そんな考えがもとになっているような気がする。
観終わった後、「あー、面白かった!」と思いつつ、どこか胸がチリチリと灼けるような感覚になるのが『MIU404』というドラマの大きな特徴だ。これは現実とドラマが地続きになっているからである。
現実とドラマ、真実とフェイクが混じり合い、酔ってしまいそうな視聴者にさしのべられている「手」。それが4機捜のメンバーの高い意識だ。彼らは常に正しくあろうとし、法と手続きを遵守し、弱い者の声に耳を傾けて守ろうとする。危険ドラッグに気軽に手を出す若者たちを見たら、それが覚醒剤につながって人生を台無しにすると本気で説教をする。誰も「自己責任」なんて言ったりしない。これは『MIU404』が持っている「正義」だと言ってもいいだろう。
なお、危険ドラッグに手を出していた若者たちは一見普通に見えるが実際は不幸な境遇にいる者が多く、そこを久住に付け込まれていた。4話の青池透子(美村里江)や5話の外国人技能実習生たち、7話のトランクルームの住人たちともつながっている。
指先ひとつでSNSを通して人々を操る久住に対抗するのは、伊吹の野生(特に10話では伊吹の鋭い感覚が強調されていた)と志摩の理性、そしてお互いを相棒と認めるパートナーシップ。蝶を捕まえるのはスパイダー(金井勇太)というのも気が利いている。
はたしてどんな結末が待っているのか。トラックの前に立ちはだかる陣馬さんは大丈夫なのか。どれだけの謎が用意されていて、どのように解き明かされるのか。
いずれにせよ、すべては今夜わかる。
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『MIU404』は配信サービス「Paravi」で視聴可能(有料)
文/大山くまお(おおやま・くまお)
ライター。「QJWeb」などでドラマ評を執筆。『名言力 人生を変えるためのすごい言葉』(SB新書)、『野原ひろしの名言』(双葉社)など著書多数。名古屋出身の中日ドラゴンズファン。「文春野球ペナントレース」の中日ドラゴンズ監督を務める。
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