菅田将暉が突如登場の『MIU404』3話に視聴者騒然するも見所はそれだけじゃない!
綾野剛と星野源、最高バディ誕生の刑事ドラマ『MIU404』(TBS金曜夜10時)。先週の第3話にはサプライズゲストが登場、SNSはたいへんな盛り上がりとなった。だが、その話題性にも増して深いメッセージ性が観るひとの心を捉える。それが野木亜紀子脚本作品だ。野木ドラマを追いかけてきた大山くまおさんが考察する。
今夜放送第4話の前にじっくりおさらいを。
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ゲストが出たくなるドラマ『MIU404』
えーっ、菅田将暉がサプライズ出演!?
と、リアルタイム視聴者を驚愕させた綾野剛、星野源主演のドラマ『MIU404』第3話。でも、番組終了後のツイッターを見ると、けっして菅田将暉の話題一色になっていないところが、作品の質の高さを表している。
それにしても山田杏奈の叫び声で始まって、『蜜蜂と遠雷』の鈴鹿央士が駆け回り、大倉孝二と吉田ウーロン太の『アンナチュラル』コンビが捜査をして、岡崎体育が変態の犯人役で、最後に菅田将暉が出るなんて、ゲストだけでこんなに豪華なドラマは久しぶり(あ、バッファロー吾郎Aも出ていたね)。それだけ「出たくなるドラマ」ということなんだろう。
サブタイトルは「分岐点」。登場した人物の「人生の分岐点」を示すとともに、シリーズ全体の「分岐点」も表していた。
「ルーブ・ゴールドバーグ・マシン」の意味
「誰と出会うか、出会わないか。この人の行く先を変えるスイッチは何か」
伊吹藍(綾野)、志摩一未(星野)らが所属する第4機動捜査隊は、西武蔵野署管内で頻発する強制わいせつ事件……を騙った連続イタズラ通報事件の捜査にあたる。
虚偽の通報を行っていたのは、バシリカ高校の元陸上部員、成川岳(鈴鹿央士)、勝俣(前田旺志郎)、竹中(石内呂依)、佐野(川口友雅)の4人とマネージャーだった真木カホリ(山田杏奈)。彼らが属していた陸上部は先輩たちの不祥事によって廃部となっていた。その憂さ晴らしのため、虚偽の通報で警官を呼び出しては4人でリレーして逃げ切るという「ゲーム」をしていたのだ。
韋駄天の伊吹もさすがに4人相手にはなすすべなく敗北。とはいえ、警察の捜査網は確実に狭まっていた。そんな中、九重(岡田健史)に伊吹のことを問われた志摩は彼の美点を「俺らにないところ」と語り、おもむろに「ルーブ・ゴールドバーグ・マシン」を使って説明を始める。
「辿る道はまっすぐじゃない。障害物があったり、それをうまく避けたと思ったら、横から押されて違う道に入ったり。そうこうするうちに罪を犯してしまう。何かのスイッチで道を間違える」
「でも、それは自己責任です」と切って捨てる九重(彼は「自己評価が高い」と志摩に言われている)をいなして、志摩はさらに続ける。
「自分の道は自分で決めるべきだ。俺もそう思う。だけど、人によって障害物の数は違う。正しい道に戻れる人もいれば、取り返しがつかなくなる人もいる。誰と出会うか、出会わないか。この人の行く先を変えるスイッチは何か」
志摩が語っているのは、人の一生のこと。誰かが罪を犯すのは、必然ではなく、偶然の要素が大きい。誰と出会うか、出会わないかは大きな「分岐点」だ。
ルーブ・ゴールドバーグ・マシンから落ちたパチンコ玉は寝ていた伊吹がキャッチした。ちなみにこの仕組みは機械化に突き進んだ世界のいびつさと複雑さを風刺するためにルーブ・ゴールドバーグという人が考案したもので、「ピタゴラ装置」と呼ばれて完全にエンターテイメント化したのは最近のこと。つまり、あの装置はこのいびつで複雑な世界そのものなのだ。
機捜は誰かが最悪になる前に止められる仕事
西武蔵野署の毛利(大倉孝二)と向島(吉田ウーロン太)の捜査を受けたバシリカ高校の校長(赤間麻里子)だが、知らぬ存ぜぬを突き通す。「何を聞いてものらりくらり。不都合な事実を隠そうとしている人間特有の、のれんに腕押し答弁」とは桔梗ゆづる(麻生久美子)による校長評。まるでどこかの政治家のようだが、まさに不都合な証拠を全部シュレッダーにかけてしまったのだから、そのまんまである。
4機捜の面々は、捜査によって違法薬物「ドーナツEP」が背後にあることを突き止める。陸上部の卒業生が「ドーナツEP」を売りさばいたことで、陸上部は廃部になったのだ。その割を食ったのが何も関係のない成川や勝俣たち。校長は「連帯責任」と言う。九重は「自己責任」と言っていた。今の日本の若者は、いつの間にか2つの責任を負わされてがんじがらめになっている。
今回の白眉は、少年犯罪を厳しく罰するべきと語る自己責任論者・九重に対する桔梗の返答だった。
桔梗:「もちろん相手が未成年だとしても、取り返しのつかない犯罪はあって、それ相応の罰は受けてもらう。だけど、救うべきところは救おうというのが少年法」
九重:「その少年自身が、未成年をかさに着て好き放題していてもですか?」
桔梗:「私はそれを、彼らが教育を受ける機会を損失した結果だと考えてる。社会全体でそういう子どもたちをどれだけ掬いあげられるか。5年後、10年後の治安は、そこにかかってる」
九重の言葉は、まるでネット世論そのもの。それに対する桔梗の言葉のロジカルで未来志向なことといったら!
桔梗の言葉は機捜の存在意義を言い表している。罪を犯した者を厳しく処罰するだけでなく、彼らがいたずらに罪を重ねないように素早く検挙するのが機捜の役割。桔梗の理念を理解しているのが志摩であり、それを野生の勘で感じ取ったのが伊吹である。第1話で伊吹はこう言っていた。
「機捜っていいな。誰かが最悪の事態になる前に止められるんだよ。超いい仕事じゃん!」
野木亜紀子の『アンナチュラル』では「法医学は未来のための仕事」と繰り返し語られていたが、同じように言うなら「機捜は誰かが最悪になる前に止められる仕事」ということになる。
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少年たちのいくつもの「分岐点」
成川たちは虚偽の通報で最後の走りをやろうとする。円陣が泣けたよ。「やる気はあるか! 希望はあるか! 未来はあるか!」と叫んでも、どれも大人たちに塞がれてしまった。割り切れ、と言われても簡単に割り切れやしないだろう。彼らはエネルギーをちっぽけな犯罪に費やすしかない。
しかし、警察の科学力と機捜の機動力の前には高校生たちはなすすべがなく、1人ひとり捕まっていく。二手に別れた少年たちを、工場側に追う伊吹。成川が走る国道側には九重がいた。そんな最中、真木カホリが本物のわいせつ犯人(岡崎体育)に襲われてしまう。逃げる少年たちに言葉をかける4機捜の面々。
「俺は今から、襲われた真木カホリを助けに行く。逃げるか来るか、今決めろ」
ここに大きな「分岐点」がある。伊吹にも、志摩にも、「正しい道に戻してやらんとな」と語っていた陣馬(橋本じゅん)にも、少年たちに語りかける言葉があった。押し戻す力があった。しかし、「1人で走ればいいじゃないですか」と語っていた九重は、成川に語りかけるべき言葉を持っていない。そのまま夜の街へと消える成川――。彼にとって、工場側か、国道側かが「分岐点」だったのだ。
わいせつ犯がカホリを襲おうとしているところへ飛び込む伊吹と志摩。水に落ちた2人に犯人がスタンガンをふりかざしたところへ米津玄師の「感電」が流れるのは気がきいている。もちろん犯人は即座に逮捕。泣き崩れるカホリと勝俣。しかし、成川は行方をくらましてしまい、その先で出会ったのが謎の男(菅田将暉)だった。彼は「ドーナツEP」を大量に持っていた。九重はパチンコ玉を落としてしまったのだ。
菅田将暉のファッションは赤いレザージャケットと派手な柄シャツ。これは映画『ファイト・クラブ』でブラッド・ピットが演じたタイラー・ダーデンをモチーフにしているものと思われる。タイラー・ダーデンは平凡な主人公を破壊と騒乱に導く謎の男だ。「善と悪では治められないグレーゾーン」(菅田のコメントより)を体現する男の存在から目が離せない。
『MIU404』は配信サービス「Paravi」で視聴可能(有料)
文/大山くまお(おおやま・くまお)
ライター。「QJWeb」などでドラマ評を執筆。『名言力 人生を変えるためのすごい言葉』(SB新書)、『野原ひろしの名言』(双葉社)など著書多数。名古屋出身の中日ドラゴンズファン。「文春野球ペナントレース」の中日ドラゴンズ監督を務める。
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