『MIU404』第9話|「間に合ったぁっ!」感動のあまり最終回かと思った
綾野剛と星野源、最高バディ誕生の刑事ドラマ『MIU404』(TBS金曜夜10時)。衝撃的な展開だった9話で、ついに最大の敵の正体も見えてきた。野木亜紀子脚本作品はやっぱり一筋縄ではいかない。興奮の名セリフ連発を振り返りながら、大山くまおさんが考察する。
今夜放送第10話の前にじっくりおさらいを。
「間に合った」男たち
「間に合ったぁっ!」
「間に合った……!」
抱き合う伊吹(綾野剛)と志摩(星野源)の姿を見て、「これは最終回なんじゃないか?」と思わされた先週の『MIU404』。それぐらい感動的なシーンだった。
第9話「或る一人の死」は、伊吹が恩人・蒲郡(小日向文世)の犯罪を止めることができなかった前回のラストシーンから始まる。志摩が振り返る。「伊吹は間に合わなかった。本人が一番よくわかってる」。1話で「機捜っていいな。誰かが最悪の事態になる前に止められるんだよ? 超いい仕事じゃーん!」と言って志摩を感動させていた伊吹が、大切な人が最悪の事態になるのを止められなかった。伊吹は間に合わなかった。
志摩もまた元相棒・香坂義孝(村上虹郎)の死に間に合わなかった。その二人が窮地に陥っていた羽野麦(黒川智花)を助け出すことができた。二人は「間に合った」のだ。これまでをじっくりと描いてきた分だけに、ずっと反目してきた二人が抱き合ってまで喜びを表現するシーンに胸打たれたのだ。
4機捜の若手刑事、九重(岡田健史)も間に合わなかった男だった。彼が取り逃がした成川岳(鈴鹿央士)は謎の男・久住(菅田将暉)と接触して悪の道に堕ちていたが、最後に九重も間に合った。手を差し伸ばして、成川を奈落の底から助け上げて言った「全部聞く!」には万感の思いがこもっていた。
「表の世界」と「裏の世界」を隔てるもの
第9話では、絶大な権力と金を握る黒幕、エトリ(水橋研二)がついに正体を表した。羽野麦に執着するエトリは麦に懸賞金をかけ、それが暴力団を介して、成川、ナウチューバーのREC(渡邉圭佑)へと伝わっていく。
隊長の桔梗ゆづる(麻生久美子)がずっと追ってきたエトリは、姿を見せない「悪」だった。弱い女性を食い物にし、暴力団を隠れ蓑にして、社会の裏側で荒稼ぎする。権力と金を持つ「悪」。しかし、姿を見せれば、案外わかりやすい「悪」だった。
一方、不気味さが増していたのがRECだ。成川に麦を探すよう依頼されると、偽の情報をSNSで拡散して「人の善意」につけこむという最悪の手段をとる。違法行為をしているわけではないが、あっけらかんと人を騙し、軽々と人を追い詰める。これも「悪」だ。
とはいえ、彼は悪いことをしている自覚すらないのかもしれない。それはメロンパン号への「NO MELON」や成川の家の壁にあった「嘘の110番は犯罪です」などの落書きとも通じている。どちらも嘘は書いていない。やっている人間は、自分は正しいことをしているとさえ思っているのかもしれない。SNSでも似たような行為は日常的に見られる。匿名で人を傷つけ、追い詰めていく「悪」。
金と権力を持つ「悪」と姿を見せない匿名の「悪」に狙われる麦は、伊吹と志摩に「全部、表ならいいのにね」と話す。「表の世界だけ。悪い人が捕まって、頑張ったら報われて、正しいことをした人が後悔しないで済む世界」。
「表の世界」とは、力の弱い者や声の小さなマイノリティが力の強い者や多数を占める者の欲望のままに踏みつけられない世界、金や自己承認欲求のために他人を匿名で傷つけない世界のことだ。
外国人技能実習生も、裏カジノで罠にはまって風俗に沈められた女性も、「人」扱いされていなかった。彼ら彼女らは、ただの数字であり、ただの金づるである。RECが活躍するナウチューバーの世界も、登録者数や再生数が上がれば収入が上がり、下がれば収入も下がる。数字の向こう側に「人」がいるとは考えられていない。久住も同じ世界の住人だろう。だから彼はいとも簡単に人を「BAN」できる。
「表の世界」にとどまるためには、そこに「人」がいるという想像力が必要になる。外麦の言葉を聞いた伊吹は、窓の外のマンションを指差して言う。
「窓の一つ一つに人がいて、んー、なんつーかなぁ、みんな暮らしてるんだなぁ、って」
この想像力があるかないかが、「表の世界」と「裏の世界」を隔てている気がしてならない。
麦と桔梗、女たちの戦い
エトリにさらわれた麦は、「寒くて、暗くて、狭いところ」に沈められる。麦がエトリに捕まったと聞いたときの伊吹の顔面がすごかった。すさまじいジャンプとダッシュで澤部(福山翔大)に追いついて殴りかかる伊吹。その横で「エトリに殺される前にこいつに殺されるぞ!」と叫ぶ志摩とのコンビネーションが素敵。
麦と成川は井戸の底に沈められていた。井戸とは怪談「番町皿屋敷」でお菊が皿を割っただけで沈められた場所であり、『リング』で殺害された山村貞子が投棄された場所である。つまり、弱い立場の女性が人知れず抹殺される象徴のような場所だ。
しかし、4機捜の面々はチームワークを駆使して井戸の場所を割り出し、麦の救出に成功する。彼らは間に合ったのだ。麦の執念によって、エトリも機捜に逮捕される。
救急車の中で麦は桔梗に「ありがとう、一緒に戦ってくれて」と感謝を伝える。麦とは踏まれて強くなる植物だ。桔梗は真夏でも涼しげに咲き誇る丈夫な花として知られている。彼女たちの戦いの結果が、少しでも世界を良い方向に動かしてくれることを望みたい。
しかし、第9話は衝撃のラストを迎える。「クズを見捨てる、の久住や」の名セリフを発した久住が、エトリの乗った機捜車をドローンで爆撃! エトリを「BAN」してしまったのだ。
ラスボスは久住だと判明したが、正体が見えず、手段を選ばない敵と、はたして4機捜の面々はどのように戦うのか? 23日に放送された「米津玄師×野木亜紀子『MIU404』対談」(TBSラジオ)では、9話放送後の段階で最終話の脚本を執筆中だと打ち明けていたが……。ラスト2話から目が離せない。
『MIU404』は配信サービス「Paravi」で視聴可能(有料)
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文/大山くまお(おおやま・くまお)
ライター。「QJWeb」などでドラマ評を執筆。『名言力 人生を変えるためのすごい言葉』(SB新書)、『野原ひろしの名言』(双葉社)など著書多数。名古屋出身の中日ドラゴンズファン。「文春野球ペナントレース」の中日ドラゴンズ監督を務める。
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