『MIU404』第2話|1話の「動」と対照的な「静」でも魅せた星野源&綾野剛に涙腺崩壊
走る綾野剛、クールな星野源の最高バディ誕生の刑事ドラマ『MIU404』(TBS金曜夜10時)。先週の第2話には朝ドラ『スカーレット』で大人気を博した松下洸平が犯人役で登場。野木亜紀子脚本作品を考察してきた大山くまおさんは、メッセージの切なさに落涙したようだ。
今夜放送となる第3話の前にじっくりおさらいを。
→綾野剛×星野源『MIU404』1話。『太陽にほえろ!』のように走る綾野剛、最高の刑事ドラマ誕生の予感
「信じること」と「謝ること」
「無実でいてほしかったなぁ……」
綾野剛、星野源のダブル主演、野木亜紀子脚本のドラマ『MIU404』(読み方は「ミュウヨンマルヨン」)。
第4機動捜査隊に属する“野生のバカ”こと伊吹藍(綾野)と“自分も他人も信用しない”志摩一未(星野)の凸凹バディが24時間というタイムリミットの中で初動捜査を行う、一話完結のノンストップ「機捜」エンターテインメントだ。
カーアクション満載だった第1話が“動”なら、先週放送された第2話は“静”。ゲストに『スカーレット』で八郎役を演じた松下洸平を迎え、「信じること」と「謝ること」をめぐる物語が繰り広げられた。筆者は2回ぐらい泣いちゃったよ。
「逃げろ! 無実を証明しろ!」
伊吹と志摩がパトロールをしている最中、伊吹が隣の車の異変に気づく。そこへ殺人事件の容疑者が凶器を持って逃走したという一報が。殺されたのはハウスクリーニング会社の専務・松村(林和義)。伊吹たちの隣の車には、ハウスクリーニング会社の社員で容疑者の加々見崇(松下洸平)と、彼に脅されている初老の夫婦、田辺(鶴見辰吾)と妻の早苗(池津祥子)が乗っていたのだ。伊吹たちはそのまま加々見の乗った車を追跡する。
無実を主張し、どこかひ弱なところのある加々見に対して、田辺夫妻は態度を和らげていく。彼らは中3の頃に自殺した一人息子の面影を加々見に重ねていた。いつしか田辺夫妻は加々見の無実を信じるようになる。
ひとつ目のキーワードは「信じること」。
加々見が主張する「無実」を信じる人は誰もいなかった。田辺夫妻は盗みを働いたと疑われた息子のことを信じることができず、無理やり頭ごなしに謝らせて、息子を自殺に追い込んでしまった。加々見に息子の面影を見る田辺夫妻は加々見を信じることにした。正しくても、正しくなくてもいいから、信じたい。そう思ったのだろう。
「信じること」をめぐるやりとりは伊吹と志摩の車の中でも行われていた。隣の車に容疑者が乗っていると主張する伊吹に対して、何事にも懐疑的な志摩は「信じていない」と言いつつ、伊吹の行動を止めることはない。伊吹は誰にも警察官だと信じてもらえない男だが、唯一信じてくれる人がいたらしい(それが誰かはまだわからない)。だから、彼は人を信じることができるようになった。やがて、伊吹は加々見の身の上話を聞き、田辺夫妻と同じように無実を信じるようになる。そもそも伊吹は「まるごとメロンパン」の中にメロンが「まるごと」入っていると信じてしまう純真無垢な男なのだ(バカとも言う)。
サービスエリアで下りた田辺夫妻と加々見。夫妻はすっかり加々見を守ろうとする姿勢になっており、伊吹と志摩が加々見を確保しようとすると、進んで身を投げ出して加々見を逃がそうとする。
「逃げろ! 逃げろ! 無実を証明しろ! 行けーっ!」
夫妻の声を背に受けて、一目散に走りはじめる加々見。鶴見辰吾、池津祥子のベテランコンビの力演と松下洸平のまっすぐな眼差しにやられて、思わず涙腺が緩んでしまった。これが泣きポイントのひとつ。
「加々見くん、ごめんね」
ふたつ目のキーワードは「謝ること」。伊吹は志摩に殴られたことを謝るように求めていたが、加々見をめぐる状況はもっと複雑で深刻だった。
加々見は会社の松村専務に抗議していた。専務は社員にパワハラを繰り返し、社員に無理を強いるだけでなく、業績の低迷の責任もなすりつけていた。松村とそっくりだった男が一人いた。それが加々見の父親だった。加々見の父親は息子に体罰を与え、精神的にも虐待し続けていた。加々見が田辺夫妻に頼んで山梨に車を走らせていたのは、自分の無実を証明するためではなく、父親を殺して自分も死のうとしていたからだ。
「あいつは一度も、一度だって謝らなかった! 松村そっくりだよな」
松村も父親も、腕力と権力という二つの力で加々見をねじふせ、屈服させようとした。もちろん、どちらも謝ったりなんかしない。はずみで松村を刺してしまったが、殺意はなく、刺した後は懸命に止血しようとしていた。
加々見が殺そうとした父親はすでに2年前に不慮の事故で亡くなっていた。彼は駆けつけた伊吹と志摩に逮捕される。連行される加々見に謝罪の言葉をかけたのは、田辺夫妻だった。
「加々見くん、ごめんね、最後まで付き合うって約束したのに、ごめんね」
いつも故郷で見ていた富士山が赤く染まるのを仰ぎ見た加々見は、田辺夫妻に深々と頭を下げる。田辺夫妻は加々見を最後まで信じきることで救われた。加々見は自分を信じてくれたことと「ごめんね」という言葉に救われたのだろう。
加々見を追い詰めた「あいつ」とは何を指すのか?
伊吹の「相手がどんなにクズでも、どんなにムカついても、殺したほうが負けだ」という正論、田辺夫妻の深い情、加々見の謝罪、最後に志摩が伊吹に「殴って悪かった、ごめん」と謝ったことによってきれいに収まったかのように見える第2話だが、視聴後には重苦しいものがずっしりと残る。
「どうして……どうして……こんなはずじゃない。こんなはずじゃない! なんでこうなった……」
これは松村を刺した後、憔悴した加々見が漏らした言葉。この言葉は加々見の人生すべてを指しているように見える。現在28歳の加々見は、常に父親の世代から踏みつけられ、搾取され続けて生きてきた。虐待する父親から逃れて上京した後はネットカフェ難民状態で、ようやく就職して「人間らしい生活」ができるようになったと思ったら、再び父親と似た松村に踏みつけられ、搾取される。若年層の貧困問題は、けっして彼ら自身だけの問題ではなく、彼らを搾取し続ける上の世代に問題がある――。
「あいつがしたことをわからせて、僕がこうなった責任を、あいつが取るべきなんだ!」
加々見が言う「あいつ」は父親のことだが、まるで若者にツケを回して生き延びてきた父親世代全体を指しているようにも見える。父親世代は加々見を追い詰めるだけ追い詰めて、誰も救いの手を伸ばさなかった(唯一、救いの手をさしのべたのは同級生の岸だけだ)。虐待され、貧困に苦しみ、搾取される加々見は誰も信じることができなかった。そして誰からも謝ってもらえなかった。だからこそ、父親世代の一人である田辺の謝罪が、加々見の心に届いたのだろう。
今夜放送の第3話は物語の分岐点なる模様(サブタイトルも「分岐点」)。『アンナチュラル』の刑事コンビ、毛利(大倉孝二)と向島(吉田ウーロン太)も登場するよ。
『MIU404』は配信サービス「Paravi」で視聴可能(有料)
文/大山くまお(おおやま・くまお)
ライター。「QJWeb」などでドラマ評を執筆。『名言力 人生を変えるためのすごい言葉』(SB新書)、『野原ひろしの名言』(双葉社)など著書多数。名古屋出身の中日ドラゴンズファン。「文春野球ペナントレース」の中日ドラゴンズ監督を務める。
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