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『MIU404』第6話|綾野剛が星野源に「まあ、安心しろ。俺の生命線は長い」手のひらの明るさ

 綾野剛と星野源、最高バディ誕生の刑事ドラマ『MIU404』(TBS金曜夜10時)。第6話は、ドラマに不吉な影を投げかけていた志摩(星野)の過去の真実に伊吹(綾野)が迫った。二人の関係の大きなターニングポイントとなった展開を、ドラマを愛するライター、大山くまおさんがじっくりと解説する。

 今夜放送第7話の前にじっくりおさらいを。

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「相棒殺し」志摩一未の謎

 綾野剛、星野源主演の『MIU404』。先週放送された第6話「リフレイン」は、日本社会の暗部をリアルに描いた第5話とはうってかわって、志摩(星野)の凍てついた心に伊吹(綾野)をはじめとする4機捜の面々がチームワークで灯りをともすようなエピソードだった。

 かつて捜査一課の敏腕刑事として鳴らした志摩だったが、相棒だった香坂(村上虹郎)が不審な死を遂げたことで、かけられた汚名が「相棒殺し」。その言葉に反応したのが、現在の相棒、伊吹である。

 6年前(『MIU404』の舞台は2019年なので2013年)、香坂は自宅マンションの非常階段から転落して死んでいた。遺体の第一発見者は志摩。前日には志摩と香坂が激しく言い争っている姿が目撃されていた。他殺である証拠は発見されなかったが、志摩をよく思わない捜査一課の同僚たちが汚名を着せたのだ。

「行く先を変えるスイッチは何か」

 人生にはいくつものスイッチがある。未来を変えるスイッチもあれば、道を踏み外すスイッチもある。これはかつて志摩が九重(岡田健史)に語った言葉だ。迅速に事件を解決に導く機捜の仕事は、人が犯罪を重ねる前に元の道に押し戻すスイッチのようなもの。

 伊吹は九重とともに当時のことを知る人たちを訪ね歩く。捜査一課の刈谷(酒向芳)、同僚の陣馬(橋本じゅん)、そして4機捜の隊長、桔梗(麻生久美子)。二人を冷たくあしらおうとする桔梗に、伊吹はこう言う。

「玉突きされて入った俺が、404で志摩と組むことになって、二人で犯人追っかけて、その一個、一個、一個が全部スイッチで! なんだか人生じゃん!」

 人生はスイッチの連続だ。伊吹にとって、志摩はどんなスイッチなのか。彼はそのことが知りたかった。スルーできなかった。熱さがほとばしって、思わず笑みまで浮かべてしまう綾野剛の演技力が素晴らしい。

「一個一個、大事にしてえの。諦めたくねえの。志摩と全力で走るのに、必要なんすよ」

 伊吹のポジティブさはこれまでずっと描かれてきたが、第6話では彼のフラットな感覚が強調されていた。志摩に対して偏見を剥き出しにする刈谷に敵対もしない(むしろ同調する)が、彼の言うことを鵜呑みにもしない。それは志摩を信じたいという気持ちがあるからというより、刈谷の憶測に信憑性がないからだ。志摩と香坂が追っていたタリウム連続殺人事件に話が及び、九重が「怖い女ですね」と言うと、伊吹は「どっちがだよ」と呟く。彼には平気で嘘をついて女性を弄ぶ男のほうが怖いと感じるフラットな感覚がある。香坂が遺した手紙のことを九重が「遺書」と言ったときも「手紙な」と訂正していた。

 偏見や憶測、大人の世界の常識にとらわれない、無邪気な子どものような伊吹のフラットさが、ポジティブさを推進力にして、やがて暗く閉ざされた志摩の心に光をあてていく。

重要な二つのミスリード

 ドラマは二つの大きなミスリードで視聴者を引っ張っていった。

 ひとつは、6年前、志摩が香坂と組んで行っていたタリウム連続殺人事件の捜査について。志摩と香坂のもとに匿名のメールが寄せられる。そこには殺された二人の男と不倫関係にあった女についての情報が記されていた。女を疑う香坂は、偽のメールで証拠をでっちあげようとするが、このことに気づいた志摩は激昂する。

「法を守らずに力をふるったら、それは権力の暴走だ!」

 そういえば、第1話でも志摩は規則の大切さを伊吹に説いていた(ゴミ箱を蹴飛ばしながら)。これは志摩のポリシーなのだろう。志摩から叱責された香坂は退職を決意する。

 しかし、香坂が追っていた女は、犯人の南田弓子(範田紗々)ではなく、同僚の中山詩織(北浦愛)だった。中山は捜査を撹乱して楽しんでいただけだったのだ。ミスリードで視聴者を翻弄しつつ、香坂の未熟さを炙り出す脚本の手腕にうならされる。

 もうひとつのミスリードは、志摩と香坂のやりとりだ。映像では志摩が屋上でウィスキーを傾ける香坂のもとを訪れた様子が描かれる。だが、これは事実ではなく、志摩の夢だった。

「香坂……刑事じゃなくても、お前の人生は終わらない」

 夢の中で志摩はこう言うが、本当は言っていない。香坂が退職願いを書いているときに声をかけて、自分の責任について語っていたが、これも本当は言っていない。志摩は退職願いを書いている部屋にも、香坂が待つ屋上にも行っていなかった。

「行かなかった」

 志摩はこれまで発したことのないような震えた声で、伊吹に告白する。

 司法解剖の結果、香坂は非常階段の2階あたりから落ちて亡くなっていたことがわかっていた(担当医は『アンナチュラル』の三澄ミコトだった)。事件性のない、事故。伊吹は桔梗から見せてもらった報告書でその真実にたどりついていた。

 だが、志摩は香坂を本当に「殺した」と思っていた。厳しい言葉で香坂を追い詰め、香坂からの言葉を無視してしまった。あのとき、屋上に行ってやればよかった。励ましの言葉をかけてやればよかった。後悔は何度も何度も何度もリフレインする。

「スイッチはもういくらでもあった。だけど、現実の俺は、全部それを見過ごした。見ないふりした」

 志摩の夢の中では、香坂のいる屋上で、香坂が退職願を書く部屋で、それぞれ白熱電球の灯りがともっていた。これは香坂の人生を変えるスイッチだ。だが、現実では志摩はそれをともすことができなかった。そして香坂は死んだ。

 こう書くと悲劇的だが、志摩は(たぶん)初めて、胸の内を相棒である伊吹にすべて吐露できた。伊吹がさしのべた手が、志摩の心に届いたのだ。これだけで十分ドラマとして成立しているのだが、『MIU404』は「作り話」のようなエンディングを用意してくれた。

二つの手のひらが響き合う

 香坂が亡くなった現場を訪れていた伊吹は、あるものを見つける。それは屋上から見えるマンションから見える垂れ幕だった。

 2013年8月8日深夜2時、香坂は屋上で酒を飲んでいたが、目の前のマンションで発生した侵入事件を目撃していた。通報し、さらに現場に踏み込もうとして、香坂は階段で足を滑らせて転落した。つまり、失意のうちに死んだのではなく、ひとりの警察官として死んでいったのだ。香坂の通報で、侵入者から被害者は守られた。

「その人にくれぐれもお礼を言っといてください。あなたのおかげで元気でーす!」と明るく女性(垣内彩未)に言われた志摩は、精一杯の表情をつくる。

「……はい、必ず伝えます」

 笑いもせず、泣きもせず、無表情なんだけど、冷たくもなく。「憑き物が落ちたような」という表現がぴったりだと思う。熱くほとばしる綾野剛に対して、抑制された星野源。見事な演技力のコンビネーションだった。

 志摩はひとり、香坂が死んだ場所のアスファルトを手のひらで撫で続ける。

「お前の相棒が伊吹みたいなヤツだったら……生きて、刑事じゃなくても、生きて……やりなおせたのになぁ……。忘れない。絶対に忘れない」

 香坂のことを忘れないようにするためにも、志摩は「ブーメラン」を食らい続けながら刑事を続けるしかない。そんな志摩を、伊吹は明るく出迎える。

「まあ、安心しろ。俺の生命線は長い」

 すごいセリフだと思う。伊吹の明るさ、ポジティブさ、相棒を亡くした志摩への気遣い、すべてがギュッと凝縮されていて、それでいておかしみがある。志摩の心も、見ている人たちの心も、フッと軽くする。志摩は死んだ相棒に、かつてできなかった握手をするように手のひらを向けていたが、伊吹は生きている相棒に手のひらをドーンと差し出す。

 なお、現場では塚原あゆ子監督が、綾野に「安心しろ」に力を込めるように、星野に「伊吹の『生命線』という言葉が(心に)ドーンとくるように」と説明していたそう。

 二人はバディとしてあらためて絆を再確認したが、新たな事件の影が忍び寄ってきているようだ。おじさん刑事の陣馬が奮闘し、謎の男(菅田将暉)が動き始める第7話をお楽しみに。

『MIU404』は配信サービス「Paravi」で視聴可能(有料)

文/大山くまお(おおやま・くまお)

ライター。「QJWeb」などでドラマ評を執筆。『名言力 人生を変えるためのすごい言葉』(SB新書)、『野原ひろしの名言』(双葉社)など著書多数。名古屋出身の中日ドラゴンズファン。「文春野球ペナントレース」の中日ドラゴンズ監督を務める。

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