新『半沢直樹』6話|仲間たちのクビを切るのはつらい、だが会社を守るためには…闘う石黒賢
堺雅人主演『半沢直樹』新シリーズ。新章・帝国航空編が急展開する6話は、帝国航空の財務部長役の石黒賢、半沢の前の帝国航空の担当者役の佃典彦の活躍が光った。日曜劇場研究ライター近藤正高が、ふたりのフィルモグラフィーを紹介しながらストーリーを解説する。帝国航空や東京中央銀行はどこに向かっているのだろう、ドラマの中のことながら、身につまされる。
石黒賢の闘いをやめない演技
「あなた方には本当に感謝しています。これだけの計画をつくってくれたからこそ、私も帝国航空を建て直せるという希望を持てた。でもそれと同じぐらい、半沢さん、あなたのことが憎い! 会社を守るにはこれだけの人員を整理しなきゃいけないんです。必要なことだと頭ではわかっていますよ。でもね! いままで会社を支えて来てくれた彼ら一人ひとりの思いを考えると……」
経営危機に陥った帝国航空に乗りこみ、銀行の担当者として再建計画を提示した半沢(堺雅人)。第5話で多くの社員たちから支持を得たはずの計画だが、いざ着手されると難航する。とりわけ余剰人員の削減は労組の抵抗により、目標数の5000人のうちまだ約1000人を残していた。半沢たちも、リストラの対象となった社員たちのため、新たな就職口を探すなど可能なかぎりの手を尽くし、どうにか残り約500人というところまでこぎつける。
しかし、そのなかで悩み苦しんでいたのが、実際にリストラ対象を選ぶ帝国航空の財務部長・山久(石黒賢)だ。対象となった社員たちへの説明会では、たとえ再就職先が決まっても、これまでと同じ仕事を続けられる保証はないとあって、山久に批判が集中する。もちろん山久だって、仲間たちのクビを切るのがつらくないわけがない。それでも会社を守るためにはやらなければならない……。冒頭にあげたセリフは、そんな複雑な気持ちが、半沢があることを確認するため訪ねてきた際、ふとしたはずみで強い言葉となって出たものであった。
なお、山久役の石黒賢は、今年公開された主演映画『時の行路』で、今回とは逆にクビを切られる側の人間を演じていた。石黒の役どころは大手自動車メーカーの派遣社員で、もうすぐ正社員も間近というところでリーマンショックが起き、いきなり解雇されてしまう。ここから彼は同僚たちとともに裁判で会社と争うことになるのだが、その間、妻が病気で倒れるなど不幸があいつぐ。映画では、そうした状況のなかでもがき苦しみながらも、けっして闘いをやめない石黒の演技が強く印象に残った。彼のなかで、この役の経験は、きっと懊悩する山久を演じる際にも活かされたに違いない。
先週8月23日放送の『半沢直樹』第6話では、その山久をキーパーソン的な位置づけに据えて物語が展開した。
片岡愛之助、再登場
半沢は、帝国航空への債権を放棄せよというタスクフォース(国土交通大臣が私的に設置した再建検討チーム)の求めを、法的根拠がないと拒否したために、そのリーダーの乃原(筒井道隆)を怒らせてしまう。このあと、乃原が国交相の白井(江口のりこ)とともに東京中央銀行へあらためて債権放棄を訴えてきたときにも、半沢は態度を崩さず、常務の紀本(段田安則)があわててとりなす始末であった。
半沢の態度に怒った政府は、銀行へ金融庁を差し向け、調査させる。ここでまたしても半沢の前に現れたのがあの男、金融庁の検査官の黒崎(片岡愛之助)だった。このとき、黒崎は、帝国航空の再建計画案を銀行が金融庁に提出するにあたり、数字を改竄したのではないかと指摘する。たしかに帝国航空が正式に発表した再建案では、金融庁の承認を受けた案とくらべると、廃止する路線数も削減する人員数も少なめに記されていた。これは一体どういうことなのか。さしもの半沢も動揺するなか、彼の前任の帝国航空の担当者・曾根崎(佃典彦)が、帝国航空側の事務的なミス(数字の誤記)だと伝え、その場を収める。曾根崎が先方に確認したところ、山久がミスを認めたという。
第6話において半沢の最大の敵として立ちふさがったのは、身内であるこの曾根崎だった。曾根崎の発言に疑いを抱いた半沢は、山久に直接確認に赴くが、相手は自分のミスだとの一点張り(冒頭のセリフはこのとき出た)。このままでは半沢は帝国航空の担当から外され、替わって曾根崎が返り咲くことになりかねない。その判断は、中野渡頭取(北大路欣也)による直接面談にゆだねられることになった。
面談ではまず曾根崎が切り札として、山久から預かったという要望書を提示する。そこには半沢を担当から外すよう要望する旨が書かれていた。だが、これに対し半沢は、本当に山久が書いたのかと疑問を呈す。そのうえで彼も切り札として、状況説明書を提示した。そこには、例の金融庁に報告した数字は帝国航空の関与するところではないと、曾根崎の言い分とはまったく食い違うことが記されており、当人をあわてさせる。
ここから半沢の逆襲が始まる。今度は山久から預かったという音声を流した。そこでは、曾根崎が山久に対し、リストラされる人員をいままでどおり帝国航空で働けるようにするからと、あなたが数字を書き間違えたことにしてほしいと言葉巧みに頼み込む様子がばっちり録音されていた。
半沢はこのとき、帝国航空のリストラ要員のうち残る約500名の受け入れ先として、成長著しいLCCのスカイホープ社と話をつけていた。山久には、その見返りとして、翌日曾根崎と会う際にその会話を録音するよう頼んだのである。このやりくちに曾根崎は「これは犯罪だ。どこまで卑怯なんだ、きさま〜っ!」と逆切れするが、半沢から「どの口が言う!」と一喝(イラスト参照)、「おまえは中央銀行の、いや、日本中の全バンカーの恥さらしだ!!」とまで罵られてしまう。同席した紀本や大和田(香川照之)からも叱責され、曾根崎は崩れ落ちるように頭取に謝罪するしかなかった。しかしこのとき、半沢の頭には、曾根崎の不正は何者かに命じられてのことではないかとの疑念がもたげていた。
曾根崎を演じる佃典彦とは
結局、中野渡頭取は今回の不正を認めたうえ、金融庁から業務改善命令の処分を受ける。他方で、スカイホープ社の国交省に申請していた新規路線に対し、大臣の白井が認可しないという処置に出た。もちろん、半沢の帝国航空再建策を阻むためである(スカイホープとしては飛んだとばっちりでしかないが)。せっかくうまくいきかけながら、一転して八方をふさがれてしまった半沢。テレビで頭取が金融庁の職員たちに頭を下げる姿を見ながら、あらためて「やられたらやり返す、倍返しだ!」の決まり文句を叫ぶのだった。そのためにもまず、不正を仕掛けた裏切者をあぶり出さねばならない——。
第6話では、苦悩する山久とは対照的に、佃典彦演じる曾根崎が見事なヒールっぷりを見せてインパクト大だった。佃はいままでに地元のNHK名古屋制作のドラマで見かけることはあったが、全国放送のドラマ出演はひょっとするとこれが初めてではないだろうか。だとすれば今回の起用は大抜擢といえる。
もっとも、佃は演劇の世界ではすでに30年以上のキャリアを持つベテランである。前回のレビューでも書いたとおり、名古屋で「劇団B級遊撃隊」を主宰する彼は、劇作家・演出家でもある。もっとも影響を受けた劇作家・演出家は竹内銃一郎で、大学時代には、竹内主宰の劇団「秘法零番館」の公演に足繁く通ったという。この劇団の看板俳優のひとりこそ誰あろう、『半沢』で帝国航空の神谷社長を演じる木場勝己であった。ちなみに、大学4年で就職が内定しても役者への夢を捨てがたかった佃が、秘法零番館に劇団員を募集しているか電話で問い合わせた際、応対したのが木場だったとか。結局、このとき劇団員は募集しておらず、佃は大学の芝居仲間と劇団を旗揚げすることになる(文化科学研究所編『パフォーミングアーツにみる日本人の文化力』水曜社)。
佃はその後、2005年に、文学座の公演のために書いた戯曲『ぬけがら』で岸田國士戯曲賞を受賞する。これは主人公の老父が次々と脱皮して若返っていくという話だった。この一見突飛ともいえる作品を佃は、母の死後、認知症の父と同居した経験をもとに書いたという。白水社より単行本化された同作の「あてがき」(「あとがき」の誤記ではない)によれば、父は当初、母の死をなかなか理解できず、寝たきりの状態だったのが、その後しだいに元気を取り戻し、一人で生活するまでになったとか。
さて、帝国航空も東京中央銀行も、果たして古い殻を脱ぎ捨てて、新たに生まれ変わることができるのだろうか? 佃演じる曾根崎には今回の不正について、ぜひその口から真相をあきらかにしてもらいたいものである。
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『半沢直樹』(新シリーズダイジェスト)は配信サービスParaviなどで視聴可能(有料)
半沢直樹スピンオフ企画「狙われた半沢直樹のパスワード」は配信サービスParaviで視聴可能(有料)
『半沢直樹』(前回シリーズ)は配信サービスParaviで視聴可能(有料)
文/近藤正高 (こんどう・ まさたか)
ライター。1976年生まれ。ドラマを見ながら物語の背景などを深読みするのが大好き。著書に『タモリと戦後ニッポン』『ビートたけしと北野武』(いずれも講談社現代新書)などがある。
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