『MIU404』第7話|伊吹×志摩に流れる空気感が変わった!社会問題満載のテーマ展開に驚嘆、感涙
綾野剛と星野源、最高バディ誕生の刑事ドラマ『MIU404』(TBS金曜夜10時)。6話でバディとしてのつながりを確立した伊吹(綾野)と志摩(星野)の会話が楽しい7話。中年の上司・陣馬(橋本じゅん)の親子エピソードも加わり、「大人であること」の大切さを問う展開を、ドラマを愛する大山くまおさんが解説する。
今夜放送第8話の前にじっくりおさらいを。
詰め込んでいるけど、無理がなくて、面白い
「10年間、誰かを恨んだり、腐ったりしないで、本当に良かった。俺はラッキーだったなぁ……」
綾野剛、星野源主演のドラマ『MIU404』。先週放送された第7話「現在地」は、重い展開が多かったこれまでと比べると、コミカルな味つけがされたエンタメ寄りのエピソードだった。
とはいえ、主人公たちに変化が起こり、これまで繰り返してきたテーマを語り、現代社会が抱える問題を照射し、泣ける展開もあったりして、最後には謎めいた人物が動きはじめた。詰め込んでいるけど、無理がなくて、当然のように面白い。脚本の野木亜紀子をはじめとするスタッフの手際の良さに、相変わらず感嘆するばかりだ。
理想のバディへと進化した伊吹と志摩
最初のキーワードは「相棒」。4機捜でバディを組む伊吹藍(綾野)と志摩一未(星野)の間に流れる空気が、これまでと比べて驚くほど柔らかくなっていた。特に、これまで刺々しかった志摩は、まさに憑き物が落ちたよう。すべては第6話で伊吹によって「相棒殺し」の過去が清算されたことによる。志摩は伊吹の力量を認め、心根の良さを理解し、絆も再確認した。
昼食のデリバリーの話をしていても伊吹を小馬鹿にするような態度はとらなかったし、大量のメロンパンが届いて特に文句を言うでもなく素直に食べようとしていた。事件現場でのやりとりもスムーズで、伊吹に「志摩は?」と考えを聞かれても、伊吹の考えを先に聞いていた。伊吹は「ん?」とほんの一瞬驚くが、すぐに「ニャンか気になる」と言うと、「珍しく気が合うな」と自分も同じ考えだと認めている。このときは「思えニャイ」と言うのを拒否していた志摩だが、事件の核心を掴むと「それニャ!」と調子を合わせている。これまでの志摩なら考えられなかった態度だ。「ニャー!」と伊吹も嬉しそう。二人のユーモラスなやりとりは単なるコミカルな演出というではなく、あくまでも前話の延長線上にある。
お互いが相棒の良いところを認め、肯定し合うという理想的なバディへと進化した伊吹と志摩。象徴的だったのが、犯人・大熊(三元雅芸)アクションシーンだ。二人は警棒片手にアイコンタクトしながら息の合いまくったコンビプレイを披露。なかでも、志摩がかがんだところに繰り出した伊吹の三角蹴りと、伊吹の背中に手をかけて犯人に飛びかかる志摩の姿が印象的だった。単なる番外編的なアクションシーンではなく、お互いの信頼が目に見える形となって表れたシーンなのだろう。
「スイッチ」にめぐりあった人、めぐりあえなかった人
二つ目のキーワードは「スイッチ」。これは第3話と第6話で繰り返し語られた言葉だ。人は人との出会いや偶然などの「スイッチ」によって、道を間違えたり、元の道に押し戻されたりするという意味である。
第7話で起こった事件は、都会の片隅にあるトランクルームで暮らしていた人たちをめぐるものだった。死んでいたのは梨本(佐伯新)という男。実は強盗致傷事件の指名手配犯であり、トランクルームで10年にも及ぶ期間、息を潜めて過ごしてきた。梨本は飼い猫「きんぴら」を通じて、家を追い出されてトランクルームでクラス初老の男、倉田(塚本晋也)と交流を持つが、強盗致傷の共犯だった大熊に殺されてしまったのだ。
すさんだ生活の跡がひと目でわかる大熊のトランクルームの中で、伊吹は10年という歳月に思いを馳せる。自分が交番勤務になって、機捜にやってくるまで10年の月日が流れていた。伊吹は自分のことを「ラッキー」だったと振り返る。第5話に登場したガマさん(小日向文世)のように自分を信頼してくれる人と出会えたことが、伊吹にとって「ラッキー」であり「スイッチ」だった。しかし、トランクルームの中に閉じこもっていては、誰の手も届かない。陣馬(橋本じゅん)はこう言う。
「完全に閉じちまった人間の手は、掴めねぇんだ」
伊吹と志摩が犯人を捕まえるのは、彼らが罪を重ねるのを防ぎ、自分たちが彼らの「スイッチ」になることを意味する。伊吹と志摩は犯人たちに手を差し伸べているのだ。
トランクルームにいた家出少女、スゥ(原菜乃華)とモア(長見玲亜)に対しては、伊吹と志摩、そして彼女たちと同じくトランクルームを利用していたコスプレイヤー・ジュリ(りょう)が「スイッチ」になる。安易に見知らぬ男性の部屋に行こうとする2人を、志摩は「君たちに何かあったら悲しい」と諭し、本職が弁護士のジュリはサポートセンターを案内する。
「悪い大人もいるけど、ちゃんとした大人もいる。諦めないで、まずは福祉や公共に頼る。君たちはひとりじゃない」
ジュリの言うことは本当にまっとうだ。大人は子どもを食い物にしていい存在ではない。大人は子どもを助けるもの。そんな当たり前のことさえ、今の世の中から失われてしまった。だから、ジュリの当たり前すぎる言葉が胸に響く。
親と大人は子どもを助ける存在であってほしい
3つめのキーワードは「親と子」だ。非番だった九重(岡田健史)は警察局刑事局長の父親(矢島健一)、警視庁刑事部長の我孫子(生瀬勝久)とともにゴルフをプレー中。九重の父親は、九重を機捜に入れた理由を「己の道を探せるようになってほしい」からだと我孫子に語る。その表情に嘘はない。九重も二世である屈折はあるが、素直な好青年に育っている。それも父親の理解と気遣いがあったからだろう。
こちらの親子はどうだろうか。陣馬は結婚を控えた息子の鉄(『コタキ兄弟と四苦八苦』のバールくん役だった伊島空)の食事会に向かう途中、指名手配犯の大熊を見かけて追いかけはじめてしまう。苦闘の末、犯人を逮捕した陣馬は、伊吹と志摩にうながされて終わりかけた食事会に顔を出す。
陣馬は息子の婚約者、紗江(松川星)にまっすぐ向いて語りかける。息子は自分と違って家のことも家族のことも考えられる男であること。それは自分で悩んで迷って勝ち取った特性であること。そんな息子を誇りに思っていること。挨拶して立ち去ろうとする陣馬を呼び止めたのは、息子の鉄と紗江だった。彼らは陣馬の奮闘ぶりを知っていた。それを知らせたのは、息子のように年が離れた相棒、九重だった。陣馬に手をかけて席につかせたのが、娘の澪(見上愛)というのもいい。
陣馬親子のやりとりや家出少女たちとジュリのやりとりを見ていたら、なぜだか涙腺が緩んでしまった。筆者も陣馬と同じような世代にさしかかっているからだろうか。親や大人たちは、子どもたちの良き理解者であってほしい。子どもたちを助ける存在であってほしい。良き「スイッチ」であってほしい。子どもたちが道を外れたとき、押し戻してやれる存在であってほしい。そう切に願う。
しかし、物語はそうはいかない。第3話で失踪したバシリカ高校の生徒、成川岳(鈴鹿央士)は、自分を道から外す「スイッチ」である久住(菅田将暉)に出会ってしまった。4機捜の隊長・桔梗(麻生久美子)の家からは盗聴器が見つかっている。不穏な気配を濃厚にまといつつ、第8話へと進む。
『MIU404』は配信サービス「Paravi」で視聴可能(有料)
『MIU404』これまでのレビューを読む
→『MIU404』第1話!走る綾野剛×理性的な星野源のバディで最高の刑事ドラマ誕生の予感
→『MIU404』第2話|1話の「動」と対照的な「静」でも魅せた綾野剛&星野源に涙腺崩壊
→『MIU404』第3話|菅田将暉が突如登場に視聴者騒然するも見所はそれだけじゃない!
→『MIU404』第4話|か弱いウサギの最後の反撃に日本中が共感、涙
→『MIU404』第5話|野木亜紀子脚本が斬り込むリアルな社会の闇に騒然
→『MIU404』第6話|綾野剛が星野源に「まあ、安心しろ。俺の生命線は長い」手のひらの明るさ
文/大山くまお(おおやま・くまお)
ライター。「QJWeb」などでドラマ評を執筆。『名言力 人生を変えるためのすごい言葉』(SB新書)、『野原ひろしの名言』(双葉社)など著書多数。名古屋出身の中日ドラゴンズファン。「文春野球ペナントレース」の中日ドラゴンズ監督を務める。
●新『半沢直樹』3話「待ってました」片岡愛之助登場!急展開に次ぐ急展開をていねいに解説