兄がボケました~認知症と介護と老後と「第57回 謹賀新年」
2026年になりました。介護中の方、お仕事や家事がお忙しい方、さまざまな状況の中で日々頑張っていらっしゃるみなさまに幸多き一年となりますように願っております。ライターのツガエマナミコさんは、長年、認知症の兄のサポートを続けています。新しい年を迎えて、今年の展望を綴ってもらいました。
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今年も週1ペースで兄の面会に行くことが目標
新年あけましておめでとうございます。
こうして新年を迎えることも62回目となりました。ただただ日々を重ねて今に至るだけの犬馬の齢(けんばのよわい)でございますが、ここまで大きな天災にも人災にも遭わずにこられたことは幸いの極み。しかしながら「人間万事塞翁が馬」と申します。人生の幸・不幸は予測のできないものでございますから、今日大きな天災や人災に遭うかもしれないという気持ちを忘れず、馬鹿が付くほど真面目に楽しく過ごしたいと思っております。
この連載が始まったのは2019年8月でございました。
今のマンションに引っ越して間もなくの頃で、兄は認知症と診断されていたものの、まだ会社員としてこの部屋から通勤しておりました。およそ6年半が経った今、特別養護老人ホームの入居者として、車イス生活をしております。会話はほとんどできず、指先もなめらかには動かない状態で、何を考えているのかわかりません。それでも時々ニコッとしたり、「よかったね」と言ってくれたりすることがわたくしにとっては宝物で、毎週面会に行っては、ほとんど同じ姿勢、同じ表情の写真を撮って帰ってくることを繰り返しております。
じつは、10年ほどグループホームに入所していた認知症の叔母(母の妹)が、先日静かに息を引き取りました。兄も同じような経過をたどるのだろうと思い、感傷に浸った年末でございました。
今週も兄の顔を見て参りました。なぜか開口一番「やっと来たの?」と言われました。いつもの曜日、いつもの時間ですし、昼か夕方かもわかっていないと思いますが、「遅かったじゃん、待ってたよ」と言われた気がして、わたくしは勝手に舞い上がってしまいました。
家で一人で介護していたときには味わったことのない小さな喜びが、特別養護老人ホームでお世話していただくことでたくさん感じられるようになりました。それもこれもお世話してくださるスタッフさまがいてくださるからこそ。
どうしたら介護職のみなさまが、今よりも待遇が良くなるのでございましょうか。認知症介護現場での悲劇的なニュースも、介護スタッフの皆さまの心にゆとりがあれば減少すると思うのは短絡的でございましょうか。わたくしは今年も週1ペースを崩さず、面会に行くことが目標でございます。
話はガラリと変えまして、昨年末の話になりますが、駅前の家電量販店から「ティファール電気ケトル 電源プレート無償交換のご案内」なる郵便が届きました。要約すると、メーカーから不具合が見つかった連絡がきたので、品番を確かめて、メーカーのホームページで手続きしてね、というお知らせでございます。
ティファールの電気ケトルは一昨年、一人暮らしになったのが嬉しくて購入いたしました。輝くような赤札に勢いがついて買ってしまっただけに結局必要性がなく、2~3回使って、その後は出番なし。埃が入らないようにビニールをかぶせてそれきりでございました。でも品番をみると不具合の機種に該当しているではありませんか。
妙なものでございますが、“番号が当たっていた”ことが宝くじにでも当たったような特別感をもたらしてくださり、ちょっとだけウキウキしてしまいました。よく考えると家電量販店はこの商品を購入した人をピックアップして、お報せを郵送したのでしょうから番号が合って当たり前でございます。でもこういう追跡サービスに該当したことがなかったので、「なんて素晴らしい文明」と感心していまいました。
ティファールのホームページから無償交換の手続きをしてから約1カ月が経ち、つい先日宅配便で例の電源プレートが届きました。一応、届いた製品が正常に使用できるかを確かめてから、古い製品を送り返したわけですが、よくできていると思ったのは、送られてきた段ボールがそのまま返送用の箱になること。宛先が印刷された送り状もすでに貼られており、あとはコンビニに持っていくだけ。梱包を閉じるガムテープまで同梱されておりました。もちろん着払いでございます。送料は840円でしたので、往復で1680円のコスト。3000円台の商品に、そこまでしてくれることがありがたく感じました。せっかくなので今年はティファールでお湯を沸かそうと思います。
ところでみなさまのご家庭にもカセットコンロはありますでしょうか?
我が家はオール家電のマンションで、電気が止まればアウトでございますから、災害用にカセットコンロとそれ用のガスボンベを常備しております。でも、それがいつ購入したものか不明の、今は亡き両親が購入した昭和も昭和の、いにしえのとこしえの古代カセットコンロでございまして、最後に点火してみたのは10年前ぐらいでしたでしょうか……。そのときすでに恐る恐るの点火でございましたが、先日初めてメーカーのホームページを拝見してみると、ガスボンベの使用期限は7年以内、本体は10年が目安とのこと。こんな古いカセットコンロとボンベを後生大事に保管していても災害時にさらなる災害を起こしてしまうだけだと恐ろしくなりました。
さっそく買い替えることにいたしましたが、問題は古代ガスボンベの捨て方でございます。当然、ガスをすべて出し切ってからごみ収集に出さなければなりません。でもホームページには「ベランダでガスを抜く作業は絶対にやめてください」と書いてございました。『絶対に』でございます。塀で囲まれているとガスがベランダに充満してしまう危険があるからでございます。そうでなくてもご近所にガスが流れることが必至でございますから、集合住宅住民としては当然禁止事項でございましょう。
ではどうすればいいのでしょうか? 推奨されていたのは、周りに人のいない広い場所。そんな都合のいい場所がそうそうあるわけがなく、現在マンションの敷地内でガスボンベのガス抜き作業をしても大丈夫だろうか…と思案中でございます。なにしろご丁寧に5本ものガスボンベを保有しております故。
この一年が、こうした災害用グッズを使うことなく過ごせることを祈りつつ、本年も暇つぶしにお読みいただければ幸いにございます。長文を最後までお読みいただき、ありがとうございました。
文/ツガエマナミコ
職業ライター。女性62才。両親と独身の兄妹が、2012年にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現67才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。2024年夏から特別養護老人ホームに入所。
イラスト/なとみみわ
