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兄がボケました~若年性認知症の家族との暮らし【第271回 間もなく入所1か月】

 認知症の兄が特別養護老人ホームに入所してから、1か月。妹のツガエマナミコさんにようやく落ち着いた日常が戻ってきています。とはいえ、季節の変わり目にあたり、衣類を届けがてら兄の施設に出かける機会も多く、まだまだ兄のサポートは続く模様。今回は、施設での兄の様子を報告してくれました。

 * * *

週1ペースで面会に行っています

 兄を施設に送りだしたら時間が余って、嫌でものんびりできると思っておりましたのに臨時のお仕事が途切れることなく入ってきて、ありがたいことに遊びにも行かずパソコンの前にしがみついているツガエでございます。
 
 そろそろ入所から1か月が経とうとしております。週1ペースで面会に行っており、その都度プリンやヨーグルトを差し入れしております。Tシャツが足らないとのことで3枚ほど追加したり、Tシャツの下に着るタンクトップも追加。羽織ものやトレーナーも持参いたしました。

 先日の兄はベッドではなく車イスに座り食堂におりました。スタッフさま曰く「ベッドで起き上がっていることが多く、ベッドから降りるとあぶないので食堂に連れて来ました」とのこと。ほかには80代と思しきおばあさまがお2人、兄を挟んで等間隔に離れて座ってテレビの方を向いておりました。

 兄は、家にいた頃よりも顔がシュッとして意識がはっきりしているように感じました。浮腫みが取れて痩せた印象です。意識がはっきりしているのは、もしかすると眠くなる副作用がある薬をやめたのかもしれません。

「何しに来たの?」というので「お兄ちゃんの顔を見に来たんだよ」というと「へぇ~そう。ありがとう」と会話が成立したのが新鮮でした。でもそれ以上の会話はほぼ一問一答。

「ごはんはおいしい?」「まぁね」
「完食してるんだって?」「そうかな」
「なにか欲しいものはある?」「いいんじゃない」
「バカヤローとか言ってない?」「そうだね」

 といった具合で、兄が何を考えているのかはよくわからない問答が続くだけでございました。

 わたくしのことが誰かわかっていない様子です。けれど「わたしは誰?」と記憶力を試すようなことは意味がないと思っております。「なんとなく知っている」という様子があればそれで充分。いつか「どちらさまですか?」と初めて会うような顔をされるようになったら、寂しいことでございましょうね。

 施設からのご報告によると、食事はいつも完食で健康。けれどオムツ交換や入浴で手がかかっているとのこと。「暴言もあるし、抵抗して手や足が出るので昼間は2人がかり。夜はスタッフが1人対応なので、どうしたらいいかとみんなで話し合っているところです」というお話でした。オムツの中のパッドを自分で抜き取ってしまって、夜間に服とシーツの全交換を行っているそう。そんなこんなでTシャツとズボンが足らないそうでございます。

 介護の世界では、兄ぐらいの抵抗はよくあることだと思っていたので「どうしたらいいか話し合っている」と言われて、介護のプロといってもあまりノウハウが蓄積されていないのだなぁと認識を新たにいたしました。もとより入所者さまは十人十色で、マニュアルに当てはまらないことの連続でございましょう。家族としては平身低頭、お願いしている立場であって、如何ようにしていただいても異論を唱えるつもりはございません。施設に見放されることが一番の恐怖ですから、スタッフの方々のご負担が少ないようにと祈るばかりでございます。

 見晴らしがよかった施設の南側に、新たな特別養護老人ホームが建設中でございます。兄の部屋は西向きなので、今のところ長閑な景観を保っておりますが、ずっとそのままである保証はどこにもありません。窓から富士山が見えるのは今のうちで、1年先には建物しか見えない閉塞した景色になるかもしれません。もう入所してしまったので仕方ないですが、見晴らしのいい場所にある施設を選ぶ際は、周辺の建設計画もちょっと気にしてみてはいかがでしょうか?

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文/ツガエマナミコ

職業ライター。女性61才。両親と独身の兄妹が、8年前にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現65才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。病院への付き添いは筆者。

イラスト/なとみみわ

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この記事へのみんなのコメント

  • とくめい

    すみません、この連載の次の連載からコメント欄が表示されません。自分のスマホのバージョンが悪いか、操作が間違っているのかもしれませんが「この記事へのコメントはこちら」という緑色のボタンを押しても反応しません。会員登録などが必要になったのでしょうか。というわけで、ここに273回のコメントをさせていただきます。マナミコさま、お疲れ様です。とても楽しませていただき勉強させていただきました。師走に再び記事を読ませていただけるのを楽しみにしています。お兄様もどうかこのまま穏やかな日々を過ごされますように。

  • ふじこ

    認知症の症状は十人十色ですよね…先日従姉妹に聞いた話では、最近よく聞くユマニチュードというのはまず15秒間目をそらさずに見つめ合うことから始めるそうで…脳への伝達が遅くなっているのを優しく待ってあげるんだそうです。介護していて心が荒んでいるのか「そんな悠長な…」と思ってしまいました。確かに待ってあげれば自分の意志で行動できることもあります。でもそれは本人が落ち着いていて介護する方も余裕がある時です。レビーだった父はスイッチが入ると豹変します。目が違うんです。とても見れたものじゃありません。気分が変わるまで1時間ほど腕を掴まれ部屋を連れ回されます。ある時はお風呂で2時間トイレで1時間頑として動きません。施設の対応に目くじら立てていた時期もありましたが、そんな色々な症状をひとつずつ把握してお世話する事は介護の現場では到底できないと思います。

  • なお

    きっとお若くて力や体力がある分、一般的な認知症患者さん達より 手がかかってしまうのではないでしょうか。 プロは手際が良かったりするかもしれませんが、することは同じ。 介護職の離職率の高さや、ストレスによる虐待などを考えると大変なお仕事でしょうね。 プロだから簡単に介護できる、魔法使いのような存在ではないと思います。 皆、歯を食いしばりながら懸命にお仕事なさっているのでは?

  • あこ

    お兄様、落ち着いて過ごしておられるようでまずは一安心ですね。夜間のシーツと衣類の全交換は夫も同じようです。夫は歩行も可能なので夜間は一人でトイレに行くこともありオムツにすることが出来ずに紙パンツに夜間用のパットをしているのですが、そのパットを自分で動かしてしまっているようです。お兄様も手に不自由はないので同じことなのですね。やはり施設からは「対策を考えています」とずっと言われていて、プロでも困っているのだと思うと『どんな手段も文句は言わないのでどうか追い出されませんように』と心の中で思ってしまいます。親類には「認知症以外はすこぶる元気です」と言うと「それは良かった」と喜ばれますが、身体的に元気な認知症の大変さを理解してもらえないのは辛いです。夫も本当に問題は排泄だけなのですが、週に一度自宅に帰宅させて昼食を食べるとほぼ大量の便失禁があり、週に一度だからと自分に言い聞かせているのが現実です。グループホームに入所して結構な料金を支払っているのだから私が嫌なら帰宅させなければ良いのですが、私の好きでやっていることなので誰にも文句は言えません、自己満足ですから。マナミコさんもこの先何か問題は起きるかもしれませんが先の事は心配しても仕方がありませんから、失われた時間を取り戻すべく、ご自分第一にして充実した毎日をお過ごしくださいね。

  • 急に寒いで

    介護のうえで暴力、暴言などの暴れる問題は 永遠のテーマですよね。認知症ではありませんが、若い強度行動障がいの方々の預け先が無く家族が疲弊してしまい、自ら命を絶つ親御さんもいらっしゃると聞きます。よくユマニチュードとかパーソンセンタードケアとかいいますが暴れている当事者に対峙するとそんなものは吹っ飛ぶと思います。大きな不安としてはこの人は当施設では看られません、と言われることだと思いますが、大昔の私宅監置に戻れというのでしょうか。癌や難病が治るのも良いですが、もっと脳の疾患の研究もしてもらいたいものです。

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