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兄がボケました~認知症と介護と老後と「第34回 幸せのベースは兄の笑顔」

 認知症を患う兄が特別養護老人ホームに入所して8か月、ライターのツガエマナミコさんはようやく自分自身の時間を持てるようになりました。そして、週に1回「兄の面会」に行くこともかかしていません。施設で落ち着いた様子の兄に会うのは、マナミコさんにとっても大切な時間になっているようです。

 * * *

いつの間にか「お兄ちゃん大好きっ子」に?

 今週は、高校時代の同級生5人でランチ女子会がありました。

 白内障だ、腱鞘炎だ、インプラントだと話題はもっぱら老体自慢でございました。一人は長年がん治療をしておりますし、一人は三叉神経の病で開頭手術を受けていますし、がんで2度手術を受けた人もいれば、帯状疱疹の経験者もいて、みんな2~3個の不具合を抱えておりました。さらにそれぞれの親や親戚の入院やら介護の話があり、子どものお嫁さんやお婿さんへの愚痴も飛び出し、この女子会は一生終わらないのではないかと思ったほど。気が付けば5時間があっという間でございました。

 なかでも驚いたのは、同級生の脳出血の知らせでございます。

「〇〇ちゃんが夕べ脳出血で入院したって知らせがあって…」と聞いて、一同「え~っ!」とのけ反りました。

 〇〇ちゃんもクラスは違えど同級生なのでもちろん顔見知りでございます。

 折しも取材で、脳出血で半身不随になった人のお話を聞いたばかりでしたので、本当に驚きました。が、とりあえず命に別状はなく、本人から友人に届いたLINEによれば、麻痺はないとのことでございました。

 歳をとるとあちこちガタが来るのは当たり前で、そんなガタが複合的に絡み合い、こうした突然の事態を引き起こすのですから、決して他人事ではございません。

「いつどうなるかわからないから身の回りを整理しておかないとね」という結論で話は収束し、女子会は解散。畑を持っている子が「たくさんできたから」と持ってきてくれたジャガイモとキュウリとトマトで指がちぎれそうになりながら帰ってまいりました。

 顔を見て元気でしゃべれることが、そろそろ貴重なひと時になりつつあります。みんなで写真を撮ることも、最近は恒例行事になりました。また会える日が楽しみでございます。

 さて、兄ですが、先週も今週もなぜだかとても穏やかで、わたくしが顔を見せるとすぐにニコリと反応してくれました。妹だとわかっているわけではないと思いますが、誰かが会いに来たことが嬉しいのかもしれません。童謡「チューリップ」を歌えば口パクしてくれますし、「いいね~」と笑ってくれて、家に連れて帰りたいくらいの気持ちになりました。こんなに安定した兄と会えるのも、ひとえにスタッフの皆さまやお医者さまのおかげでございます。

 今週は、面会時に歯科衛生の時間とかち合いまして、はじめて兄がお口の中をお掃除していただいている場面に遭遇いたしました。優しい女性の歯科衛生士さまが歯間ブラシやスポンジを駆使して隅々までお掃除してくださっているのを拝見し、自然に頭がさがりました。自宅で介護をしていたときは歯磨きまで出来ませんでしたから、いつ「歯が痛い!」と言い出すかヒヤヒヤしていたのでございます。その旨を歯科衛生士さまに申し上げると、「でもツガエさん、虫歯はそんなにありませんよ。欠けている歯はありますけどね。でも歯茎がしっかりしていてグラグラしている歯がないので素晴らしいです」とお褒めの言葉をいただきました。

 歯科衛生士さまのお手入れは月に1~2回のことだそうでございます。「ご機嫌の悪いときもあるのですけど、今日はとてもにこやかでお掃除しやすいですよ」と言っていただき、嬉しい反面、悪態で困らせている様子が目に浮かび、申し訳ない思いでございました。

そんなわたくしと歯科衛生士さまの会話を聞きながら、兄がときどき「そうかな」「わかんないよ」と自然に会話に入ってくるのも楽しくて、幸せな時間を過ごすことができました。

 後からスタッフさまに「せっかくいらしてるのですから歯科を後にしてもらってもいいのですよ」と言われましたが、わたくしはむしろいいものが拝見できたと思いましたし、感謝の言葉を直接伝えることができ、自己満足の至りでございました。

 少し前は表情があまりなくて心配しましたけれど、ここ最近はよく笑って、おどける表情もあるなど、兄の感情が見えるのでわたくしの気持ちも安定しております。ほかにどんないいことがあっても笑顔のない兄をみると気が滅入る。「お兄ちゃん大好きっ子」ではないつもりですが、いつの間にか笑顔の兄に会えることがわたくしの幸せのベースになっているようでございます。

 こんな幸せな日々を送るわたくしは、おかげさまで2回目のプールを終え、1回目との明らかな違いに狂喜乱舞しております。痩せた? いえいえ、スタイルは相変わらずですが、その他の肉体変化が目覚ましいのです! でもそのご報告は次回にいたしましょう。

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文/ツガエマナミコ

職業ライター。女性62才。両親と独身の兄妹が、2012年にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現66才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。2024年夏から特別養護老人ホームに入所。

イラスト/なとみみわ

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この記事へのみんなのコメント

  • のぶん太

    私も特養で静かにしている今年95歳になる母親を見ると家に連れ帰れるような一瞬血迷った感情がわくことがあります でも脳梗塞、半身麻痺、5年の在宅介護だけなら私一人であっても頑張れたけど入所に至る1年前から何時間も続く大きな奇声、本人も勝手に声が出て止められないと訴えるも訪問医も精神科医も対応出来ず介護している私の精神も崩壊寸前でした 実情はスマホで動画撮影する事が伝わる一つの方法かと思います

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