初めて補聴器を着ける前に知っておきたい6つの疑問「高額モデルがいい?」「集音器との違いは?」|専門家が解説
40代から始まると言われている聴力の衰え。75才以上の約半数は難聴に悩んでいる統計もあるという。音や会話が聞こえづらくなると人とコミュニケーションが取りづらくなり、認知症を加速させるなどの弊害も。そこで、聞こえづらさを助けてくれる補聴器。初めてでも安心して使えるよう、よくある疑問を6つのQ&Aでわかりやすく紹介します。
教えてくれた人
井上泰宏さん/耳鼻咽喉科医
耳鼻咽喉科いのうえクリニック院長。日本耳鼻咽喉科学会補聴器相談医、および補聴器適合判定医。クリニックでは、医療費控除申告に必要な補聴器の適合判定や、補聴器相談を行う。
田中智子さん/認定補聴器技能者
補聴器専門店「うぐいす補聴器」代表。ドイツの大手補聴器メーカー勤務時に、MBAを取得。訪問治療を行う病院の事務長を経て、現職。個人のライフスタイルに合った補聴器の提案を行う。自治体での講演多数。
疑問を解決 補聴器なんでもQ&A!
補聴器は両耳にしたほうがいい? 国内メーカーと海外メーカーの違いは? 補聴器に関する代表的な疑問を、6つのQ&Aにまとめました。
<Q1>高額なので手が出せない。行政の補助はないの?
<A1>医療費控除と自治体の補助金を活用しよう
両耳でおよそ10万円以上はする補聴器。価格を理由に利用を躊躇(ちゅうちょ)する人も。
「補聴器相談医の診察を受け、情報提供書を取得すれば国からの医療費控除が受けられます。そのためにも耳鼻咽喉科の受診が必要になります」(耳鼻咽喉科医で補聴器相談医の井上泰宏さん)
地域の補聴器相談医は「日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会」のホームページから検索できるほか、補聴器専門店で紹介してもらえる。控除額は収入によって異なり、一例として、年収400万円の人が15万円の補聴器を購入した場合、約1万円が還付される。補助金を設けている自治体も多いので、福祉課に問い合わせよう。
<Q2>やっぱり高額モデルを選ぶべき?
<A2>必ずしもその必要はない
「安価なモデルは、屋内での1対1の会話など、比較的静かな場面にのみ対応します。高額になるほど、静かな場面から騒々しい場面まで、幅広く対応します」(認定補聴器技能者で補聴器専門店代表の田中智子さん)
周囲の雑音が多い場所に頻繁に出かけないなら、高額モデルの必要はない。
「高額になるほどサイズが小さく、多機能になるため、使いこなせないことも。価格にこだわりすぎないで」(井上さん)。
<Q3>集音器と補聴器はどう違うの?
<A3>集音器はオーディオ家電で、補聴器は医療機器
通販などで見かける集音器も聞こえづらさを改善してくれるようだが……。
「集音器は、すべての音を増幅するオーディオ家電。補聴器のように、雑音の抑制ができません。医療機器ではないので、医療費控除の対象外です」(田中さん)
ごく軽度の難聴なら補助でき、耳の穴をふさがずに使用できる骨伝導型もある。デザインは補聴器と変わらないものが多いので、混同しないよう注意が必要だ。
<Q4>国内メーカーと海外メーカーはどう違うの?
<A4>品揃え豊富な海外製、国内生産で湿気に強い日本製
補聴器の世界シェア1位は、スイスのフォナック社。海外メーカーは商品のラインアップが豊富で、高い技術力に定評がある。国内での注目株は、両耳で10万円台という価格帯の耳穴型補聴器を開発したシャープや、国内シェアナンバーワンのリオネットなど。国内工場で生産しており、安心感を与える。
「日本の気候を想定し、湿気や汗に強いのが海外メーカーとの違いです」(リオン株式会社医療機器事業部の三上敦史さん)
<Q5>補聴器は両耳にした方がいい?
<A5>半数以上が片耳装用だが、両耳装用が理想的
日本の補聴器の両耳装用率は約40%(※)で、片耳装用の人の方が多い。
「自然に聞こえるようにするには、両耳装用がおすすめ。高額なモデルを片耳だけ購入するより、予算内で両耳揃えた方が満足度は高くなります」(三上さん)
ただし、左右で著しく聴力が異なるときは片耳装用が推奨される場合もある。どちらが自分に合っているか、専門医に相談を。
※日本補聴器工業会の調査による。
<Q6>電池式と充電式、どちらがいい?
<A6>ライフスタイルで選ぼう
補聴器には電池式と充電式があり、いまは後者が普及している。小さな電池を入れ替えるのに比べれば、充電は作業が簡単なのがその理由だ。ただし、充電器は別売りの場合が多い。
一方、電池式は週に一度程度のペースで電池交換が必要。細かい作業が苦手な高齢者には負担となることも。ただし、災害時など電気が使えず充電できない場合でも使用できる。使いやすさで選ぼう。
「AirPods Pro2」が補聴器の代わりになる! ?
Apple社のワイヤレスイヤホン『AirPods Pro2』の新機能「ヒアリング補助機能」が、いま注目されている。
「Apple社によると、軽度から中等度の難聴者に向けた機能とのこと。iPhoneまたはiPadでのヒアリングチェックの結果をもとに、聞こえにくい音だけを増幅してくれます」(田中さん・以下同)
耳鼻咽喉科で聴力検査をした場合は、その結果データを追加してAirPods Pro2で使用することも可能だ。
「バッテリーの持続時間が最大6時間で、日本では機能も限定的なため、現時点では補聴器の代替品としての使用は難しいですが、これをきっかけに、補聴器装用のハードルが低くなるのではと期待しています」
取材・文/植木淳子 イラスト/藤井昌子 写真/Getty Images、うぐいす補聴器
※女性セブン2025年8月14日号
https://josei7.com
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