瀬戸内寂聴さんは99才、親鸞は90才 僧侶が長生きの理由は「音読」にあり その効果を専門家が解説
音読することが心身を甦らせるのならば、声を出すことの多い職業は健康長寿になるのだろうか。
東京都健康長寿医療センター研究所「社会参加と地域保健研究チーム」専門副部長の鈴木宏幸さんは「その可能性はあります」と語る。
「たとえば落語家は認知症になりづらいといわれます。よく声を出すことに加えて、暗記した噺をその日の持ち時間によって増減したり、観客の様子によって臨機応変にマクラ(本題の前にする小咄(こばなし))を変えるなど、脳を刺激することも影響しているのでしょう。私の知る限り、コーラスをする人もすごく元気です」(鈴木さん)
誰よりも音読する機会の多い職業のひとつが、読経を生業とする僧侶だ。
実際、昨年11月に天台宗の最高位に当たる第258世天台座主になった大樹孝啓座主は御年98才。
「確かに、お坊さんは職業柄長生きですね」
そう語るのは、浄土真宗本願寺派僧侶で、「四谷坊主バー」店主の藤岡善信さんだ。
「わが宗派の宗祖・親鸞聖人は90才まで存命で、一休さんこと一休宗純は87才まで、瀬戸内寂聴さんは99才まで生き、知り合いの住職は83才で(40代半ばの)私よりも多数の法事をこなしています。それに認知症になる住職は少なく、いくつになっても元気な人ばかりです」(藤岡さん)
僧侶に健康長寿が多い理由は、やはり読経にあるのではないかと藤岡さんが続ける。
「読経は健康や肌によく、若返りになるという話を聞きます。おそらく腹式呼吸をすることと、喉を使うことが理由でしょう。人間は喉から老いがくるといいますが、読経で喉を活性化することが若さにつながると考えられます」
前出の井上さんも読経という音読に注目する。
「お経は唱えるもので、抑揚をつけて発声することも健康的です。息継ぎが短いことも肺活量を鍛えるポイントで、特に集団で唱える場合は相手に合わせて声を揃えるため、効果が増します。お坊さんは呼吸器機能が衰えず、誤嚥性肺炎を起こしにくい職業といえるでしょう」(井上さん)
これら脳と体に与える好影響だけでなく、読経には「心を癒す」効果もあると藤岡さんは言う。
「悪い言葉が持つ波動や念は心身によくなく、逆によい言葉を発するとそれを聞く自分にもよい念が宿ります。お経はお釈迦様の説法であり、お言葉ですから、それらを唱えることは自分の中からよい念を吐き出すことにつながる。僧侶は読経を通じて、自分の内面が癒されることを実感しています。これは、スポーツ選手が試合前にポジティブな言葉で暗示をかけるのと似ているかもしれません。私自身、朝から晩まで仕事をして疲れていても、お経を読み始めるとビシッと元気になります」(藤岡さん)
ひとりで唱えるときとは異なり、集団で唱えることで格別なエネルギーを得られることも宗教的な特徴と言える。
「ひとりでお経を30分唱えるのはそれなりにつらくて集中力を欠くこともありますが、集団で行う読経は気持ちが乗り、つらいという感覚が一切ありません。全員で読んでいるときは自分の力ではなく、引っ張ってもらっているような感覚になり、そのエネルギーのすごさに驚きます。キリスト教もみんなでお祈りの言葉を唱えたり賛美歌を歌ったりしますが、そうした集団性は多くの宗教に共通するのでしょう」(藤岡さん)
教えてくれた人
井上登太さん/みえ呼吸嚥下リハビリクリニック院長、鈴木宏幸さん/東京都健康長寿医療センター研究所「社会参加と地域保健研究チーム」専門副部長、藤岡善信さん/浄土真宗本願寺派僧侶、「四谷坊主バー」店主
文/池田道大 取材/進藤大郎、平田淳、三好洋輝、村上力
※女性セブン2022年12月8日号
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