《「脳に栄養を」でチョコはNG?》血糖値の乱高下が引き起こす認知症リスク 予防につながる「脂質起動」について医師が解説
ランチの後に眠くなるなら要注意。糖質の摂りすぎによって起こる、疲労感や眠気、集中力の低下などといった不快な症状を総称する「糖質疲労」に陥っているかもしれない──。
食後に血糖値が急上昇する「食後高血糖」と、その後に血糖値が急激に下がる「血糖値スパイク」がその正体。手を打たないと時間をおいて糖尿病からの病気連鎖を招きかねない状態だ。
有効なのは食生活においてゆるやかに糖質を控える一方で、たんぱく質とともに脂質をたっぷりと摂る「脂質起動」。脂質中心でエネルギーを燃やすからだに変化させる。これは認知症とも深く関連しているという。
「油は健康に悪い」「油は太る」という常識を覆す健康のヒントが詰まった、医師で北里大学北里研究所病院院長補佐 糖尿病センター長の山田悟さんの新著『脂質起動』(サンマーク出版)より一部抜粋、再構成してお届けする。
教えてくれた人
山田 悟さん
医師。医学博士。北里大学北里研究所病院院長補佐、糖尿病センター長。1994年慶應義塾大学医学部卒業。糖尿病専門医として多くの患者と向き合う中、2009年米医学雑誌に掲載された「脂質をとる食事ほど、逆に血中中性脂肪が下がりやすくなる」という論文に出会い衝撃を受ける。現在、日本における糖質制限のトップドクターとして患者の生活の質を高める糖質制限食を積極的に糖尿病治療へ取り入れている。日本内科学会認定内科医・総合内科専門医、日本糖尿病学会糖尿病専門医・指導医、日本医師会認定産業医。著書に『糖質疲労』(サンマーク出版)、『運動をしなくても血糖値がみるみる下がる食べ方大全』(文響社)など。「ロカボ」という言葉の生みの親でもある。
* * *
血糖値スパイクで「脳細胞」が次々と死んでいく
血糖値が乱高下すると、「酸化ストレス」が生じます。体内には有害な酸化を抑える抗酸化酵素が随所に待機しています。この酵素の活性が落ちたり、許容量を超える活性酸素が生じたりすると抗酸化作用が追いつかなくなります。それを、酸化ストレスと呼びます。
モデル細胞を用いた実験では、血糖値の上下動があること(90mg/dlという正常状態と360mg/dlという高血糖状態の行ったりきたり)は、安定した高血糖(安定して360mg/dlという状態)よりも細胞を死なせてしまうことがわかっています。
これは、脳細胞に限定された話ではありませんが、こうした細胞死が認知機能の低下を招くものと推測されています。
この「血糖の上下動したモデル細胞では安定した高血糖状態のモデル細胞以上に細胞死を起こす」という実験は、血管内皮細胞という血管の機能をつかさどる細胞のモデルで行われたものでした。その意味では、この酸化ストレスにともなう認知機能の低下は血管性認知症につながるのかもしれません。
血管性認知症は、半身不随を起こすような大きな脳梗塞ではなく、微小な血管が広範囲に障害されることでも生じることもあります。アルツハイマー病ほどの頻度ではありませんが、日本人の認知症として重要な成因になっています。
では、血管性認知症を予防するためにはどうすればよいのか? それもアルツハイマー病と同様、脂質起動でアブラを積極的に摂取することだというのが私の主張です。
高血糖でインスリンが遅れてたくさん分泌されてしまうのを防ぐ(それによりインスリン分解酵素の浪費を防ぐ)ためにも、内臓脂肪由来のホルモン(アディポカイン)の乱れによるインスリン抵抗性を防ぐためにも、そして、細胞死を招く血糖値スパイク(糖質疲労)を防ぐためにも、脂質の摂取が有効なのです。
最近、CMなどで「脳はアブラでできている」という話を聞くことはありませんか? これは、言い得て妙な言葉です。実際に脳の大部分は脂質で構成されていて、脂質たっぷりの食生活は、脳にとってとてもメリットがあるのです。
その一方で、「糖は脳の栄養、脳のために砂糖を摂らねばならない」と思っておられる方もいらっしゃることと思います。
確かに、脳にとってブドウ糖(砂糖はブドウ糖と果糖とでできているので、砂糖の中の半分の要素になります)は大切な栄養源です。しかし、だからといって、「では脳のために糖分を摂らないといけない」ということではありません。「脳に栄養を」とチョコレートやキャンディ、ラムネなどを常に口にするようになると、それは糖質過多を招いてしまいます。
というのも、先にお伝えしたように、脳にとって必要な糖質はありますが、脂質を食べていれば、肝臓が自動的に脂質の一部をブドウ糖に変えて脳に届けてくれるので、わざわざ口から砂糖を入れる必要はないのです。
それどころか、脂質の一部をブドウ糖に変える際にエネルギーを使用しますから、ある意味、脂質をしっかり摂取することは、代謝を上げながら脳に十分なエネルギーを届けること にもつながると言えます。
しかも、口から摂取する場合と異なり、肝臓が自動的にアブラの一部からブドウ糖に変換する速度はかなり安定的です。そのため、血糖値を乱高下させることなく、ブドウ糖を脳に届けられるのです。