サプリ(健康食品)と薬の相互作用に要注意!薬剤師が長年研究した「危ない飲み合わせ」データベースを公開「場合によっては命に係わる副作用も」
ドラッグストアやコンビニで気軽に購入できるサプリや健康食品だが、安易に飲み続けていると思わぬ落とし穴がある。医薬品との組み合わせ次第で、重篤な症状を引き起こすリスクがあるのだ。医師も薬局も教えてくれない、サプリ・健康食品と薬の「危ない飲み合わせ」を長年研究してきたひとりの女性薬剤師が貴重なデータベースを公開した。
教えてくれた人
堀美智子さん/薬剤師・医薬情報研究所エス・アイ・シー取締役、一石英一郎さん/国際医療福祉大学病院内科学教授
飲み合わせによっては命に関わるような重篤な副作用が生じることも
健康志向の高まりとともに成長、拡大を続ける健康食品・サプリメント(以下サプリ)市場。
ヘルスケア分野の市場調査を行なうインテージヘルスケアの推計では、2024年度の健康食品・サプリの市場規模(国内)は1兆2300億円を超え、利用者1人あたりの年間購入額は約2万6000円に達するという。
「健康食品」に厳密な定義はなく、厚労省によると「健康の保持増進に資する食品全般」とされる。サプリは数多ある健康食品のひとつで「特定成分が濃縮された錠剤やカプセル形態の製品」のことだ。
「薬ではないから副作用のリスクがないと考えている人が多いですが、健康食品やサプリの安全性や有効性は、薬に比べて未解明な部分が多いのが現状です」
そう語るのは、長年にわたりサプリの研究を続けてきた薬剤師の堀美智子さん(医薬情報研究所エス・アイ・シー取締役)だ。
堀さんによれば、とくにブラックボックスになってきたのが、薬とサプリの「相互作用」だという。
「薬との飲み合わせについては、まだまだ知見が不足しています。両者の相互作用リスクに精通する医師や薬剤師は少数で、患者さんへの積極的な情報発信もされていない。サプリと薬の飲み合わせによっては命に関わるような重篤なリスクを生じることもあります」
サプリと薬との相互作用で薬の効きが弱まるケースもある
国際医療福祉大学病院内科学教授の一石英一郎さんもこう指摘する。
「医師が処方時に参照する医薬品の添付文書には、併用注意や禁忌の薬の記載はあるものの、サプリなどとの相互作用はほとんど記載されていません。受診する際、医師に使用しているサプリについて自己申告をしない患者さんも多く、知らずに処方された薬との相互作用によって、薬の作用が強まったり弱まったりするケースが実際にあります」
一石さんが診察した60代の男性患者は、脳梗塞予防のための抗血小板薬を服用中、血流改善の効果が期待される「DHA・EPA」サプリを併用していた。しかし、そのことを医師に申告しなかったため、胃がん検診の内視鏡検査で「生検」のために組織の一部を切り取った際、出血が止まらなくなったという。
「処置によりことなきを得ましたが、後で聞くと『イワシ由来の食品だから言わなくていいと思った』そうです」
堀さんによれば、抗血小板薬とDHA・EPAサプリを併用すると血が出やすくなる、血が止まらなくなるといった「出血傾向」のリスクが生じるという。
健康のために飲んでいたサプリが、薬との飲み合わせ次第では健康を損なう恐れがあるーー。
そのリスクを危惧した堀さんは数十年にわたり薬とサプリの相互作用について研究を続け、「危険な飲み合わせ」に関するデータベースを作成。サプリの知識に精通する薬剤師が少ないなかで、この問題に造詣が深い第一人者となった。
本誌は堀さんがこれまで蓄積してきたデータベースを誌上で初公開。相互作用について表にまとめた。
健康維持を目的としたサプリが相互作用
一見してわかるのが、ドラッグストアなどでよく見かけるサプリ名と、降圧剤や糖尿病治療薬などポピュラーな薬との相互作用の多さだ。
なかでも重篤な相互作用を引き起こす可能性があるのが、栄養素が豊富なことから健康維持を目的に摂取する人が多い青汁やクロレラなどのサプリと一部の降圧剤、利尿薬の併用だ。
「カリウムを多く含むこれらのサプリと、降圧剤のARB、ACE阻害薬、またカリウム保持性利尿薬を併用すると、血液中のカリウム濃度が高まり『高カリウム血症』になるリスクがあります。高カリウム血症は不整脈や心不全など命に関わる重篤な状態を招くため細心の注意を払うべきです」(以下、「 」内のコメントは堀さん)
サプリと降圧剤の組み合わせによっては、薬が“効きすぎる”ことによる弊害もある。
「『血圧が高めの方に』と謳われる特定保健用食品に含まれるペプチド(動物性や植物性などのタンパク質を分解して得られたアミノ酸化合物)は、降圧剤のACE阻害薬と同じ作用機序で血圧の上昇を抑える働きがあります。これらを併用すると血圧が下がりすぎてめまいや立ちくらみを生じる恐れがあります」
降圧剤との組み合わせで血圧が下がりすぎる「過降圧」のリスクが生じるサプリは、アルギニンやケルセチン、コエンザイムQ10、セイヨウヤドリギ、レイシなど多数ある。
同じく薬の作用が増強される恐れがあるのが、ウコンと血栓予防効果のある抗凝固薬の組み合わせだ。
「肝機能の改善目的で飲む人が多いウコンですが、血液をサラサラにする作用を併せ持っています。抗凝固薬と併用すると、血が止まらなくなるといった出血傾向のリスクがあります」
前述したDHA・EPAは糖尿病治療薬との併用でも薬の作用が増強されるリスクが生じる。
「血糖値が下がりすぎる可能性があります。低血糖は進行すると意識障害を引き起こすことがあり、転倒リスクも無視できません」
アンチエイジングなどの目的で利用され、糖の代謝を促すとされるαリポ酸と糖尿病治療薬の組み合わせでも低血糖リスクに注意が必要だ。
「αリポ酸は健康体の人でもインスリンが過剰に働き低血糖になる可能性があるとされ、2010年に厚労省が関連団体に注意喚起をしています」
同じく低血糖のリスクがあるのが、「おなかの調子を整える」などと表示される特定保健用食品のオリゴ糖と糖尿病治療薬の組み合わせだ。
「オリゴ糖には腸での糖の吸収を抑えることで血糖値の上昇を抑制する効果もあるとされます。糖尿病治療薬の一種で“超即効型”と呼ばれる経口血糖降下薬やインスリン製剤と併用すると、動悸、手足の震え、失神など低血糖の症状が表われやすくなります」
お薬手帳にメモしてリスクを回避
薬とサプリの「飲み合わせ」リスクは年齢を重ねるほど注意が必要という。加齢で腎臓や肝機能が低下すると、それらの成分が体外に排出されるまで時間を要し、作用が強く出るためだ。
だが一方で、堀さんはこう指摘する。
「『薬を服用している人はサプリを飲んではいけない』という話では決してありません。併用のリスクを事前に確認したうえで、用法用量を守って使用すれば、サプリは健康増進に役立つものですし、日頃から身体に不足しがちな成分を補うためにも有用です。
ただ、専門知識がない方が、サプリと薬の相互作用を自分で調べるのは困難。使用する際は必ず医師や薬剤師に相談し、問題がないか確認することを習慣化してください。また、お薬手帳にいま飲んでいるサプリをメモすることを徹底していただくことで、リスクを回避することが可能になります。サプリを飲んでからの自分の体調の変化も書いておくとなお良いでしょう」
気軽に利用できるものだからこそ、慎重を期し上手に付き合いたい。
※週刊ポスト2025年6月6・13日号
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