大人用紙おむつの開発・マーケティングチームが考える「介護のある暮らしをラクにするアイテム」消費者に届ける工夫【想いよ届け!~挑戦者たちの声~Vol.3後編】
介護する人・される人を両面からサポートしたい。花王が新たに打ち出した商品提案「介護のある暮らしに花王ができること」。この取り組みを実施したのは、大人用おむつの販売・開発を仕掛けるサニタリーチームのメンバーだ。ブランドマネジャーの佐鳥翼さんを筆頭に、新たに動き出したプロジェクトの内情について迫ってみた。
話を聞いた人たち
花王 ハイジーンリビングケア事業部門・サニタリー事業部に所属する3人。
介護生活に役立つ商品情報が消費者に届いていない
「介護に役立つ、介護生活をラクにしてくれるアイテムは色々あるのですが、どこに売っているのか、どんな使い方をすればいいのか、情報がしっかり伝わっていないケースもあります」とは、新たな取り組みを主導する花王の佐鳥翼さんだ。
大人用紙おむつ「リリーフ」は花王の介護商品を代表する主力ブランド。このチームが一丸となり、花王が4月から開始した新たな販売戦略「介護のある暮らしに花王ができること」を実践。商品のカテゴリーを横断して「介護生活に役立つ」視点から、包括的な提案を行なっている。
「大人用紙おむつや洗剤、消臭剤、シート、さらには衛生用品やほっと一息つけるアイテム向けなど、日用品メーカーとして幅広いカテゴリーの商品をラインナップしていることが我が社の強み。だからこそ、介護生活を断片ではなく全体として捉え、その中から介護する人・される人の暮らしに役立つものをトータルで提案できる。
介護をされる人が使う紙おむつは、介護をする側の人が買いにきますよね。そのとき排泄臭に悩まれていたら臭いケアに特化した洗剤があることを訴求できたらいいですよね。
ほかにも、介護生活の合間に、蒸気の出るアイマスクを使うことで、ほっと気分がほぐれる一瞬を作れたらいい。そういう想いが、この取り組みの原点にはあります。
こうした新たなマーケティングのヒントになっているのは、消費者から寄せられた多くの声。これまでにもお客様相談室には、介護生活でこんなふうに商品を役立てているという声がたくさん届いていました。そういった声を参考にしながら、『こんな使い方があったんだ』『こんなふうに使えばいいんだ』と新たな気づきを得ることができます」(佐鳥さん、以下同)
一方で、まだまだ介護用の商品には訴求ができていない一面もあるという。
たとえば、消費者の声には、商品を探すのに苦心した、もっと早く知りたかったというものや、介護中の親のために商品を購入したが、使い方がよくわからないなど、さまざまな気づきがあるという。こうした声を集めて分析するのもチームの役割だ。
大人用おむつ、ものづくりの現場は「熱い」
この取り組みが始まったのは、2024年に「リリーフ」がリニューアルしたことがきっかけだった。同チームで佐鳥さんとともにこのプロジェクトを進めてきたメンバーにも話を聞いてみた。
「大人用おむつの部署に配属されて、毎日楽しいんですよ。ものづくりがしたかったんですよね。実際に紙パンツを着用してみて、介護を受ける人の気持ちになって、実験を重ねています」
大きな明るい笑顔で受け答えしてくれたのは、開発チームで入社5年目の源和晃さんだ。
高齢者の理解を深めながら、実際にパンツを上げ下げする様子を写真で何度も取り直すなど、実験を重ねた。
「紙おむつを上げ下げする時、おむつを指でつかんで下げ、用を足し、また指でつかんで上げるという動作があります。これが結構難しい。だったら親指が引っかかるようにポケットをつけたらいいよね、と。
また、視力の低下などが見られる高齢者のかたがたは、白い紙おむつの生地に白い縫い目や糸では見えづらい。交換用の尿とりパッドのガイドラインを青いステッチに変更したら視認性が上がるだろうと、細かい改良を重ねました」(源さん)
「開発現場で彼らは日々、介護をされる人たちの身体状況を、身をもって体感し、高齢者の動きを研究している。介護される人・する人の気持ちも考えてものづくりをしているんです。だからこそ、『介護生活をラクにしたい』という想いを込めた、新たな販売戦略の取り組みにふさわしいチームだと思うんですよ」(佐鳥さん)
おむつブランドチームの熱が全社的な取り組みへ
2025年4月から改良新発売した『リリーフ上げ下げらくらくパンツ』には、「介護のプロ推奨」というマークが付いている。“介護のプロ”とは日本最大級のホームヘルパーの団体、日本ホームヘルパー協会だ。この初の“お墨付き”の実現に尽力したのが、佐鳥さんと同じチームでマーケティングを担当する東江憲太郎さんである。
「介護する人・される人が実際にどういう点で困っているか、日々訪問介護の現場で働くプロの方に聞くのがいいと思って、『教えてください』と正面からアプローチしていきました。
現場で働くヘルパーさんと協会幹部のかたがた、どちらにも実際に商品をよく見てもらって使っていただき、ご意見をいただきました。その上で、双方からの承認という形で協会から推奨をいただくことができました」(東江さん)
一見、穏やかな印象を周囲に与えるが、佐鳥さんは「おっとり見えて、フットワークがよく、実は内に秘めた熱意を感じる」と東江さんを評する。
一方で東江さんは、上司である佐鳥さんのことを「膨大な仕事量を顔色ひとつ変えずにこなす。一見クールだが中身は熱い人」とも。チームメンバーの熱量と風通しの良さが伝わってくる。
介護生活の大変さを少しでも減らし、暮らしの質向上をサポートする花王のトータルソリューションと、それを支える商品の数々。ブランドをまたぎカテゴリーを超えた包括提案の取り組みは、まだ始まったばかりである。
「社内からも『こうした形で介護の役に立てられるのでは』などと、新たな提案が積極的に出始め、全社的な動きになってきています。
さらに多くの商品ブランドを取り入れ、お客様や流通のみなさんの意見も伺いながら、花王の商品が介護のある暮らしでお役立ちできるシーンをもっともっと広げていきたいと思っています」。佐鳥さんはこれまた涼しい表情で、熱っぽく語った。
■介護に花王のできること
https://my.kao-kirei.com/kaigo/
撮影/柴田和衣子 取材・文/斉藤俊明