瀬戸内寂聴さんは99才、親鸞は90才 僧侶が長生きの理由は「音読」にあり その効果を専門家が解説
私たちの身体は年齢を重ねるにつれて体力だけでなく口周りの筋肉も低下している。口の機能が低下する状態を「オーラルフレイル」と呼び、要介護や死亡のリスクが高まるという。そこで予防法として注目されているのが「音読」だ。声を出してお経を唱える僧侶には長生きが多いという。健康効果が高いとされる「音読」について専門家にその理由を聞いた。
「音読」は嚥下機能を保つことにつながる
音読は脳だけではなく、体も甦らせる。
みえ呼吸嚥下リハビリクリニック院長の井上登太さんが説明する。
「音読をすることは、嚥下機能と呼吸器機能を保つことにつながります。ただの発声でも効果はありますが、複雑な運動を求められる音読はより効果が高まります」
「あ~」という単純な発声とは異なり、音読は「伝えやすい息継ぎのタイミングを意識する」「息を吐きながら声帯を動かす」「抑揚をつけてリズミカルに発声する」「語尾の上げ下げを調整する」といった複雑な動作が求められる。
それらによって口の周りの筋肉が鍛えられ、噛む力や飲み込む力、吐き出す力が維持される。その結果、日本人の死因上位である誤嚥性肺炎の予防にもなる。また息継ぎや抑揚、言葉尻などを意識して音読すると呼吸器機能が鍛えられ、体の老化を防げる。
井上さんは、特に高齢者は、嚥下機能と呼吸器機能の低下が健康寿命に直結すると語る。
「若い頃の呼吸器機能を100%とすると、高齢者はベースが70~80%程度になっています。若い人がちょっと風邪をひいた場合、肺の20%が炎症を起こしても残りの80%が機能して難を逃れますが、高齢者が同等の機能低下を起こすと余力が60%前後しかなく、息を吸うのがやっとになる。同様に嚥下機能も低下し、高齢になるほど誤嚥性肺炎の危険性が増します。それらのリスクを減らすために、日常生活から高齢者ほど音読を心がけて、嚥下機能と呼吸器機能を高めておくことが大切です」(井上さん・以下同)
会話がなくなると嚥下機能低下
日常生活で「会話」がなくなることも危険なサインだ。
「特に高齢者は1日でも会話がなくなると、あっという間に嚥下機能が低下します。妻を亡くした夫が1年半以内に亡くなることが多いのは、普段から会話する相手が妻しかいなかったからだと思います。実際に私が診ている高齢者でも、会話の機会をなくしてから1年半ほどで亡くなるケースが目立ちます」
高齢者が病院や施設に入った場合も、専門医は声を出す機会の有無に神経を配る。
「高齢者が病院や施設に入った場合、日曜や祝日はリハビリが休みの施設があります。面会もリハビリもないと目に見えて嚥下機能が低下して危険な状態になるため、医師は申し送りで看護師に“数分でいいから○○さんと会話する機会を設けてください”と依頼します。日常的に声を出してしゃべることはそれほど大切なのです」
「無声」がもたらす大きなリスクを避けるためにも井上さんは、毎日の音読をすすめる。
「短い時間でも構わないので、音読は毎日欠かさないでほしい。ひとりで行う場合は独り言のようにつぶやくことを避け、子供や孫に読み聞かせる状況を思い浮かべて、抑揚や息継ぎを意識することが重要です。音読する際は、“聞き役”がいることを常に想定してください」