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健康

のどを鍛えて病気を防ぐ|人気声優、僧侶らプロが実践、長生きする「最強のど」の作り方

 食事、会話、呼吸…毎日の生活で酷使されている私たちの「のど」は、使いすぎれば炎症を起こし、使わなければ衰える。適度にケアをして鍛えることが、丈夫なのどの必須条件となる。そこで、日々、のどと向き合って健康に暮らすスペシャリストたちに話を聞くと、「最強ののど」を作るヒントが隠されていた。

死を招く誤嚥性肺炎は、のどの筋肉の老化が主な原因

「人生100年時代」という言葉が現実味をおびてきた。

 現在、日本人の死因の第3位である肺炎の約7割は、高齢者の「誤嚥(ごえん)性肺炎」が占めるといわれている。厚生労働省の平成29年「人口動態調査」によると、誤嚥性肺炎による死亡数は約3万6000人に上る。

 食べ物や唾液が、細菌と一緒に気管に流れ込んで肺炎になってしまうこの病気は、のどの筋肉の老化が主な原因だ。

 日本耳鼻咽喉科学会専門医の木村聡子さんが解説する。

「のどには、食べ物を咀嚼(そしゃく)する筋肉、嚥下(えんげ)する筋肉、声を出す筋肉があります。それぞれ別の筋肉ですが、いずれも年を取るにしたがって衰え、使わなければ急速に弱くなります。高齢になってから体調を壊して入院し、点滴での生活が数日続けば、あっという間に飲み込む力が弱くなって誤嚥しやすくなったり、口からものを食べられなくなることも少なくありません。自分の口で食事をすることは長生きには絶対条件です」

 呼吸、食事、会話…人間が生活する上で重要な役割を果たすのどは、かぜをひく「入り口」でもあり、非常にデリケートな部分でもある。しかし、ケアやトレーニングによって、強くすることは可能だ。

 そこで、のどを使うことを生業としている達人たちに「最強ののど」を作るために行っている健康法を聞いた。

首かけマスクと口にばんそうこうでかぜ知らず

 1990年1月に放送がスタートしたアニメ『ちびまる子ちゃん』(フジテレビ系)。声優の佐々木優子(57才)は、主人公・まる子のおばあちゃん役を29年もの間、担当し続けてきた。

 スタート当時は28才だったというから、まさに息が長い。

「おばあちゃんの役は、すごく高い声を作って出しているので、少しでもかぜ気味になると、すぐにのどが張りついた感覚になって声が出なくなってしまうんです。絶対にかぜをひかないように、365日気をつけています」(佐々木・以下同)

 6年前から、肌身離さず身につけていると見せてくれたのは、クロニタスの「首かけマスク」。

 強力な除菌効果のある「二酸化塩素」の薬剤が入ったパックを首からぶら下げておくだけで、自分の周囲のウイルスや菌を除去してくれるというアイテムだ。この6年間でかぜをひいたのはたった1回だけという。

「もともと、マスクが着用できない場所での花粉症対策に使い始めたのですが、かぜの予防にも効果的だと感じて、それ以来ずっと首から下げています。一度だけ落としてしまって3日間つけなかっただけで、4年ぶりにかぜをひいてしまったんです。嘘みたいな話なんですが、私には効果てきめんです」

 首かけマスクと同時期に始めたと話すのが、睡眠時にばんそうこうで口を塞ぐこと。口呼吸によるのどの乾燥を防ぐ効果があり、最近は専用のテープも販売されているが、佐々木は「ばんそうこうで充分」と言う。

「専用テープは毎日使うには高いので、私はばんそうこうを使っています。安くて、たくさん入っているものの方が、粘着力が強すぎず、はがす時に痛くないんです。冬はこの上からさらにマスクをして寝ています」

 加湿器を使わなくても、これでしっかり保湿効果を実感できるという。睡眠時に「口呼吸」を防ぐ重要さを木村さんが解説する。

「鼻や気管など空気の通り道である『気道』には『線毛細胞』という細胞があり、侵入したウイルスなどの異物を粘液でキャッチして外に出す働きがあります。しかし、気道が乾燥すると、線毛の働きが鈍くなってしまう。鼻で呼吸した場合は、鼻毛がほこりやウイルスなどの異物をキャッチしたり、鼻腔の中で湿度を調整したりする機能があるのですが、口で呼吸すると乾いた外気やウイルスがダイレクトに入ってくる。鼻が詰まっていて呼吸できないような状態でなければ、口呼吸はなるべくやめるべきです」

 おしゃべりをしすぎたり、カラオケで歌いすぎたり、のどに負担をかけたと感じた後は徹底してのどを休める。

「声を出さないのは当然ですが、文字も見ないようにします。目で文字を追うだけでも声帯はわずかに動くので、のどを休める時は目も休めるように医師から言われたことがあります。その間は、台本も読みません」(佐々木・以下同)

 健康情報は、仕事仲間と交換することもある。同じく『ちびまる子ちゃん』で、まる子のおじいちゃん・友蔵役を務める島田敏(64才)から伝授された手の洗い方は、すっかり習慣になっている。

「マスクをしていても、ドアノブなど触れたものから手にウイルスがつくことがあります。手を洗う時は石けんを10秒間泡立てた後、15秒間水で流す。これを2回行います。石けんを泡立てることよりも、しっかり水で流すことの方を重視しています」

 ウイルスを寄せつけないためには、体力も大事だ。食事は制限せず、食べたいものをしっかり食べるが、ただし、冷たいものを食べる時は工夫を凝らす。

「お水は常温。今年の夏も、冷水は一度も飲みませんでした。アイスクリームを食べる時は、必ず白湯を飲みながら。外出先で食べる時も、ホットコーヒーを一緒に飲むようにしています。過去に、ダイエットをしていてサラダばかり食べていたら、低体温症になってしまったことがあったんです。それ以来、冷たいものを食べる時は温かいものを飲んで、体温をキープする意識を持っています」

 家電には頼らず、食べたいものはがまんしない。庶民の生活を代表する“さくら家”のおばあちゃんの知恵袋は、なんとも親しみやすい工夫にあふれていたのだった。

「お経」でのどを鍛え、老化予防

 葬儀や法事をこなし、毎朝、“お勤め”でお経を唱えるお坊さんは、想像以上にのどを酷使している。

 お寺の住職を務める傍ら、お経と現代音楽を組み合わせた音楽活動でも注目を集める高野山真言宗 龍源山功徳院住職・松島龍戒さん(51才)は、月2回のボイストレーニングでのどを鍛えていると明かす。

「真言宗ではお経のことを『声明(しようみよう)』といい、メロディーをつけて読み上げます。発声や音程、波打つように声を揺らす『ビブラート』のような技術など、ほかの宗派以上に声の響きを大切にします。のどに負担をかけず、ご参列の皆さまにより喜んでいただくためにはどうすればよいかを意識し、ボイストレーニングに10年前から通い始めました」(松島さん・以下同)

 お経を健康にも役立てたいと考える松島さんは、病院や高齢者施設でも積極的に音楽活動を行っている。そこでは、お経ならではの発声で、のどを鍛えることを説く。

「高齢になるほど外出する機会が減り、特にひとり暮らしのかたは話をしたり、声を出すことが少なくなります。歌を歌ってもいいのですが、家でひとりで歌うのも抵抗があるでしょう。その代わりに、お仏壇の前でお経を唱えてほしい。もともと、民謡の節回しは、お経から由来しているといわれています。お坊さんっぽく、少しこぶしをきかせるようにすれば、さらにのどが鍛えられるでしょう」

 いつもと違う発声で声を出すことは、のどの筋肉を鍛えるために有効だと木村さんも語る。

「声を出す時は、『喉頭筋(こうとうきん)』と呼ばれるのどの筋肉を使います。声帯を動かしたり、舌を動かしたりする筋肉ですが、いつもと違う発声や口の動きをすることで、筋トレのような効果が得られます」

 のども、動かした分だけ腹筋や背筋のように強化できるということだ。ただし無理に発声をやりすぎると声帯結節などの病気の原因になりかねないので注意しよう。

 酒は飲まないという松島さんは、食事にもこだわりを持つ。「避けている」と答えたのは、意外な飲み物だった。

「神頼み的な習慣ではありますが、のどを乾燥させないという目的で、油分の摂取を心がけています。うどんには天かすを入れたり、オリーブオイルを少し垂らすと、のどが滑らかになる気がします。一方で、飲まないようにしているのがウーロン茶。中華料理の油をすっきりさせるための飲み物だと聞いてから、控えるようになりました」(松島さん)

 のどが疲れた時には、たっぷりと睡眠を取るという。毎日の生活で身についた治癒力は、処方箋以上に強力だ。

薬代わりの「マヌカハニー」で医者いらず

 2005年から「2代目しずかちゃん」として、アニメ『ドラえもん』(テレビ朝日系)のしずかちゃん役を担当している声優のかかずゆみ(46才)も、のどの筋肉を鍛えるトレーニングを日常的に行っている。

「体のストレッチのついでに、のどの筋肉も動かします。これ以上、上を向けないというくらい顔を上げて、『アーオーアーオー』と声を出したり、上を向いたまま舌を出したり引っ込めたり。毎日のうがいも『ガラガラ』ではなく、『ガラゴロガラゴロ』と行うと、のどの奥から汚れが取れるように感じます。電車に乗っている時も、マスクをしていたら密かにのどぼとけの上下運動をして、とにかく頻繁にのどを動かすことが習慣になっています」(かかず・以下同)

 13才と10才の息子を持つ母でもあるかかずは、のどのトレーニングを子育てにも活用している。

「子供を起こす時、声の大きさではなくて、いろんなパターンの声を出して起こすんです。高いトーンの時もあれば、低い声も出す。さまざまな音域を出して、声帯をまんべんなく動かします。私はソプラノタイプの音域なので、わざと低い声で怒ったりして。いつも同じトーンだと子供も慣れてくるのですが、トーンを変えてみると効果があるんですよ(笑い)」

 家庭でも七色の声を使い分けるかかずだが、のどの調子が悪い時は、子供とも筆談で会話しているという。

「医師から、ひそひそ声ものどの負担になると教えられたんです。ですから、本当にのどを休めたい時は、家でも声を出さない。そうすると、案外子供たちも優しく接してくれるんです(笑い)」

 さらに、スペシャルケアとして、はちみつの一種である「マヌカハニー」をのどに塗っていると話す。それも、「MGO」という殺菌力を持つ、マヌカハニー特有の成分の数値が高いものを選んでいるという。

「スプーン半分くらいをのどの奥の手前に入れたら、体温ではちみつを溶かしていくと同時に、上を向いて、のどぼとけを上下するようにのどを動かしながら体を左右に傾けます。飲み込まずにのどの奥に付着させる感じです。薬代わりに塗っているのですが、おかげでほとんど病院には行きません」

 ポイントは、塗った後にしゃべらないこと。はちみつの効果について、木村さんはこう話す。

「はちみつには殺菌作用があるといわれ、特にマヌカハニーには高い効果があると注目されています。はちみつ特有の粘り気が、のどの粘膜をコーティングして痛みをやわらげてくれるほか、はちみつをなめることで唾液が出ると、のどが乾燥するのを防ぐことができます」

 冬は、先輩声優から教わった「のどに優しいスープ」が食卓の定番だ。

「長ねぎ、玉ねぎ、鶏の手羽、鶏ガラスープ、しょうがを使ったスープです。私は、ねぎをとろとろになるまで炒めて、手羽も少し焦げ目をつけてから水で煮込みます。そこに鶏ガラスープを足し、最後にしょうがを入れます。まろやかな味わいで、とても体が温まるんです」(かかず)

 ねぎと野菜の栄養がたっぷり含まれたスープは、体を温めてくれるだけではない。

「しょうがには殺菌作用や血液の循環をよくする作用、胃腸の調子を整える作用があります。ねぎにも殺菌や炎症を抑える成分があり、のどや体を守ってくれる効果が期待できます」(木村さん)

 マヌカハニーとスープ、そして2人の息子たちがしずかちゃんののどを守っている。

姿勢よく歌うことで、体の中から元気に

 NHK『おかあさんといっしょ』(1959年~)で、1961年から“初代うたのおねえさん”を務めた歌手の眞理ヨシコ(80才)。現在も歌手として精力的に活動を続け、

「かぜをひくのは5年に1度くらい」

 と生き生きとした笑顔で語る。

 現在80才の眞理にとっては、「歌うこと」がいちばんの健康法だと話す。「普段、私たちがしているのは肺呼吸ですが、歌うためには、お腹まで深く息をためて深く呼吸をしなければ歌うことができません。腹式呼吸をすれば腹筋も鍛えられるし、内臓が刺激されるため、胃や腸に不調を感じることもありません。おかげで、食欲もたっぷりあります」(眞理・以下同)

 最もいいコンディションで声を出すためには、姿勢が大切だという。眞理は、自分にとって正しい「首の位置」を探すことをすすめる。

「まっすぐ前を見て、おへそを体の真ん中に、骨盤が左右まっすぐになるように立つと、自然と脇腹が伸びてくる。そこで、軽く肩を回してほぐすと、自分にとってベストな首の位置が見つかるんです。年を取ると猫背になりがちですが、姿勢が悪い人って胃が悪かったりすることが多いでしょ。わざわざ運動しなくても、いい姿勢で歌うだけで健康になれますよ」

 コンサートを直後に控えている時はのどの粘膜を刺激する辛いものは控えるが、基本はなんでも好きなものを食べる。普段の食事では、お酒もがまんしない。

「アルコール度数が強いものは、原液で飲まなければいい。たとえば、ウオッカならトマトジュースで割ってカクテルに。おいしいものはおいしくいただくのがいちばんですから。その分、歯磨きは念入りにしています。おかげで虫歯はありません」

 誤嚥性肺炎は、歯周病菌が肺へ流れることが原因ともいわれる。自分の口で食べるためにも、歯の健康を維持することは、長寿の条件だ。

 さらに、自宅では各部屋に加湿器を置き、のどに違和感があれば、念入りにうがいをする。外出先では、首のまわりを冷やさないようストールやタートルネックを愛用している。

「香辛料やアルコールはのどの粘膜を直接刺激するため、のどを傷めやすいのは事実。また、首には頸動脈など太い血管があるので、そこを温めることは体を冷やさないことにつながります。逆に、高熱が出た時は、首や脇の下を冷やすと効果的です」(木村さん)

 理にかなった眞理のケアは、幼少期の経験も影響しているという。

「小学校1年の時に終戦を迎えましたので、栄養失調の子供も多く、医療も行き届かない状況でした。母は医者の娘だったので、私が肺炎になりかけると、鍋に湯を沸かして前に座らせてくれました。今でいう加湿器みたいなものです。沸かしたお湯の中に塩を多めに入れて、そこに浸したタオルを湿布代わりにすることもありました。肺の上、背中、首に当てると、温まって気持ちがいいんです。塩を入れるのは、お湯の温度を下がりにくくするためですが、昔の人はそんなことをよく知っていたのね」(眞理)

 母の教えを胸に、初代うたのおねえさんは、傘寿を迎えてなお、現役で歌い続ける。

 いずれの達人たちが実践する「のどケア術」も、私たちがすぐにまねできるようなことばかり。特別なことではなく、毎日の生活の中にこそ、のどの健康を保つ秘訣がある。

※女性セブン2019年9月12日号

●「内臓冷え」で免疫力低下、太る、命に関わる病気も。チェックリストと対策

●女性の声の変化は要注意。可能性のある病気と喉年齢チェック法

●死を招く誤嚥性肺炎を防ぐ のみ込む力を鍛えるトレーニング法

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