睡眠の質は認知機能に影響も「ソファで寝落ち」ほかやってはいけない睡眠6選【専門医解説】
睡眠が健康を左右することは誰もが知っている。さらに、近年の研究から睡眠の質によって認知機能に影響を与えることがわかってきた。「ボケない睡眠」を知らなければ、あなたの睡眠は“間違いだらけ”ということになりかねない。
教えてくれた人
中山明峰さん/めいほう睡眠めまいクリニック院長、西多昌規さん/早稲田大学睡眠研究所所長、奥村歩さん/おくむらメモリークリニック理事長
慢性的に睡眠不足が続く“睡眠負債”に要注意
都内在住の主婦・加賀美智子さん(56才・仮名)はここ数年、ある悩みを抱えている。
「年齢とともに寝つきが悪くなって睡眠不足が続き、疲れがまったくとれません。これからの季節、暑くなってもっと寝づらくなると思うと憂鬱です。だけど、寝つきが悪くなったり、睡眠時間が減るのは老化現象だと思ってあきらめています」
加賀さんのような人は多いだろう。しかし「たかが睡眠不足」「年をとったから仕方がない」と侮ってはいけない。めいほう睡眠めまいクリニック院長の中山明峰さんが解説する。
「1か月程度の一時的な睡眠不足なら問題ないですが、慢性的に睡眠不足が続く“睡眠負債”の状態に陥ると、認知症の原因になる『アミロイドβ』や『タウたんぱく質』と呼ばれる老廃物が蓄積し、脳の神経細胞が正常に働かなくなり、神経細胞が破壊されます。そうなると、認知機能の低下や記憶障害が起こります」
早稲田大学睡眠研究所所長の西多昌規さんが続ける。
「よく睡眠時間さえ確保すれば大丈夫と勘違いしている人がいますが、時間よりも質が大切。7時間寝ても、朝起きて疲労感が残っていたり、昼間の活動中に眠気があれば、それは睡眠の質が悪い可能性が高いです」
そもそも睡眠には脳が休んでいる状態のノンレム睡眠と、大脳が活発に活動しているレム睡眠という2つの状態がある。睡眠の質は、その睡眠サイクルが鍵を握っている。
「眠るとまずノンレム睡眠で脳を60分休ませ、次のレム睡眠では脳が起きて体を30分休ませる。そのサイクルを90分間隔で繰り返しているのが質のよい睡眠といわれます。問題は睡眠サイクルに異変が生じたとき。レム睡眠中は日中に見た映像や音など記憶の整理が行われていますが、このレム睡眠が不足すると認知機能に影響が出ます」(中山さん)
睡眠負債につながる6つの行動
ノンレム睡眠のリズムが乱れるとどうなるのか。
おくむらメモリークリニック理事長の奥村歩さんが解説する。
「ノンレム睡眠の役割は簡単にいうと“ゴミ掃除”です。脳の神経細胞が働くことで赤ん坊でもアミロイドβは作られますが、赤ん坊や若者はよく眠るので、ノンレム睡眠時にきれいに掃除されて脳に一切蓄積されません。それが40才を過ぎると睡眠の質が低下し、完全にアミロイドβを掃除できず、蓄積が始まります。そのため認知症リスクが高まるのです」
つまり、40才を過ぎてからは質のよい睡眠をとることが重要だ。いくら睡眠時間をたっぷりとっても、早寝早起きしたとしても「質」が悪ければ意味がない。むしろ、睡眠の量や時間にこだわることが逆効果になることもある。
加齢に伴い、体内時計の機能が変化し、睡眠の質に影響を与える。特に高齢者で多くなるのが就寝と起床時間のズレだ。夜8時に寝て、夜中の2時に目が覚める人もいる一方、午前0時を過ぎても寝つけず早起きできなくなるケースも。
「朝まで寝られず寝不足だと悩む人がいますが、その多くは早寝が原因で夜中に目が覚めているだけ。早寝が原因であれば夜10時頃まで起きておくことで、日が昇り始める頃に目覚めるようになります」(西多さん)
早く起きた際、無理に寝続けるのもよくない。
「睡眠過多も認知症リスクを上げます。イギリスの研究では7時間睡眠の人に比べると、睡眠時間が6時間以下や8時間以上と、短すぎる人や長すぎる人の方が認知症リスクは高くなっていました」(中山さん・以下同)
ほかにも質の悪い睡眠は多くある。寝室で寝る前に、テレビを見ながらソファで寝落ちするのはよくない。
「数時間眠っただけでも、中途半端に増えた睡眠ホルモン『メラトニン』により脳が一晩寝たと勘違いし、体内リズムが乱れます。その後に寝ようとしてもよい眠りにならず、翌日は眠気に襲われることになります」
さらに日中の眠気に負け、また寝落ちする負の連鎖が始まるのだ。
「寝不足の解消として週末に寝だめするのもよくない。長期間の質の悪い睡眠が認知機能の低下を起こすので、平時の寝不足を何とかしなければ意味がありません。何より寝だめによってさらに体内時計に乱れが生じかねません」
寝る前のゲームやスマホの使用はもってのほかだ。
「スマホやゲーム機が発するブルーライトによって、脳が昼間だと勘違いして覚醒してしまう。寝る2時間前には使用をやめましょう」
眠くなるからといってアルコールに頼るのは、睡眠の質の低下につながる。
「アルコールには入眠作用がありますが、3〜4時間経過すると体内で覚醒物質『アルデヒド』が代謝されるので、数時間すると目が覚め、眠りを浅くします」
やってはいけない睡眠6つ《まとめ》
・就寝と起床時間のズレ
・睡眠過多
・ソファで寝落ち
・週末の寝だめ
・寝る前のゲームやスマホの使用
・眠くなるからといってアルコールに頼る
写真/PIXTA
※女性セブン2025年6月19日号
https://josei7.com
●日本人は「世界一睡眠が足りていない国民」だった!「明るすぎる照明」と「長風呂」が快眠を妨げる原因に
●「睡眠時の靴下着用はNG」「ウオーキングは坂道や凸凹の道が効果的」 “いつまでも自分の足で歩きたい”を叶えるケア法【専門家解説】
●老化を食い止めるのに管理栄養士がすすめる食材は「アーモンド」 中年太り対策や睡眠の質アップにも…1日の摂取量の目安は「25~30粒」