ひとり暮らしの認知症の母の失禁対策としてポータブルトイレに施した工夫
岩手・盛岡で暮らす認知症の母を遠距離介護している作家でブロガーの工藤広伸さん。以前は月に2度、1週間帰省していたが、コロナ禍で帰省は不定期になってしまった。じわじわと進行している認知症の症状も心配だ。そんな中、先日1か月ほど帰省した際に、ポータブルトイレを設置することになったお話だ。
【目次】
ポータブルトイレの設置を決めた理由
4月末から1か月強帰省していた際、母の寝室に、ポータブルトイレ(移動可能な簡易トイレ)を設置しました。なぜ設置することになったのか、トイレの種類や選び方のコツも合わせてご紹介します。
母の夜間失禁は数年前からあったのですが、回数が急激に増えました。最初は、今冬の厳しい寒さのせいでトイレが近くなったと思っていたのですが、春になっても改善しなかったことから、加齢や認知症の進行、立ち上がりの不自由さが原因と判断したのです。
前回の記事「認知症の母の失禁対策に困った息子がニトリのまくら・まくらカバーを購入した理由」に書いた、母の独特な失禁処理も重なり、わたしの朝の掃除時間が増えていきました。
→認知症の母の失禁対策に困った息子がにニトリのまくら・まくらカバーを購入した理由
オムツも検討しましたが、認知症が進行したひとり暮らしの母は履いてくれません。いろいろ検討した結果、とうとうポータブルトイレの設置に踏み切ったのです。
ポータブルトイレの選び方のコツ
母の担当ケアマネジャーに相談したところ、福祉用具のプロである福祉用具専門相談員が自宅まで来てくれて、ポータブルトイレなどが掲載された福祉用具カタログを入手したのですが、あまりに種類が多かったので選び方のコツを教わりました。
タイプは…家具調か樹脂か?
ポータブルトイレは、大きく分けると、和室の家具になじむ木製の家具調と呼ばれるタイプと、一般的な樹脂タイプがあります。
家具調は木製なので重くて安定しており、トイレに多くつかまって姿勢を保つ人に向いています。また、部屋にトイレがあると恥ずかしいと感じる人のために家具調があるのですが、わが家では母にトイレとはっきり分かって欲しいので、樹脂タイプを選択しました。
便座は…ソフトか樹脂製か?
トイレの便座は、座りやすく冷たさを感じないソフト便座と、樹脂製の普通便座があったのですが、ソフト便座は割れやすいとのことで、耐久性を重視して普通便座を選択しました。
他にも暖房付き便座や、工事が必要になりますが、寝室に水洗トイレの設置も可能でした。電気を使うトイレは、母がコンセントを抜いてしまう恐れがあったので、最もシンプルなポータブルトイレを使うことにしたのです。
利用者が直接肌に触れるポータブルトイレは特定福祉用具に分類され、レンタルではなく購入になります。年間10万円(税込)が上限額となります。わが家は介護保険1割負担で、最終的なトイレの支払いは約2000円で済みました。
ポータブルトイレを使ってもらうための工夫
実はポータブルトイレを設置する前から、母がポータブルトイレを認識できるかどうか不安でした。認知症が進行した今、寝室にトイレを設置しても、単なるプラスチック製の椅子と勘違いするかもしれないと思ったのです。
また、母が夜中に起きた際、寝室にトイレがあることを瞬時に思い出せるか不安がありました。
母の担当ケアマネジャーに相談してみると、やはり、認知症の人でポータブルトイレを認識できなかったり、部屋の邪魔になると片づけてしまったり、物置きとして使ったりする利用者さんがいたとのことでした。
そこでわが家では、トイレのそばに「トイレがまにあわないときはここでして!」と書いた紙を貼りました。母が読めない漢字が増えているため、かな表記になっています。
ポータブルトイレ設置後の使用感
ポータブルトイレを設置した翌朝、母の寝室へ行ってみると、床やふとんは汚れておらず、恐る恐るトイレをのぞいてみると、初日から使った形跡がありました。
おそらく貼り紙よりも、トイレについていたトイレットペーパーのおかげで、トイレが寝室にあると認識できたようです。その後は週5回ほどトイレの利用があり、ホッとしたのですが、貼り紙がないと「何なの、これ?」と質問されます。
おかげで失禁処理の時間が大幅に短縮されたわけですが、たまにトイレがあることを忘れてしまい、寝室の畳やふとんに失禁することがあります。おそらく夜間は寝室が暗く、起きた瞬間にトイレを認識できないのかもしれません。
母は豆電球をつけず、真っ暗にして寝る人なので、眠りを妨げずにトイレを認識できる照明の設置を検討しています。
掃除はだいぶラクになりましたが、ポータブルトイレ自体の掃除が必要になりました。トイレの中にバケツがあって、通常はそこに水を張って利用します。この使い方だと、バケツの尿を捨てたり、バケツ自体を毎回洗ったりしなくてはなりません。
その手間を減らすため、わが家では専用の処理袋を購入し使っています。
訪問介護のタイミングによっては、2日以上誰も尿を処理できない日があります。そこで尿をジェル化し、軽い消臭機能がついている処理袋を利用することで、寝室のニオイが軽減されています。わたしが東京に戻ってからは、ヘルパーさんや妹が処理袋の廃棄やセットを担当してくれています。
失禁処理に悩まされている介護者の方は、ポータブルトイレの設置を検討してみてください。
今日もしれっと、しれっと。
工藤広伸(くどうひろのぶ)
祖母(認知症+子宮頸がん・要介護3)と母のW遠距離介護。2013年3月に介護退職。同年11月、祖母死去。現在も東京と岩手を年間約20往復、書くことを生業にしれっと介護を続ける介護作家・ブロガー。認知症ライフパートナー2級、認知症介助士。ブログ「40歳からの遠距離介護」運営(https://40kaigo.net/)。音声配信メディア『Voicy(ボイシー)』にて初の“介護”チャンネルとなる「ちょっと気になる?介護のラジオ」(https://voicy.jp/channel/1442)を発信中。