連載

尿失禁の対処法…認知症の母が受け入れた失禁パンツとは?

 東京と岩手を行き来し、認知症の母の遠距離介護を続ける作家でブロガーの工藤広伸さん。実は6年ほど前から母の尿失禁への対策を模索していたという。介護する人もされる人も悩ましい排せつ問題。工藤さんが試行錯誤を繰り返すなか、偶然出会ったあるものとは…。

認知症の母にオムツを履いてもらおうとして失敗した話

 内閣府の調査によると、在宅介護で苦労したことの1位※が排せつでした。わが家でも母の失禁には苦労していて、その成功と失敗のお話です。

 失禁といっても原因は様々で、加齢によるものや膀胱や尿道の病気によるもの、認知症で尿意が分からない場合もあります。

 77歳の母は年齢的なものと、手足が不自由でトイレにたどりつけずに失禁してしまうのだと思います。

 特に夜間の失禁が多く、寝室で失禁し、畳やフローリングを汚したこともあります。母が介護用オムツを受け入れてくれればいいのですが、排せつは親のプライドに密接に関連するもので、オムツへの移行は簡単ではありません。

 そのため、次の方法で少しずつ失禁対策をしてきました。

※参考/内閣府「介護ロボットに関する特別世論調査」
https://survey.gov-online.go.jp/tokubetu/h25/h25-kaigo.pdf

最初は軽い尿漏れ用パッドからスタート

 認知症の母の失禁は、2015年頃から始まったように思います。

 最初は軽めの失禁だったので、まずは尿漏れ用パッドから始めました。パッドを使う前、母はなぜかトイレットペーパーをパッドのように使っていたため、汚れたパンツと一緒にトイレットペーパーを何度も洗濯してしまいました。

 洗濯物に大量に付着するトイレットペーパーと格闘しながらも、なんとか母に尿漏れパッドを使ってもらおうと、いろいろな手を使ってアプローチしてみたのです。

 例えば、「亡くなった祖母が使っていた尿漏れパッドが余っているから、使ってみてよ」とウソをついて勧めてみたり、枕元にパッドを毎日置いてみたりと試行錯誤した結果、尿漏れパッドを使ってもらうことに成功しました。

リハビリパンツはどうなの?

 それから6年が経ち、失禁回数も尿の量も多くなってきて尿漏れパッドでは防ぎきれなくなってきました。まずは下着のように履けるリハビリパンツから勧めることにしました。リハビリパンツならば、尿パッド数回分の尿を吸収できるからです。

 ところが、リハビリパンツは見た目はパンツでも、素材は紙です。母に「オムツは必要ない」と言われてしまい、リハビリパンツの説明をしましたが、導入は失敗。今も布パンツと尿漏れパッドの組み合わせで使っています。

 さらに、新型コロナウイルスの影響で、帰省が難しい状況です。仮にリハビリパンツを受け入れてもらったとしても、ひとりになればまた、布パンツと尿漏れパッドに戻ってしまうため、習慣化できません。

ポータブルトイレという選択肢も…

 家だけではなく、デイサービスでも失禁し、リハビリパンツを履いて帰ってくることも増えましたし、尿漏れパッドを忘れ、トイレットペーパーに戻る日もあります。結局オムツでもない、リハビリパンツでもない、母にあった失禁対策の方法を探すことにしたのです。

 トイレの場所を変えれば、失禁問題は解決するのでは? と考えたわたしは、母の寝室にポータブルトイレの設置を思いつきました。亡くなった父が寝たきり状態になったとき、ベッドサイドにトイレを設置していたので、そこからヒントを得ました。

 まだ試していないのですが、おそらく母はポータブルトイレをトイレと認識できないような気がします。それに、トイレ以外の場所で用を足すことに抵抗があり、時間がかかりそうなので、別の方法を模索しました。

偶然出会った“失禁パンツ”とは?

 Amazonで探していたところ、偶然『あっ ショーツ 尿漏れパンツ』という商品を見つけました。いわゆる「失禁パンツ」と呼ばれるカテゴリで、種類は軽失禁(40cc)と重失禁(100cc)用があります。

 失禁パンツは、見た目は布製パンツと変わらないため、紙のオムツに抵抗のある方でも受け入れてもらえる可能性が高いです。ただ、尿を複数回吸収できるリハビリパンツと比べて、失禁パンツは吸収量が少ないので、軽めの失禁の方しか使用できません。

 パッド部分は3層構造で、横モレ防止機能がついています。実際にパンツを持つと失禁パンツと分かるほど、しっかりした作りになっていますが、見た目も肌触りも布パンツとほとんど変わりません。母のプライドを尊重した失禁対策の方法は、現状ではこれがベストと判断しました。

 リハビリパンツを見せたときは抵抗を示した母でしたが、失禁パンツはすんなりと受け入れてくれました。

「見た目は布のパンツと変わらないし、尿を吸収するから便利だよ」と声掛けしたところ、デイサービスに履いて行ってくれたのです。

 母が受け入れてくれたので、そのまま3枚購入してタンスに入れておきました。今後は布パンツの量を減らしながら、失禁パンツの枚数を増やして、少しずつ移行していこうと思います。

 とはいえ、いずれリハビリパンツやオムツのお世話になる時期が必ずやってくるので、現在ケアマネジャーさんといい方法がないか検討中です。

 認知症ご本人の自立やプライドを尊重しつつ、介護する側の排せつケアをラクにする選択肢はたくさんあると思います。母にはできるだけ自分でトイレに行って欲しいですし、自宅で自立した生活を長く送って欲しいので、今後もベストな環境を模索し続けます。

 今日もしれっと、しれっと。

→工藤広伸さんの他の記事を読む

工藤広伸(くどうひろのぶ)

祖母(認知症+子宮頸がん・要介護3)と母のW遠距離介護。2013年3月に介護退職。同年11月、祖母死去。現在も東京と岩手を年間約20往復、書くことを生業にしれっと介護を続ける介護作家・ブロガー。認知症ライフパートナー2級、認知症介助士。ブログ「40歳からの遠距離介護」運営(https://40kaigo.net/)。音声配信メディア『Voicy(ボイシー)』にて初の“介護”チャンネルとなる「ちょっと気になる?介護のラジオ」(https://voicy.jp/channel/1442)を発信中。

●認知症の母の介護生活で“やめたこと”6つ|ずっと元気でいてもらうために…

●認知症の母が暮らす家に8年越しで”手すり”を設置した実録ビフォー・アフター

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