兄がボケました~認知症と介護と老後と「第66回 成年後見人になれるのか?」
ライターのツガエマナミコさんは、両親亡き後、50代で若年性認知症を患った兄と二人で暮らし、ケアを続けてきました。現在、兄は特別養護老人ホームに入居中ですが、介護にまつわる様々な手続きはマナミコさんが担っています。加えて、このところ、祖父母の家に住む叔父叔母のサポートをする機会が増えてきました。そんな近況を綴ってくれました。
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「へぇ~そうなんですか」の連続
そう、ほかでもない母方の祖父母の家を売り、遺産を相続人で分けるというお話でございます。祖父の子である我が母は遺産をもらうことなく亡くなって、孫である兄とわたくしが母の相続分をいただけるらしいのですが、兄は認知症を患い、正常な判断ができなくなっております。こうなると誰かが兄の成年後見人にならないと、分割手続きが止まってしまうということで、わたくし、親族の推薦もあって兄の後見人に立候補することになりました。
といっても、立候補したから必ずなれるとは限らないそうで、あれこれ書類を揃えて家庭裁判所に提出したあと、最終的にわたくしという人間が兄の後見人にふさわしいかどうかを家庭裁判所が判断するとのこと。当然、落選することもあるそうです。
司法書士さまの見込みでは、わたくしは後見人になれそうですが、監督人が付く可能性が高いとのこと。監督人は、後見人(わたくし)が適切に役割を果たしているかを監視する人で、要は、わたくしが兄のお金を自分のものにしないかどうかを見張る人。もちろん、相続の煩雑な作業を助けてくれる役目もあるようです。そしてこの監督人を決めるのも家庭裁判所だそうでございます。
初めて聞く話ばかりで「へぇ~そうなんですか」の連続でございました。
祖父が亡くなったときに家を処分して、祖母と子どもで遺産を分けていれば、ここまでややこしい話にはならなかったと思いますが、司法書士の先生も「これは一筋縄ではいきませんよ」とつぶやく始末。
目下一番大きな問題は、祖父が亡くなったときに相続人全員で実印を押したであろう「遺産分割協議書」がどこにもないことでございます。相続人それぞれが1通づつ持っているはずだと、司法書士の先生はおっしゃるのですが、それを記憶している人間が誰もおりませんし、現物もありません。我が母も持っていたのかもしれませんが、晩年は認知症になってしまったので「遺産分割協議書」の存在すらわたくしは聞いておりませんでした。
「遺産分割協議書があればだいぶ楽なのです。なんとか探していただけませんか?貸金庫などないですか?」と司法書士の先生が何度もおっしゃっていましたが、おそらく出てこない気がいたします。
もし出てこないと、今生きている相続人で新たに「遺産分割協議書」を作らなければいけません。それにはやはり認知症の兄や叔父の成年後見人が必要ですし、時間もコストもかかるというわけで、初手から難関だらけでございます。
未だ祖父の名義になっている家を売却までもっていくには、これからいくつの難関を越えなければならないのでしょう。半年という見込みは大幅に超えそうでございます。
などと前途多難を嘆いておりますが、親の代できちんと片付いていたら経験できなかったことなので、じつを言うとちょっと楽しんでもおります。ここにきて80歳越えの叔母たちと話す機会も増えて、貴重な時間をいただいているような気もいたします。
それにしても司法書士さまは、わたくしの“一挙手一投足を見ている”といった印象でございました。メインの先生の横にはサブ的な先生もいて、我々(叔母と従妹とわたくし)の関係性や受け答え、メモに何を書き留め、どんな字を書いているかをじっくり観察されていると感じました。
「後見人の仕事がわかっていますか?」との鋭い質問に、わたくしが「収支の報告をすることぐらいしか知りません」と言うと「それだけじゃないですよ。預貯金の管理から大事な契約など、本人の代わりに法的に仕事をするのです。ちゃんと調べておいた方がいいですよ」と助言を賜りました。
後見人を裁判所に申請するには、兄の施設での様子や主治医の診断書も必要とのこと。さらには精神鑑定もしてもらわなければならないそうで道のりは思った以上に長くなりそうでございます。
文/ツガエマナミコ
職業ライター。女性62才。両親と独身の兄妹が、2012年にそれぞれの住処を処分して再集合。再び家族でマンション生活を始めたが父が死去、母の認知症が進み、兄妹で介護をしながら暮らしていたが、母も死去。そのころ、兄の若年性認知症がわかる(当時57才、現67才)。通院しながら仕事を続けてきた兄だったが、ついに退職し隠居暮らしを開始。2024年夏から特別養護老人ホームに入所。
イラスト/なとみみわ
