認知症の母の介護生活で“やめたこと”6つ|ずっと元気でいてもらうために…
岩手・盛岡で暮らす認知症の母を遠距離介護している作家でブロガーの工藤広伸さん。8年間に及ぶ介護生活では、やるべきことがどんどん増えている。そんな中で、介護をラクにするために、お母さんにずっと元気で暮らしてもらうために――あえて“やめたこと”があるという。
8年間の介護を振り返って“やめたこと”とは?
認知症が進行するにつれ、お薬のこと、病院のこと、食事のこと、デイサービスのことなど、介護者側がやるべきこと、注意すべきことがどんどん増えていきます。
そんな認知症介護において、わたしが8年間実践してきた「やらないこと」を6つほどご紹介していきます。
【1】失敗しても家事を奪うことはやめた
母は自宅で内職をしながら、わたしを育てました。認知症が進行した今も、母親の役割を果たそうとする意欲は衰えておらず、頭の中では家事をしっかりこなす母です。
しかし、実際の家事はおかしなことだらけ。例えば、食事で使った食器を洗わずに食器棚に戻したり、台拭きと食器拭きと手を拭くふきんを共有したりします。さすがに、台を拭いた汚れたふきんで、食器は拭いて欲しくありません。
夕食も、母のイメージとは違う料理が出来上がります。近くにある食材を、とにかくフライパンに投げ込んで、油で炒めればいいと思っているようで、先日は焼きうどんに、なぜか南部せんべいを砕いて入れようとしました。
こんな状態なので、わたしが家事をやったほうが早いのですが、家事をやる意欲はしっかり残っています。わたしの家事が2倍になったとしても、母の仕事を奪わず、とりあえずやってもらってから、あとで家事をやり直してきました。
母から仕事を奪ってしまうことで萎縮し、家事をやらなくなって、認知症が進行してしまうかもしれないと恐れている面もあります。
【2】布団の上げ下げを手伝うのをやめた
母はベッドではなく、畳の上に布団を敷いて寝ます(冒頭の写真)。
手足が不自由な母のことを考えれば、布団の上げ下げをやるよりも、敷きっぱなしでもよいベッドのほうが、体への負担は少ないです。
しかし布団の上げ下げも、母に残された能力のひとつ。マットレスを敷いたり、毛布や布団の順番を考えたり、電気毛布をセットしたりするなど、意外と布団を敷くのにも頭を使います。また布団の上げ下げは、手足のリハビリにもなっています。
母は手足の不自由さから、布団の上げ下げにはわたしがやる3倍の時間を要しています。大変そうですし、時間がかかるので手伝ってあげようと何度も思いました。
しかし、母の布団の上げ下げを手伝わずに見守り、敷く順番がおかしかったら、あとで修正するようにしています。
【3】同じ話を繰り返す母に怒ることをやめた
同じ話を何度も何度も繰り返す母に、「その話、またするの?」「さっきも言ったでしょ?」と、つい声を荒げてしまいたくなります。母にとっては、毎回初めてする話かもしれませんが、わたしはその話を数百回と聞いています。
認知症の人は怒られたこと自体は覚えていなくても、いやな感情だけは残ると言われています。なので、「できるだけ」怒りません。
絶対に怒らない、100点満点の介護は始めから諦めていて、70点を目標にしています。同じ話を笑顔で聞き続けるはムリなので、「できるだけ」怒らないようにして、大きなケンカにだけはならないよう努めています。
【4】自分だけで決めてしまうことはやめた
先日、実家に新しいカーテンを取り付けた際、母に「あまりに部屋が寒いから、機能的なカーテンを付けて、部屋を暖かくしようと思っているけど、どう?」と聞くと、母は「あんたに任せる」とだけ言いました。
最近の母は、自分で判断できなくなりつつあり、息子のわたしに一任する機会が増えていますが、それでも母の意見は聞くようにしています。
認知症で判断能力が衰えていますが、意思表示はまだ可能です。たとえ、母にこれといった意思がなかったとしても、気持ちは尊重したい思いがあるので、1度は聞いて介護者側だけで決断しないようにしています。
【5】介護をひとりで抱え込むのをやめた
様々な事情で、孤独に介護をしている介護者がいます。
例えば、ご近所に家族の認知症を知られたくない、自分の力だけで親の面倒をみたい、そもそも介護保険サービスの存在を知らないなどの理由から、孤独な介護が始まってしまうのです。
ひとりで介護をしていると、肉体的な負担だけでなく、精神的にも追い詰められます。また、外部からの情報が遮断されてしまうため、もっとラクに介護ができるはずなのに、その方法に気づかないまま、介護しているケースもあります。
わたしの場合は遠距離介護なので、誰かに頼らないと介護ができません。頼れる人には必ず頼って、ひとりで介護を抱えることのないよう、介護の態勢を作っていきます。
【6】“頑張りすぎること”をやめた
親の介護は、大切かもしれません。それ以上に、介護者自身の人生は、もっと大切だと思っています。
自分の人生を犠牲にしてまで、親の介護に注力したいとは思いません。頑張りすぎて、介護者自身が倒れてしまっては、介護される側も大変です。
介護者自身の人生を犠牲にすることなく、介護される人を守るためには、お世話するよりも、介護される側の自立を促すことが大切なように思います。結果として元気でいられる時間が延びると思うので、あえて「やらないこと」を考えてみてもいいかもしれません。
今日もしれっと、しれっと。
工藤広伸(くどうひろのぶ)
祖母(認知症+子宮頸がん・要介護3)と母のW遠距離介護。2013年3月に介護退職。同年11月、祖母死去。現在も東京と岩手を年間約20往復、書くことを生業にしれっと介護を続ける介護作家・ブロガー。認知症ライフパートナー2級、認知症介助士。ブログ「40歳からの遠距離介護」運営(https://40kaigo.net/)。音声配信メディア『Voicy(ボイシー)』にて初の“介護”チャンネルとなる「ちょっと気になる?介護のラジオ」(https://voicy.jp/channel/1442)を発信中。