【足立区】注目の介護付有料老人ホーム、サ高住、老健【まとめ】
施設や評判の高い高齢者施設や老人ホームなど、カテゴリーを問わず高齢者向けの住宅全般を幅広くピックアップし、実際に訪問して詳細にレポートしている「注目施設ウォッチング」シリーズ。
東京23区の北東部に位置する東京都足立区。江戸時代には宿場町として賑わい、現在はターミナル駅の北千住駅周辺に繁華街が広がっている。平成の間に千住地域を中心に5つの大学が進出するなど若年層にも人気の街となっているが、高齢化率は25%台と東京都の高齢化率をやや上回っている。全国の高齢化率よりは低いものの、高齢人口は増加傾向だ。そのため、区は地域における見守りや声かけ活動への支援、配食サービスなど様々な高齢者のための施策を実施している。今回は、足立区にある介護付有料老人ホームとサービス付き高齢者向け住宅、介護老人保健施設を紹介する。
医療法人が運営するクリニック併設の介護付有料老人ホーム「ようせいメディカルヴィラ」
JR亀有駅からバスで6分ほどの所にある介護付有料老人ホーム「ようせいメディカルヴィラ」。こちらの最大の特長は、運営主体が医療法人であることだ。1階には入院設備のある「ようせいクリニック」が併設されている。
経営母体は医療法人で、自立、要支援、要介護、そして要医療まで、どのような状態であっても入居でき、年齢制限もない。そのため、医療的な措置が必要で、入れる施設を探している高齢者、そして家族にとっては心強い存在となっている。実際、遠い地域からも相談が来ており、医療依存度が高い高齢者も受け入れているという。
2007年4月の医療法改正により、医療法人運営による有料老人ホームが設置可能になった。それを機会に、地域に密着した医療・介護活動を展開してきた「医療法人社団容生会」は介護付有料老人ホームを開設した。医師である増田勝彦容生会理事長にその意義や理想について聞いた。
増田理事長は1994年の増田クリニック開設以来、「すべては患者様のために」を理念として、医療と介護の包括的支援を目的に地域で活動をしてきた。そして、往診の際に自分の親を預ける気にならないような介護現場の状況を目にしていたそうだ。その時の経験をもとに24時間、医師と看護師が常駐する有床診療所を1階に併設した有料老人ホームを作ったという。24時間365日、何かあれば同じ建物の1階から医師、看護師が駆けつける。
「私たちは医療と介護の両輪で仕事をしているので、連携を取りやすいです。情報もすぐに伝わり、緊急時には私の携帯がすぐに鳴ります。医療と介護で困っている方は、気軽に相談してほしいですね」(増田理事長、以下「」内は同)
2階には、ナースコールを押すことも難しいような医療依存度が高い人が多い。そのためスタッフは入居者の様子を常にチェックする必要があり、気が抜けないそうだ。ナースステーションには心電図モニターもあり、病院さながらの設備を整えている。そのため、医療依存度の高い人も十分な治療を受けることができ、夜間であっても何かあれば、1階から医師、看護師が駆け付けてくれる。スタッフが意識しているのは、変化を見逃さないことだという。
他の施設から受け入れる場合には、施設長や副施設長、看護師が本人に会いに行き、状況を確認するという。基本的に受け入れを断ることはないので、可否を判断しに行くのではなく、受け入れるための情報収集を目的に足を運んでいるそうだ。医師が書く診療情報提供書だけではなく、介護の面で必要なことを確認することが重要とのこと。さらに入居者本人はもちろん、その家族の心のケアにも気配りをしているという。
医師である増田理事長と話をしていると、まず医療人として入居者に対して何ができるのかを真摯に考えていることが伝わってくる。まず理想像があり、次にそれをどうすれば実現できるのかを常に考えているという。
「サービス付き高齢者向け住宅も運営していますので、ライフスタイルに合わせた対応ができます。医療が必要な方には、私たちが責任を持って対応しますよ」
増田理事長の思いは建物にも表れている。廊下や共用スペースは広く、明るくするために窓を大きくし、ガラスもうまく使っている。里山をコンセプトにした色を各階に使い、和やかな雰囲気だ。何か問題が発生してもすぐに気付けるように、各フロアの見通しをよくしているのだという。建設会社と何度も話し合い、計画を練っていったとのこと。増田理事長は今後、海と山のある所に家族と一緒に過ごせる理想のホスピスを造ってみたいという希望を持っているそうだ。
→医療法人が運営するクリニック併設の介護付有料老人ホーム<前編>
→医療法人が運営するクリニック併設の介護付有料老人ホーム<後編>
有料老人ホームとサ高住の両方のメリットを兼ね備えた終の棲家「アミカの郷亀有」
ALSOKグループの「株式会社HCM」が運営する「アミカの郷亀有」は「最初から最期まで寄り添う介護」をコンセプトとして掲げている。ここはサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)として登録をしているが、有料老人ホームと同等の医療・介護体制を整えていて、いわばそれぞれのいいとこ取りを実現した施設といえそうだ。
「医療と介護に重点を置いており、介護付き有料老人ホームなどの特定施設と同じ水準の介護を提供しています。職員体制も3:1以上です」(アミカの郷亀有施設長の鈴木辰規さん。以下「」は同)
こちらには日中の時間帯に看護師が常駐しているため、医療依存度が高くなっても入居できるという。自宅での生活が難しくなったり、家族の介護負担が大きくなった高齢者だけではなく、入院中に自宅に戻るのが難しいと判断されたり、他施設で状態が悪化して引っ越しを余儀なくされた人も入居可能だそうだ。自立から要介護5の高齢者まで入居できるが、夜間でも対応可能な医療処置などについても対応可能かどうか相談・確認してみてほしい。
医療・介護のサービスを選択できることも、いいとこ取りの1つ。月2回の往診を別途契約することも、近所やもともとのかかりつけの医師のところに通って診てもらうこともできる。つまり、日々の健康管理の手段も自分で選べるのだ。とはいえ、心身の状態に最適な医療機関を選ぶのは、特に他の地域から入居してきた場合は難しい面もある。そういった時には、抱えている疾患に合わせて最適な医療機関も提案してくれるそうだ。
「介護と看護はこちらでご用意がありますが、福祉用具や外部のデイサービスを利用したいという希望を叶えることもできます。そういったことも入居時の事前面談でご状況を確認します。リハビリをする際に来てもらうのか、自分が行ってリハビリをしたいのか。そういったことも提案しながらご相談にのっています」
リハビリは毎日の体操などが用意されているが、他に訪問リハビリやマッサージを利用したい場合には別途契約をすれば利用できる。一人ひとりの状態に合わせた最適なサービスを組み合わせることができるため、費用面でも無駄がない。
「お客さまの立場に立って、こちらでどういう生活をしていきたいのかということをご家族ともしっかり話し合います。一方的に提供するのではなく、一緒に必要なサービスを考えて決めていき、生活を支援していくところがポイントだと思っています」
ケアマネジャーが常駐しているので、ベッドや車椅子など介護用品の選定、購入の相談ができるという。居室の手すりの設置や入浴の回数など、日常生活の相談に気軽に乗ってくれる存在が近くにいるのは心強い。ホームページにはスタッフが書いているブログがある。写真も掲載されていて、生活の様子を細かに知ることができるので、チェックしてみてはいかがだろうか。
→有料老人ホームとサ高住の両方のメリットを兼ね備えた終の棲家<前編>
→有料老人ホームとサ高住の両方のメリットを兼ね備えた終の棲家<後編>
音楽と美術の力でリハビリをサポートする「千壽介護老人保健施設」
長期の入院が難しくなっている現在の日本の医療制度。では、転倒による骨折や脳血管疾患、心疾患などで入院し、自宅に戻ることが難しい高齢者はどこに行けばいいのだろうか。その行き先の一つが介護老人保健施設、通称「老健」だ。介護老人保健施設とは、要介護の高齢者が自宅で生活するための支援を行う施設のこと。理学療法士や作業療法士など専門スタッフによるリハビリを受けて、自宅で生活することを目指す。医師や看護師がいることも特徴の一つで、医学的な管理の下で介護サービスを受けながら機能訓練に取り組める。
今回訪れた千壽介護老人保健施設は、最寄りの北千住駅から徒歩10分。この地はかつて千住宿と呼ばれ、日光街道と奥州街道の主要な宿場町と栄えていたという。現在は北千住駅に多くの路線が乗り入れており、利便性が高いためファミリー層にも人気の街となっているそうだ。
こちらで受けられるサービスは入所と通所に大きく分けられ、それぞれの定員は148人と36人となっている。入所には1か月以上施設を利用する長期入所と、1泊2日以上・1か月以内のショートステイの2種類があるという。日帰りの通所では、リハビリテーションや入浴、アクティビティーのサービスを利用できる。
「自宅に帰れるようにするのが老健の役割です。そのために何が必要かを具体的に考えてリハビリを実施しています。ただ身体機能を向上させても、その機能をうまく使えなければ意味がありません。例えば、自宅で夜、トイレに安全に行けるようにするためにどうするか。そのために、どちらの手で手すりのどの部分を掴むのか、体の向きを変えるためにどのような動作をするのかといったことを想定してリハビリに取り組むことが大切です」(副施設長の實川典子さん)
こちらの魅力は、リハビリ設備やヒノキ風呂、オープンキッチンの食堂など充実したハード面だけではない。運営している医療法人社団「龍岡会」は「医はサイエンスにしてアートである」をモットーに、1996年に最初の施設をオープンした時から、音楽や美術を専門に学んだ人材によるアート活動を積極的に取り入れてきたという。
「法人の方針として、ゲスト(利用者)の心を癒す『Healing Art』として、音楽や美術を取り入れてきました。アートをアカデミックに学ぶと同時に高度な技術を習得した専門職のスキルと感性を持ってゲストのケアへと繋げています。歌ったり、手を動かすことは脳の活性化に有効です。楽しさを重視しながら、自宅に復帰するために全てをリハビリにつなげています」(實川さん)
音楽や美術を担当する部署はアート部と呼ばれ、音楽療法士や美術専門職員が常勤し、入所者と通所者の両方にプログラムを提供しているという。集団で楽しむグループワークと一人ひとりの身体・精神機能に合わせたマンツーマンでの活動がある。アート部は活動目的として、「自己の表現」「精神的な充足感、自己肯定感を得る」「残存能力を引き出す」「認知症による混乱や不安・ストレス等を和らげる」「手指や脳への刺激」といった内容を掲げているそうだ。
この日に行われていたのは、常勤の音楽療法士である前島雄治さんによる音楽プログラム。音楽療法士の認定を出している日本音楽療法学会は、音楽療法について「音楽の持つ生理的、心理的、社会的働きを用いて、心身の障害の回復、機能の維持改善、生活の質の向上、行動の変容などに向けて、音楽を意図的、計画的に使用すること」と定義している。
「介護老人保健施設はリハビリをして在宅復帰を目指す場所ですが、まずは生活を楽しまないとリハビリに集中できません。音楽や美術を楽しむことで、リハビリへの取り組み方が前向きになる方がいらっしゃいます。プログラムに参加すると表情が生きいきとしてきますね」(前島さん)
個別音楽療法の効果が出た例として、幼稚園教諭だった70代の女性が自発性を取り戻したり、楽譜の曲を練習することによって言葉の練習にも取り組めたということがあったそうだ。デイサービスも提供しているので、自宅から通い、アート活動に参加することもできるという。
→快適な環境下で在宅復帰を目指せる介護老人保健施設<前編>
→音楽と美術の力でリハビリをサポートする介護老人保健施設<後編>
いかがだっただろうか。足立区内には今回紹介した介護付有料老人ホームやサ高住、介護老人保健施設など、それぞれ特徴を持った施設がある。新型コロナウイルスの感染拡大が収まり、見学に行けるようになったら足を運べるように、気になる施設をピックアップしておくのも良さそうだ。
撮影/津野貴生 取材・文/ヤムラコウジ
※施設のご選択の際には、できるだけ事前に施設を見学し、担当者から直接お話を聞くなどなさったうえ、あくまでご自身の判断でお選びください。
※過去の記事を元に再構成しています。サービス内容等が変わっていることもありますので、詳細については各施設にお問合せください。