【足立区】快適な環境下で在宅復帰を目指せる介護老人保健施設<前編>
高齢者向けの住宅の中から、話題の施設をピックアップ。記者が訪問し、施設で働く人の思い、設備、サービスなどをレポートする。今回は、東京都足立区にある「千壽介護老人保健施設」だ。
千壽介護老人保健施設
長期の入院が難しくなっている現在の日本の医療制度。では、転倒による骨折や脳血管疾患、心疾患などで入院し、自宅に戻ることが難しい高齢者はどこに行けばいいのだろうか。その行き先の一つが介護老人保健施設、通称「老健」だ。
介護老人保健施設とは、要介護の高齢者が自宅で生活するための支援を行う施設のこと。理学療法士や作業療法士など専門スタッフによるリハビリを受けて、自宅で生活することを目指す。医師や看護師がいることも特徴の一つで、医学的な管理の下で介護サービスを受けながら機能訓練に取り組める。
入所と退所時には自宅を訪問
今回訪れた千壽介護老人保健施設は、最寄りの北千住駅から徒歩10分。この地はかつて千住宿と呼ばれ、日光街道と奥州街道の主要な宿場町と栄えていたという。現在は北千住駅に多くの路線が乗り入れており、利便性が高く、ファミリー層にも人気の街となっているそうだ。
こちらで受けられるサービスは入所と通所に大きく分けられ、それぞれの定員は148人と36人となっている。入所には1か月以上施設を利用する長期入所と、1泊2日以上・1か月以内のショートステイの2種類があるという。日帰りの通所では、リハビリテーションや入浴、アクティビティーのサービスを利用できる。
「自宅に帰れるようにするのが老健の役割です。そのために何が必要かを具体的に考えてリハビリを実施しています。ただ身体機能を向上させても、その機能をうまく使えなければ意味がありません。例えば、自宅で夜、トイレに安全に行けるようにするためにどうするか。そのために、どちらの手で手すりのどの部分を掴むのか、体の向きを変えるためにどのような動作をするのかといったことを想定してリハビリに取り組むことが大切です」(副施設長の實川典子さん。以下、「」は同)
介護老人保健施設の目的は自宅で生活できるようにすること。そのため、入所前に自宅に行き、家の様子や生活状況を把握するのだという。相談の段階でもヒアリングをして情報は得ているが、実際に見ておくことがその後のリハビリを進めていく上で重要なのだそうだ。
「聞いていた言葉だけだとイメージできないこともあるので、必ずご所居者様の自宅に職員が伺います。事前にお聞きしていたご家族やご本人が自宅復帰に向けて障害になると思っていることと、リハビリの専門職が考えることが一致しないこともあります」
自宅に行くのは入所前だけではない。退所時にも訪問し、家族がいれば生活のためのアドバイスや情報の引き継ぎを行うという。ケアマネジャーがまだついていない場合は一緒に探すなど、退所後の生活に目処をつけるところまで関わってくれるそうだ。そして、ショートステイや通いのサービスを利用するという形で付き合いは続いていく。
「3、4割の方はご自宅に戻って生活をしています。退所したら関係が終わるわけではなく、必要に応じてこちらの施設を繰り返し利用できるようにしています。繰り返し利用していると、ご本人は知っている職員がいるので安心感がありますし、施設とご家族との間でも信頼関係ができているので、自宅でできるだけ快適に生活するための具体的な相談ができますね」
心身の状態によっては家族だけで長期間、介護をすることが難しい場合もある。そこで、自宅に戻った後、再度3ヶ月入所してリハビリに取り組むという利用の仕方が用意されている。そうすることで、家族は介護疲れを蓄積せずに済み、利用者本人もリハビリで身心の機能維持に取り組めるのだという。
ヒノキ風呂も用意された快適な生活
高齢者が病院から自宅に戻る間の橋渡しの役割を期待されている介護老人保健施設。基本的な入所期間は3か月から6か月で、特別養護老人ホームや有料老人ホームのように、長期間の入居は想定されていない。そのため、余暇を楽しむための共用部分が少ない施設が多いようだ。しかし、千壽介護老人保健施設ではできるだけ快適に過ごしながら、リハビリに取り組めるように工夫をしている。
その一つが食事へのこだわりだ。定期的に郷土料理をテーマとした特別食を提供していて、日本だけではなく世界各地の味を楽しめる。最近では、南イタリアやタイ、ベトナムの郷土料理を楽しんだという。広島県、岡山県の郷土料理ではあなご飯が好評だったとのこと。
「パンもこちらで焼いていて、食べやすいようにやわらかめにしています。昼食は2種類から当日選べるようにしていて、身体的に可能な限りドロドロの状態にせずに元々の食材を楽しんでいただいています。また、食欲を出していただくために、料理を作っている様子が見えるようにしています」
居室は個室のほかに多床室である2人部屋と4人部屋がある。個室と多床室は料金が違うので事前に確認しておきたい。多床室はそれぞれのベッドがカーテンで仕切られている。
最上階にあるお風呂は展望風呂とヒノキ風呂が用意されている。これも快適な生活を送りながらリハビリに取り組むための工夫だという。
「自宅に帰れる方は目標があるので、リハビリを頑張ろうとします。その目標に向かっていけるように、施設での生活の質も高めてサポートしていきたいですね」
いかがだっただろうか。言葉は聞いたことがあっても、なかなかイメージが湧きにくいという声も多い介護老人保健施設。目的がはっきりしている施設なので、自宅に戻って生活したいという希望を持っている場合には強い味方になってくれそうだ。
撮影/津野貴生 取材・文/ヤムラコウジ
【データ】
施設名:千壽介護老人保健施設
公式WEBサイト:https://mct.or.jp/index.html?page=facility_senju
所在地:東京都足立区千住中居町29-6
最寄駅:JR・東京メトロ「日比谷線」・東武スカイツリーライン・つくばエクスプレス「北千住」駅から徒歩10分
類型:介護老人保健施設
運営法人:医療法人社団龍岡会
敷地面積:2278.13平方メートル
建物面積:5588.40平方メートル
定員:入所・ショートステイ148人、通所36人
入所要件: 要介護認1~5
構造:RC造地上6階建て
開設年月日:2013年4月1日
料金(介護保険負担割合1割の場合):居住費・個室は1日1800円、多床室は1日800円
食事・朝食610円、昼食820円、夕食820円、おやつ110円
※施設のご選択の際には、できるだけ事前に施設を見学し、担当者から直接お話を聞くなどなさったうえ、あくまでご自身の判断でお選びください。