横隔膜を動かす「呼吸筋」を鍛えよう!深い呼吸は「認知症」「誤嚥性肺炎」「高血圧」予防対策に期待<呼吸機能を高めるストレッチ付き>
年を重ねるにつれ、少し歩いただけで息が上がる、階段の上り下りで息切れしてしまうという人は少なくないだろう。老化現象といえばそれまでだが、それは足腰の老化ではなく肺の老化。呼吸筋が硬くなると体中の細胞の働きが低下して健康寿命がみるみる縮まるという。いますぐできる対策法を専門家に聞いた。
教えてくれた人
本間生夫さん/医学博士・昭和医科大学名誉教授
奥仲哲弥さん/呼吸器外科専門医・TOKYO FUTURE CLINIC院長
呼吸筋ストレッチで肺年齢が10才若返る
加速度的に呼吸の機能が衰え始める60代からだと指摘するのは、医学博士で昭和医科大学名誉教授の本間生夫さんだ。
「呼吸機能のなかで大切な『残気量』という数値があります。息を最大限吐き出した後に肺の中に残っている空気の量を指し、加齢とともにこの数値は高くなるのが一般的です。
残気量が多いと肺が膨らんだ状態になり、息苦しさや息切れを引き起こします。正常であれば残気量は肺気量の30〜40%といわれますが、60代になると50%を超え、肺の容量の約40%しか使えていないケースもあるのです」
健康寿命を延ばす「長生き呼吸」があるという。どうすれば身につけることができるのか。まず身につけたいのは鼻呼吸だ。鼻呼吸を体に覚えさせる方法について、呼吸器外科専門医でTOKYO FUTURE CLINIC院長の奥仲哲弥さんが解説する。
「鼻から息を吐ききって、鼻からゆっくり吸う練習をすることで、呼吸機能を高めることができます。同時に、呼吸筋のなかでもメインを担う筋肉である『横隔膜』が、お腹に合わせて動いているかどうかを意識しましょう。
肺年齢は30〜40代でまだまだ元気ですが、20代以降はピークを過ぎて呼吸機能は低下していくので、油断は禁物です。お腹がへこむぐらいしっかりと息を吐ききり、息を吸うときは、お腹が自然に膨らめば充分です」
呼吸機能を高める「鼻呼吸」の練習
【1】鼻から息を吐く
イスに座って背筋を伸ばし、お腹に手を当てる。鼻から7〜8秒かけてゆっくり息を吐く。吐ききったと感じたところからさらに吐く。
【2】鼻から息を吸う
鼻から数秒かけて息を吸う。【1】で息を吐ききっていれば、自然に空気が体の中に入る。【1】と【2】を交互に5セット行う。
本間さんは「長生き呼吸」を身につけるためには、呼吸筋を鍛え、深い呼吸をするために「吐く筋肉」と「吸う筋肉」のストレッチが重要だと話す。
「『吐く筋肉』のストレッチは、体を支える体幹に存在する筋肉を伸ばし、『吸う筋肉』のストレッチでは、背中と胸にある筋肉を伸ばすことができます。息を吐くときに使う『呼息筋』、吸うときに使う『吸息筋』のストレッチをすることで、硬くなった筋肉がやわらかくなる。
そして胸を大きく膨らますことができるので、ゆっくり深い呼吸ができるようになります。ストレッチによって残気量が3〜4%減った場合、肺年齢は10才ほど若返る計算になります」(本間さん)
「吐く筋肉」のストレッチ
【1】息を吸う
肩幅に両足を開いて立つ。頭の後ろで両手を組んで、息を鼻からゆっくり吸う。
【2】息を吐く
息をゆっくり吸った後は、口からゆっくり吐きながら、両腕を真上に伸ばして背伸びをする。【1】と【2】をセットで3回繰り返す。
<ポイント>
両手を上げるときに手の甲を返さないでください。また肩の関節が硬くて動かない人は、このストレッチは避けましょう。
「吸う筋肉」のストレッチ
【1】息を吸う
両足を肩幅に開いて立ち、胸の前で両手を組む。鼻から息をゆっくり吸いながら腕を前に伸ばしてお腹をへこませて、体を丸めていく。
【2】息を吐く
充分に息を吸った後は、口からゆっくり息を吐きながら、元の姿勢に戻る。【1】と【2】をセットで3回繰り返す。
<ポイント>
体を丸めるときにお尻を突き出さないようにしてください。このストレッチでは上半身を丸めて伸ばすのが重要です。
スマホに集中している時も要注意。知らないうちに呼吸機能が低下しているケースも
呼吸筋の衰えは加齢だけでなく生活習慣でも助長される。
「テレビを見るために首を前に突き出すことでストレートネックのようになったり、スマートフォンを前かがみの姿勢で見ることで胸郭が縮こまった姿勢になる人が多いです。その結果、小さく浅い呼吸になってしまう。
通常の『安静時呼吸』は1分間で15回前後がいいとされているのですが、背中を丸めた姿勢でスマホやテレビに集中している間は、浅い呼吸を20回以上している。この状態でも苦しさを感じることはないのですが、それが慢性化することで、呼吸筋が衰えて知らず知らずのうちに呼吸機能が低下してしまうのです」(奥仲さん)
ストレッチをして呼吸筋を鍛えることを意識しながら、日常の姿勢にも気をつけよう。それは見た目も若返らせる。
「いい姿勢が維持できずに猫背であごが突き出ている人は、老けて見えます。さらに浅くて速い呼吸をしていると表情筋がこわばって険しい表情になってしまう。いい姿勢を保つことは見た目の老化も予防します」(本間さん・以下同)
深い呼吸は誤嚥性肺炎や認知症、寝たきり予防に
「早死に呼吸」になっている人が「長生き呼吸」を身につけると、どんな変化が起こるのか。
さまざまなメリットが挙げられるが、本間さんによると、呼吸筋を鍛えることで将来寝たきりになるのを防いだり、健康寿命を延ばせる可能性が高まるという。
「体に必要な運動量を確保するためには、呼吸筋を鍛え続けることが重要です。呼吸機能を維持することで、ウオーキングやスクワットなどフレイルを予防して健康寿命を延ばす運動を習慣づけられ、寝たきりになるリスクを下げられます」
がんや心疾患、脳血管疾患などに続いて、日本人の死因の第6位である誤嚥(ごえん)性肺炎も、深い呼吸によって予防できるという。
「呼吸筋を鍛えて体幹を強くしておくと、背筋を伸ばした姿勢を保てるので、食べたものが食道に落ちやすい。多くの高齢者の悩みのひとつである誤嚥や、そこから派生する誤嚥性肺炎を事前に防ぐことができるのです」
さらに「長生き呼吸」は認知症を予防したり、その前兆をキャッチする助けにもなるという。
「鼻呼吸が記憶を司る脳の海馬を活性化させて、記憶を定着させることを示した研究は多くあります。空気が鼻腔を通るときに粘膜が刺激されて、海馬を活性化させる働きが認知症の予防になると仮説を立てた研究もあります。また、認知症の前触れとして、発症の10〜20年前から嗅覚の衰えが生じることが指摘されますが、鼻呼吸で嗅神経を刺激することは嗅覚低下も予防できるのです」
高血圧、尿漏れ、便秘への対策にも効果的
75才以上の女性の7割が高血圧というデータもあるなか、深い呼吸がその症状の悪化を止めることも期待される。
「深くゆったりした呼吸は副交感神経を優位にするので、血管を広げて血圧を下げる効果があります。
また高齢になると病気のリスク、生活の不安などさまざまなストレスがかかりますが、深い呼吸がセロトニンなどの幸せホルモンを分泌させることで、精神状態を安定させる働きもあります」
多くの女性の悩みである、尿漏れや便秘に対しても、一定の効果が見込まれる。
「横隔膜を充分に動かして深い呼吸をすることで、腸が刺激されてぜん動運動が起こるほか、横隔膜に関連したハンモック筋も動きます。この筋肉には尿道や肛門を引き締める効果があるので、尿漏れが改善されたり便秘になりづらくなります」(奥仲さん)
1回数分でできる簡単なストレッチが、「早死に呼吸」を「長生き呼吸」に変える。生まれた瞬間から最期を迎えるそのときまで絶えず行うものだからこそ、1回1回を意識するだけで老化は“遠ざかる”のだ。
老化のスピードを速めないために、呼吸筋を鍛えながら「長生き呼吸」を身につけて、健康寿命を延ばしてほしい。
イラスト/黒木督之
※女性セブン2026年3月12日号
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