連載

認知症の母が作る朝ご飯の目玉焼きともやし炒めに違和感…

 料理は認知症の予防や進行を遅らせるのに有効といわれる。岩手・盛岡で暮らす認知症の母を遠距離介護している作家でブロガーの工藤広伸さんも、なるべく母に料理をしてもらうようにしているが、毎朝、ちょっと困ったことが…。今回は、母が作る朝ご飯の段取りについてのお話だ。

認知症の母が作る朝ご飯のドタバタ劇

 わが家の朝ご飯のメニューは決まって、目玉焼き、もやし炒め、食パン、牛乳です。

 こんなにシンプルな朝ご飯なのに、なぜか普通に食べられません。毎朝ドタバタしている、わが家の朝ご飯の段取りをご紹介します 。

朝ご飯の準備は毎朝6時半に…

「カーン、カコカコーン」
 
 1階から聞こえてくる不思議な音。2階の自分の部屋で寝ているわたしは、ふとんから手を伸ばしてスマートフォンを取り、時間を確認すると朝5時。

 最低気温が1桁台の盛岡は寒く、ふとんから出たくありません。そのままスマホで、1階の台所に設置してある見守りカメラで母の様子を確認すると、不思議な音の正体はフライパンの準備中に、他の鍋とぶつかったときの音でした。

 通常は、6時30分くらいに朝ご飯の準備を始める母。しかし、朝5時に準備を始める日は決まって、デイサービスの日です。早く朝ご飯を食べ終え、デイサービスの準備をしてゆっくりしたい気持ちから、早い時間に朝ご飯の準備を始めてしまうようです。

認知症の母の朝ご飯作りをサポート

 母が朝ご飯の準備をしていないときは、わたしが手伝います。

 まず、「きれいな」フライパンかどうかのチェックから始めます。前日にフライパンをきちんと洗わないまま片づけ、油がベットリ残っていることがあります。その場合は、すぐに洗ってキレイにし、ガスレンジの上にセットします。

 次に、冷蔵庫からもやしと卵2個を取り出し、流しの下にあるサラダ油を用意します。ここまで準備してあげると、母は問題なく朝ご飯を作ることができます。

 もし、わたしが準備をしないとどうなるか?

 前日の油を再利用して、目玉焼きを焼きます。とにかく近くにあるもので、目玉焼きを焼こうとするので、フライパンではなく鍋で焼いてしまうこともあります。しかも油をひかないので、鍋に卵がこびりつき、あとでわたしが必死に焦げを取る作業が待っています 。

 母がひとりの時は、ヘルパーさんが気づいたときにフライパンを洗うよう、お願いしています。

→ひとり暮らしの認知症の母が準備した朝食が切なすぎた話

目玉焼きの焼き方がわからない!?

「ねぇ、目玉焼きはしっかり焼くの?」

 認知症が進行してからというもの、卵は生で食べてはいけないという母のルールができました。

「卵かけご飯って、あるでしょ?」

「あら、そうね」

 この会話のやりとりは、もはやルーティーンになっていて、毎朝質問されます。

 もうひとつの質問は、もやしは塩味でいいかどうかです。

台所と食卓の往復はリハビリがわり

 なんとか完成した朝ご飯を、母が居間まで運びます。手足が不自由なのでフラフラしますが、これもリハビリの一環。こぼしたとしても、わたしが掃除するくらいの気持ちでいます。

「いただきます!」

 と言ってはみたものの、明らかに足りないものがあります。箸が1膳足りない、パンに塗るジャムのスプーンがない、目玉焼きにかけるしょうゆがないなど、完璧に揃う日はほぼなく、母が台所まで必要なものを取りに行きます。

 時間がないときはわたしが取りに行きますが、母が台所に戻ること自体もリハビリです。

→認知症の母が作った不思議な夕食に心がざわついた話

いただきます! もやし炒めの味に違和感…

「今度こそ、いただきます!」
 
 期待していた味でないものが、口の中に入ったときの違和感って分かりますか? 母のもやし炒めは、決まって塩味。しょっぱい味がすると思い込んだまま、もやしを口の中に入れるのですが、思った味が口の中に広がりません。塩を入れるのを、忘れたようです。

 料理は、今まで経験してきた味とその時の味の照合作業のような気がしていて、その照合がエラーとしてはじかれると、思っている以上にショックを受けます。

 最悪、しょうゆをかければ食べられますが、味はなかなか安定しません。

ごちそうさまの後は…洗い物はどうなる?

「ごちそうさまでした!」

 母より先に食べ終え、母が食べている最中にある程度の洗い物を済まそうと思っているので、朝ご飯は少し早く食べるようにしています。わたしが洗い物をしていると必ず、 

「お母さんが洗うから、あんたはやらなくていいって」

 と言います。しかし、母に洗い物を任せてしまうと、油汚れがひどくても、水洗いで済ませたり、そもそも食器用洗剤を使わなかったり、何もしないまま食器棚に皿を戻すこともあります。

 わたしが洗い物をしている最中ならば、母親としての役割を果たそうと、手伝ってくれます。しかし、期待した洗い方にはならないため、すべての工程を終わらせておく必要があるのです。

 食器を拭く作業もよく忘れているので、食器棚からは濡れた皿やコップがよくでてきます。わたしも妹も、実家の食器を全く信用していないので、自分で使う際は一度洗ってから使うのが基本ルールです。

 わたしは料理で使った包丁、まな板、フライパン、フライ返しなどは洗い、きちんと拭いて所定の位置に戻します。母には朝ご飯で使った箸、お皿、コップなど、少しの洗い物だけをお願いしています。

 認知症が進行すると、今までできていたことができなくなる日がやってきます。しかし、最後まで出来ることが必ずあるはずです。期待どおりの朝ご飯にはなっていませんが、母にはこれからも毎朝できることをやってもらおうと思っています。

 今日もしれっと、しれっと。

→工藤広伸さんの他の記事を読む

工藤広伸(くどうひろのぶ)

祖母(認知症+子宮頸がん・要介護3)と母のW遠距離介護。2013年3月に介護退職。同年11月、祖母死去。現在も東京と岩手を年間約20往復、書くことを生業にしれっと介護を続ける介護作家・ブロガー。認知症ライフパートナー2級、認知症介助士。ブログ「40歳からの遠距離介護」運営(https://40kaigo.net/

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