ひとり暮らしの認知症の母が準備した朝食が切なすぎた話
盛岡でひとり暮らしをする認知症の母を、東京から遠距離で介護している作家でブロガーの工藤広伸さん。工藤さんは介護サービスや便利グッズなど、さまざまなことを活用し、遠距離でも介護をスムーズに行う工夫している。そのノウハウは、書籍やブログで紹介され、すぐに役に立つと評判だ。
しれっと、を信条とし、円滑に介護を続ける工藤さんだが、離れて暮らす母を想う息子心は、複雑なこともあるようで…。
父、母、祖母、わたし、妹の5人一緒に、盛岡の実家で暮らしていた時期がありました。
子どもたちが家を出て、祖母と父が亡くなった今、2階建ての大きな一軒家には、母がひとりで住んでいます。
息子が盛岡に帰ってきていることを忘れる母
母は1階の居間で過ごすことが多く、わたしも帰省したときは居間で一緒に過ごします。ただ、本やコラムなどの執筆は集中したいので、2階の自分の部屋で作業しています。
自分の部屋で2時間ほど執筆し、休憩のために1階の居間へ行くと母が、
母:「あら、あんた。盛岡にいたの」
お昼ご飯を一緒に食べたばかりでも、2時間も経てば、母はわたしと一緒にいたことを忘れてしまいます。
こんな調子なので、わたしが2階に居ることを何かで示しておかないと、母はひとりで朝食を作って食べ、わたしが起きた頃には後片付けまで終わっていることすらあります。
母に息子の存在を示す「目印」
わたしが2階に居ることを母に知らせるために、ある「目印」をつけています。
夜のうちに台所のテーブルの上に、皿2枚と箸2膳をわたしが並べます。母はいつもひとり分の皿と箸しか用意しないので、いつもと違うことに気づきます。この目印のおかげで、息子が盛岡に居て、明日の朝食は2人分作らないといけないと思うようです。
目印の効果で、母は朝食をきちんと用意できていたのですが、しばらくすると皿と箸をひとり分片づけ、ひとりで朝食をとるようになりました。
そこで、今度は、台所にある冷蔵庫のドアにマグネットでくっついているホワイトボードに「ひろ、2階にいます」と書くようにしたところ、ひとりで朝食をとることは、ほとんどなくなりました。