在宅介護に休息を!介護のプロも活用する《レスパイト》のすすめ|事例とメリットを専門家が解説
終わりの見えない在宅介護生活。介護をする家族だけではなく、介護される人にとっても一時休息となる「レスパイト」が注目されている。レスパイトとはどんなもので、どのように活用したらいいのだろう。実例をもとに、レスパイトのメリットや施設の見極め方をリサーチした。
教えてくれた人
介護福祉士・認知症ケア専門士 井口千賀子さん
介護福祉士、認知症ケア専門士。特別養護老人ホームやグループホームなどでユニットリーダーとして長年勤務。施設の利用者から「たまには出かけたい」「墓参りしたい」という声を多く聞き、2023年介護タクシーと訪問介護サービス事業を展開する事業『羅心盤』を起業。利用者や家族が寄り添ったサポートを続けている。https://rashinban-konpasu.com
向き合い過ぎないためのレスパイト
英語で一時休止や息抜きを意味するrespite(レスパイト)は、介護者や要介護者の双方にとって、リフレッシュできるメリットがあるのでおすすめとのこと。
「私も父のときや今も母のためにデイサービスなどを利用させてもらっています」
こう話すのは、介護福祉士の井口千賀子さん。グループホームなどの高齢者施設で働いてきた井口さんだが、自身の親御さんは、別の施設のデイサービスなどにお世話になったという。
介護のプロでも介護施設を利用することがあるのだろうか。
「ありますよ。なぜなら、自分の仕事や自分の家庭がありますからね。もちろん週末とかは母のところに行ってケアしたり、ドライブに連れ出したりということはやっています。それが私にもリフレッシュできる時間でもあります。
私が行けない日は、デイサービスや宅食サービスなどを利用して、常に母へ人の目が入るようにしています。みなさんに助けていただいているおかげで、私も疲弊せず仕事も自分の家庭も親も大切にできています」(井口さん、以下同)
レスパイトに利用できる施設は、デイサービスやショートステイなどのサービスを提供している特別養護老人ホーム、民間の高齢者施設や病院などがあるという。介護保険を利用している場合は、ケアマネジャーに相談するといいという。
「ショートステイやデイサービスなどを利用して、週に1度とか、1か月に1度などタイミングを決めて施設に預けることで、ご家族は新たな気持ちで在宅介護などに取り組めると思います。
しかし気をつけていただきたいのは、施設選びのミスマッチ。親御さんに合う施設かどうかは、重要なポイントです」
井口さんが以前勤務していた施設で実際にあったレスパイトの事例を教えいただいた。
「家族の役に立てたことが生きがいに」80代男性
「以前管理者をしていた施設で、娘さんのレスパイトのために、お父様をお預かりしました。
お父様いわく、お孫さんがディズニーランドでカウントダウンを過ごしたいとのことで、その希望を叶えてあげたいということでした。
『いつも家族に世話になっているから、自分はここに泊まることにした。娘や孫には、楽しんできてもらいたい』とおっしゃっていました」
家族に感謝し、自らレスパイトを希望されるかたもいらっしゃるとは。
「ご家族は大変リフレッシュされて、笑顔でおじいちゃんをお迎えにきました。
ご本人もそれを見て『孫が楽しんでくれたのが嬉しい』とおっしゃっていましたよ。ご自分の想いや行動によって、家族に喜んでもらえたことが誇らしく、生きがいにもつながったと思います。その後、毎年年末はレスパイトが定番となり、ご家族は毎年ディズニーランドのカウントダウンを楽しまれているとのことでした」
「入浴拒否が改善した」80代女性
「レスパイトでショートステイを利用された親子のケースです。ご家族がお母様を連れて来られた当初、言葉の使い方がとてもキツくて…。
『あ~、母を預けられてセイセイした!』と娘さん。お母様も売り言葉に買い言葉になってケンカ口調でした。まさにお互いに介護でストレスがたまっている状態でした。
このお母様は、普段はデイサービスを利用されていました。担当のスタッフに様子を聞いてみたところ、宿泊を経験することで、兼ねてから課題だった入浴拒否がなくなったとのことでした。
少し認知症があるかたでしたが、デイサービスで慣れているスタッフと1週間ほどショートステイで暮らしたことで、心が落ち着かれたようです。
レスパイトの前には、娘さんと言い争っていた威勢のいいお母様でしたが、娘さんが帰った後、何も用事がないのに職員をナースコールで呼ぶんですね。いつも喧嘩をしていた仲でしたが、きっと寂しかったんだと思います。最初のうち、眠れないときには、ホットミルクを持っていくなどして話をすると落ち着かれていました。
こうした気遣いは、介護に疲れてしまったご家族にはなかなかできないものです。その後、娘さんが笑顔で迎えに来られ、心なしかお互いの口調が優しくなっていました」
「大人のデイで心身リフレッシュ」90代女性
井口さんが母親の介護中、レスパイトを活用していた経験を教えてくれた。
「レスパイトとして一時的に預かっていただく施設に限らず、利用する施設は必ず見学してから決めてください。私も親の介護をしていますが、何十件も見学してから決めました。
実は、母が好きなそうな施設がなかなか見つからなかったんです。大きな施設にありがちなのですが、『さあ、みんなで歌いましょう!』とか、子供向けの工作をするレクリエーションが多いのです。母はよく『チイチイパッパは嫌い』と言っています(笑い)。幼児扱いされるようなところはイヤなんですよね。
ですので、大人のデイサービスを行っている施設を探しました。レクリエーションで作るものが、本格的なところです。
母が気に入った施設では、手の込んだ本のしおりを作るクラブがありました。
また、一般的な施設のレクと違って、提灯を作るレクでは、竹を使って紙を貼っていくという本格的なやり方を教えてくださっていました。ここは母に合うなと思って、週1回のデイサービスからお世話になって、その後、週3回までお世話になりました」
このように家族が見学して合いそうな施設かどうか見極めることが大切と、井口さんは続ける。
「ご本人と一緒に見学することがベストですが、あまり積極的でないようでしたら、最初からイヤになってしまわないように、ご家族だけで見学した方がいいかもしれません。
園芸が好きな人には、レクで園芸がある施設がふさわしいでしょう。反対にカラオケ嫌いな人が盛んな施設に入ると、一時的とはいえとてもつらいのです。いかにそのかたの嗜好に合ったところを見つけるかが重要です。
実は、初めは母もデイサービスに乗り気ではなかったのですが、今ではすっかり気に入っています。手作りのレクでは、『素敵な男性の先生が教えてくれるの』と母は喜んで通っています。
習慣的に外に出かけることで、心身ともにリフレッシュできているようです。そのおかげで、私も安心して仕事を続けられています」
井口さんが施設見学で実際にチェックしたポイントは以下。ぜひ参考にしたい。
施設の確認ポイント
・ソフト面
職員の動きを観察する。利用者に対しての接し方、目線を下げて合わせて聞く体勢をとっているか。
提供している機能訓練やレクリェ―ションの内容が利用者に合っているか確認する。
・ハード面
居住空間の設備や必要な機能訓練の設備などの環境を確認する。清潔かどうか。照明が暗かったり窓がない施設はNG
レスパイトはメリットの方が多い
「レスパイトは、介護する人も介護される人にも心のゆとりが生まれる、メリットがあります。レスパイトのための宿泊は、女性よりも男性のほうが抵抗を示されることが多いんです。一時的とはいえ、施設に預けられることを嫌がるのですが、最初のうちだけのことが多く、徐々に慣れていかれます。
『またあの人に会えた』、『今日はこれをやった』など、生活にハリが出てきたり、リズムが整ってくると、抵抗がなくなっていくようです。
レスパイトは、在宅介護を続ける人にとってメリットが大きいもの。親御さんに合う施設を根気よく探してみてください。お互いの心身のリフレッシュする時間をとって欲しいと思います」
取材・文/本上夕貴