R60記者「母の通い介護でぐったり…」介護疲れを解消するための《レスパイト》とは?【専門家解説】
R60記者は離れて暮らす母の介護をしている。実家に帰るには1時間ほどかかり、50代のときは軽くこなせていたが、60才を過ぎたあたりからどっと疲れを感じるように…。何かいい解決策はないものだろうか。専門家に話を聞いた。
教えてくれた人
介護福祉士・認知症ケア専門士 井口千賀子さん
介護福祉士、認知症ケア専門士。特別養護老人ホームやグループホームなどでユニットリーダーとして長年勤務。施設の利用者から「たまには出かけたい」「墓参りしたい」という声を多く聞き、2023年介護タクシーと訪問介護サービス事業を展開する事業『羅心盤』を起業。利用者や家族が寄り添ったサポートを続けている。https://rashinban-konpasu.com
母の介護で疲れてしまった…
最近、記者(60代)は、母の介護のため1時間かけて実家に通っているが、50代のときは軽くこなせていたが、60代半ばに近づいてきた昨今、どうも億劫になることも。介護疲れを感じているのかも? 解決作はないものだろうか。
「そんなときは、レスパイトする機会を持った方がいいですよ」
こう教えてくれたのは、特別養護老人ホームやグループホームなどでユニットリーダーとして長年介護に携わっている井口千賀子さん。現在は、訪問介護サービスと介護タクシーの会社を運営し、利用者や介護する家族に寄り添ったケアを続けている。
レスパイトとは?
レスパイトは、英語のrespite(小休止や息抜き)に由来する言葉。
「レスパイトとは介護者のかたが一時休息できるように、ほかの人に一時的にケアを代わってもらうものです。レスパイトケアとも呼ばれます。
主に、介護が必要なかたを施設や病院に預かってもらうケースが多いですね」(井口さん、以下同)
とくに在宅介護の場合、家族だけで向き合い過ぎてお互いに疲れてしまうことがあるとのこと。
「レスパイトは、介護する人とされる人、双方が煮詰まらないように心身リセットしてもらうのに有効です。終わりの見えない介護ですから、お互いに一定期間距離を置いて、休息をとることが大切なんです。
1週間に1度、数か月または半年に1度など、ご本人の認知度や身体の状況に合わせて、頻度や期間が変わってきます」
井口さんが勤務していた数々の施設でも、レスパイトのために利用する家族が多かったという。
「在宅介護などで家族だけで向き合っていると、お互い遠慮がなくなり、喧嘩が増えたり、キツくあたってしまったりすることもあります。そうならないためにも、遠慮せずデイサービスやショートステイなどへの一時入所を検討して利用しましょう。
レスパイトの期間をとることで、介護者のかたは旅行に行けたり、趣味やできなかった用事をすませたりと、自分や自分の家庭のための時間がもてます。
親御さんなどの要介護者のかたも外の世界に触れられ、新しい人たちに出会えたりしてリフレッシュできるのです」
介護者と要介護者にとって、WinWinのレスパイトだが、どこに一時入所を依頼すればいいのだろうか?
家族以外で頼める親戚とかがいればいいが、いてもなかなか頼みづらいもの。そんなときは、ケアマネジャーや地域の施設・病院に相談してみるといいとのこと。
レスパイトの利用方法
レスパイトの利用方法は、一般的に以下の2種類がある。
・高齢者施設のデイサービスやショートステイを利用する
・介護度が高い人や重い疾病がある人は病院を利用する
「自治体によって異なりますが、要介護者のかたの認知症の有無や身体的状況、また介護しているかたの目的や期間に合わせて、ふさわしいところを選んでください。
デイサービスなど普段利用している施設があれば、相談してみるといいでしょう。通い慣れている場所の方が利用者さんも一時入所することに抵抗が少ないと思います。
とくに認知症のかたは、初めての環境に急に入ると、緊張したり抵抗することが多いので馴染みのあるところがおすすめです」
レスパイト入院という方法も
「自治体によっては、レスパイト入院を実施しているところもあります。これは、地域で在宅介護や医療を受けているかたが、家族や本人の休息を目的とする短期入院です。
例えば、透析が必要なかたですと、デイサービスとかでは対応が難しいので、病院にお世話になった方がいい場合があります。
また、介護をするご家族を対象としたレスパイト用の入院施設もあります。家族がしんどくなったときのためのもので、私の住む地域にもあります。その間、要介護者のかたには、別の施設のショートステイを利用していただく手配をします。
ご家族も旅行などをしてリフレッシュできないと、疲れが蓄積して人によっては、鬱っぽくなってしまうケースも。そんなときには、介護者のメンタルケアを担ってくれる施設もあります。自分で調べることが難しければ、ケアマネジャーさんに相談してみてください」
レスパイトの注意ポイント「長期はNG」
双方にとってレスパイトはとてもいいようだが、長期間のレスパイトはすすめないと井口さん。
「レスパイトの期間は長すぎると、介護に復帰したときの負担が以前より大きく感じられてしまいます。1か月間介護を休んでしまうと、親が帰ってきたときに、介護の疲れは倍以上に感じられることも。介護には気力も体力も必要なので、レスパイトはあまり長期にならないようにしてください。
レスパイトは週末に利用、2泊3日とか1週間など1か月に入れていってリズムを作っていくことをおすすめします。
もちろんショートステイは、介護保険を利用できます。ショートステイでもいろんなタイプの施設があるので、親御さんに合ったところを探してみてくださいね」
井口さんのお話を伺い、記者もレスパイトのため小旅行にでかけることに。長年の通い介護が続くなか、久しぶりの旅行だ。
行先は急に母に何かあってもすぐ戻れる距離の近県に。それでも温泉に入りおいしい食事をいただけて、心身ともにリフレッシュできた。その後、母に穏やかに接することができるようになり、母の口調も穏やかに…。長距離走のような介護生活では、時折のレスパイトは必要だと感じた。
取材・文/本上夕貴