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要介護認定を受ける前でも介護保険サービスは使える?急ぐときはどうする?

「親の介護が急に必要になった」「夫がいきなり入院して介護状態に…」。公的な介護保険サービスをすぐに使いたくても、その前に要介護認定を受けなくてはならない。退院後すぐなど急を要するとき、介護保険サービスを使うには? ファイナンシャルプランナーの大堀貴子さんに解説いただいた。

介護保険サービス利用には認定が必須

 高齢の親や夫が急に入院して介護状態になってしまったり、まだ先だろうと思っていた親の体調が一気に悪化してたりして、すぐに介護保険サービスを使いたい。そんな場合は、どうすべきなのかを解説する。

 まずは、介護保険の仕組みと要介護認定について知っておこう。

介護保険とは

 そもそも介護保険とは、40歳から加入するもの。要支援・要介護認定を受けることで、介護保険サービスの料金を1~3割負担で利用できるようになる。上限はあるが、残りの金額が介護保険から支払われる仕組みだ。

 つまり、介護保険サービスを、介護保険なしで支払うと大きな負担となるわけだ。

→介護保険で利用できるサービスの種類、施設について詳しく見る

介護保険を使えばサービス利用の負担が減る

 介護保険施設である「特別養護老人ホーム」に入居した例で考えてみよう。

 要介護3で多床室の場合、介護費用は、1日あたり6970円、月額にすると約21万円程度かかる。

→介護サービスの利用料金、自己負担限度額について詳しく見る

 しかし、介護費用は、介護保険でまかなわれるため、1割負担なら1日697円、月額約2万円の支払いで済むことになる※。

 さらに、介護費用が高額になった際には高額介護サービス費として後で還付を受けられることもある。

 また、居住費や食費、日常生活費は原則自己負担となるが、生活保護者など低所得向けの軽減制度「特定入所者介護サービ費」も利用できる。

→介護施設の食費が6万円も安くなるのはどんな人?|知らないと損する介護保険の話

※参考/厚生労働省「介護保険の解説、サービスにかかる利用料」よりhttps://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/commentary/fee.html

・65歳から介護被保険証が交付

 65歳になると、それぞれの負担割合が表示された介護被保険証が市区町村から交付される。

 ただし、介護保険は医療保険のように保険証を持ってすぐに受診できるわけではなく、介護保険サービスも原則すぐには利用できない。

 介護保険サービスを使うには、まず、事前申請をして要支援・要介護認定を受けなければならない。申請は無料だが、要介護認定は申請してもすぐに下りるわけではない点に注意だ。

要介護認定には時間がかかる

 要介護認定の申請は、自己申告となる。本人または家族が市区町村の地域包括センターの窓口に申請することが必要だ。

 認定が受けられる状態でも、申請をしていなければ、介護サービスは受けられない。

 例えば、食事や掃除など自分だけでは難しく家族などが介助している場合でも、要支援に認定されていれば、訪問介護などの介護保険サービスのほか、生活しやすいよう自宅改修を行ったときには改修費の還付を受けられる。いずれにしても申請しなければ受けられない。

要介護認定の流れをおさらい

 要介護認定の申請は以下の流れだ。

1.「要介護認定申請書」を提出する。

 ※記載内容として主治医の情報があり、かかりつけ医を記載することで、後で主治医が意見書を提出してくれる(本人や家族は意見書を見ることはできない)。

2.提出後に市区町村職員が自宅訪問し面談・調査を行う。

3.コンピューター判定、介護認定審査会を経て認定結果が出る。

4.その後認定結果をもとにケアマネジャーがプランを作成し、サービス事業者と契約をしたうえで、介護保険サービスを利用できるようになる。

 このような経緯から、認定には1か月程度要する。

→介護が始まるときに慌てない!要介護認定の申請、介護保険サービス利用の基礎知識

認定前に介護保険サービスを使う注意点

 介護保険サービスを利用したいときに肝心な要介護認定が下りていなければ、介護保険サービスを利用できないと困ることもあるだろう。

 なお、申請・調査は入院中でも可能だが、退院時に認定が間に合わない可能性もある。

→親の介護認定、申請は「早く」。判定日は「立ち会う」~介護の始まり

認定前に介護保険サービスを使うには…

 すでに認定を受けて通知待ちの場合は、担当のケアマネジャーに相談を。また、そもそも申請前の場合には、市区町村の地域包括センターの窓口に問い合わせを。

 通常の認定には1か月程度かかるので、急を要するときは、地域包括センターの担当者と相談の上、ケアマネジャーと暫定的なケアプランを作成した上で、想定されるおおよその認定区分に応じた介護保険サービスを利用することになる。

超過分は自己負担になる

 おおよその認定区分は、あくまで想定のため、以下の点に注意が必要だ。実際の認定が想定された区分より下回る場合、超過した保険給付は自己負担となる。

 例えば、要介護3を想定していたが、実際には要介護1だった場合を例に挙げると…。

 要介護3の支給限度額が27万480円であることから20万円の介護サービスを利用したが、要介護1の支給限度額は16万7650円なので、超過分となる3万2350円は全額自己負担となってしまう。

→介護サービスの利用料金、自己負担限度額について詳しく見る

要介護認定を受ける前に必要なこと【まとめ】

 このように、要介護認定を正式に受ける前に介護保険サービスを利用する場合、想定より認定が下回れば大きな自己負担が生じるというわけだ。

 高齢の親が急に入院して歩けなくなり、車いす生活に。退院後までに介護保険サービスを利用して介護リフォームをしておきたいというケースもあるかもしれない。

 介護はいつ本格化するかわからない。いざというときに備えて最寄りの地域包括センターの窓口や連絡先を確認しておくとよいだろう。

→マネー記事シリーズ一覧を見る

文/大堀貴子さん

ファイナンシャルプランナー おおほりFP事務所代表。夫の海外赴任を機に大手証券会社を退職し、タイで2児を出産。帰国後3人目を出産し、現在ファイナンシャルプランナーとして活動。子育てや暮らし、介護などお金の悩みをテーマに多くのメディアで執筆している。

●介護保険サービスが受けられない?介護者が備えておくべき4つのリスク

●親の介護保険、子が入る場合の注意点は?必要?|ファイナンシャルプランナーが解説!

●申請すれば戻ってくるお金「健康保険」「介護保険」「夫の年金」

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