親の介護保険、子が入る場合の注意点は?必要?|ファイナンシャルプランナーが解説!
家族の介護や看護のために仕事を辞める介護離職が社会問題になっている。総務省の2017年の調査によると、介護離職者は年9万9100人にものぼる。
親の介護がいつ始まるのか、いくらかかるのか不安を感じている人も多いはず。そんな中、民間の保険会社が相次いで発売を開始しているのが“親の介護に備える保険”だ。
“親の介護に備える保険”とは、子どもが保険料を支払い、親の介護費用負担に備えるもの。例えば、ANAの保険「明日へのつばさ 親介護保険」の場合、公的介護保険制度で「要介護2以上」もしくは「要介護3以上」の認定を受けた場合に、最大500万円の一時金を受け取ることができる。他にも認知症の人が第三者に損害を与えてしまった場合等に保険金が支払われるものなど、いずれも親に介護が必要になったときにかかるお金に備えるタイプだ。しかし、介護のお金に対する不安から、保険に加入したものの、月々の保険料に苦しんだり、いざという時に役に立たなければ元も子もない。
そこで、高齢期の親をサポートする子ども世代のための本『親の介護は9割逃げよ:「親の老後」の悩みを解決する50代からのお金のはなし』(小学館文庫プレジデントセレクト)の著者で、この分野の啓発・相談に積極的に取り組んでいるファイナンシャルプランナーの黒田尚子さんに保険加入を検討する際に注意すべきことを聞いた。
親の介護リスクの洗い出しからスタート
「そもそも保険とは想定するリスクに備えるためのもの。不安を軽減するためのお守りではありません」と語る黒田さん。親の介護のために保険に入る必要があるかどうかは、慎重に検討した方がいいという。
「自分がどのようなリスクに対して備えたいのかを明確にする必要があります。まず、親が要介護状態になった場合のリスクを洗い出しましょう。例えば、病気や要介護状態になったときの費用負担を心配しているのか。自分が直接介護できないことを心配しているのか。一人暮らしなので見守る人がいないのか。認知症を原因とする損害賠償リスクや消費者トラブルもあるかもしれないですね。
次に、準備方法の検討です。公的医療保険や公的介護保険などの公的制度を中心に、それらに対応できる社会資源があるのか、それでどれくらいカバーできるのかを洗い出します。併せて、家族など誰かが見守れるのか、ご近所さんに声をかけてボランティアで様子を見てもらえるのか、預貯金がどれくらいあるのか。洗い出した社会資源でカバーできるのであればそれでいいわけです。もし、カバーできない項目があれば、そこで初めて自助努力としての保険の出番です。介護も病気もケガも心配だからといって、全部を保険で賄おうとしたら、いくらお金があっても足りなくなってしまいます」(黒田さん 以下「」は黒田さん)
●ポイント
・親が要介護になったときに、どんなリスクがあるのか明確にする。
費用か、子が直接介護できないことか、認知症を原因とするトラブルなど
・公的制度でどのくらいカバーできるのかを検討する。
・預貯金はどのくらいあるのか確認する。
介護について親の考えを聞いておく
介護について、親とよく話をしておくことも大切だ。
親が自分自身の介護に備えて保険に入っているのを知らずに、“親の介護に備える保険”に子どもが入ってしまえば、せっかくの備えが無駄になってしまう可能性も。そもそも親がどのような介護をしてほしいのか、子どもに期待していることはあるのか、それとも子どもに負担をかけたくないと思っているのかを知っておく必要があると黒田さんはいう。
「親が自分で認知症保険に入っている場合もあります。人気があって、とくに女性を中心に60代、70代で加入されている方が増えています。ただし、せっかく保険に入っていても、自分の判断能力が怪しくなってくると、保険の存在が宙ぶらりんになってしまいます。基本的に、契約者や被保険者などが請求しなければ給付金は受け取れません。子どもが保険加入について知らずにいると、いざという時にそれが使えないということも起こり得ます。親は子どもに自分の保険の加入状況や預金口座について伝えておくことが必要です」
●ポイント
・親が望んでいる介護を確認する。
・親が自分で介護保険に入っているかどうかを確認する。
・親の預金口座を聞いておく。
損をしない“親の介護に備える保険”の選び方
リスクの洗い出しをし、“親の介護に備える保険”でカバーできそうだとなったら、次に必要となってくるのが、各社で出している保険の比較検討。
損害保険ジャパン日本興亜の「親子のちから」のように、企業などが契約主体となり、従業員が任意で加入する保険もあるので、勤め先の制度も確認しておきたい。
「親御さんが若いうちに入ると、安心感は手に入りますし、保険料は安いです。ただし、統計的には、要介護状態のリスクが高まるのは70代後半から80代です。もし60代で入ると、それまで20年近くありますね。一時金300万円のプランに入ったとすると、インフレリスクが出てきます。そういう意味で民間の介護保険に懐疑的な見方もあります」
漠然と介護にお金がかかるイメージを持っている人も多いと思うが、何に使うのかを明確にする必要がありそうだ。公的な介護保険が何に使えて、何に使えないのかを理解しておくこともポイントの1つ。
「私は、お金があればいい介護ができるとは思っていないんです。社会的資源を使うことも大切です。ただ、お金があると選択肢の幅が広がります。親御さんと離れて住んでいて直接介護ができない場合、事業者を選定して利用する介護サービスを決めたり、介護施設などを選んだりするのも間接的な介護なのです。その際にお金があれば、選択肢を増やすことができます。公的な介護保険は、介護サービスをお金ではなく現物で受けることになりますが、民間の介護保険で給付金をもらえば、配食サービスや介護タクシーなどの費用に充当することができます。一時金で300万円受け取れるのであれば、自宅のリフォームや介護施設入所の一時金にすることもできます」
「親の介護は親自身が負担するのが大原則です」と強調する黒田さん。“親の介護に備える保険”は、親の介護への不安や介護離職のリスクを減らす効果もありそうだ。ただし、不安を感じていることを具体的に書き出し、それが保険によってカバーできることを確かめないと意味がなくなってしまう。その過程で親と介護についてお互いの考え、思いを話し合ってみてはいかがだろうか。
●ポイント
・各社の保険を比較する。
・要介護リスクが高まるのは70代後半から80代。それまで支払う保険料と支払われる一時金比べてどうか。
・公的介護保険は現物支給。民間の介護保険の給付金で、具体的に使えるサービスが増える。
・親の介護は親のお金で賄うのが大原則!
黒田尚子(くろだ なおこ)
1969年富山県出身。千葉県在住。立命館大学法学部修了後、1992年(株)日本総合研究所に入社、SEとして、おもに大学関係のシステム開発に携わる。在職中に、自己啓発の目的でFP資格を取得後に同社退社。1998年、独立系FPとして転身を図る。現在は、各種セミナーや講演・講座の講師、新聞・書籍・雑誌・Webサイト上での執筆、個人相談を中心に幅広く行う。2010年1月、消費生活専門相談員資格を取得し、消費者問題にも注力。また、2009年12月の乳がん告知を受け、2011年3月に乳がん体験者コーディネーター資格を取得するなど、自らの実体験をもとに、がんをはじめとした病気に対する経済的備えの重要性を訴える活動を行う。CFP(R) 1級ファイナンシャルプランニング技能士。CNJ認定 乳がん体験者コーディネーター。消費生活専門相談員資格 。
黒田尚子FPオフィス http://www.naoko-kuroda.com/【データ】
ANAの保険「親介護保険 明日へのつばさ」:https://www.ana.co.jp/ja/jp/amc/anahoken/life/care_insurance/
損害保険ジャパン日本興亜の「親子のちから」:https://www.sompo-egaoclub.com/sompo-dementiasupportprogram/service/calamity.html