2020年8月から介護保険料の負担が8万円も増える! 値上げのからくりとは
2020年(令和2年)8月から、高額介護サービス費の緩和措置が廃止となるため、介護保険で介護サービスを利用している人は注意が必要だ。中には年間8万円以上負担が増える人も…。高額介護サービス費とは何か、どんな人が負担増となるのか。ファイナンシャルプランナー・大堀貴子さんに解説いただいた。
高額介護サービス費とは?
高額介護サービス費とは、世帯内で1か月の介護サービス費用が月額で一定額以上に達したときに超えた金額分が還付される制度だ。
介護サービスを利用する場合、介護保険により自己負担額が1割(所得によっては2、3割)で済むようになっている(※表1)。これが、高額介護サービス費の制度により、1か月の利用者負担額の合計が上限を超えたときは、超えた分が払い戻される。
たとえば、夫婦で要介護5となり、介護保険を利用している場合、自己負担額が2人で介護保険限度額いっぱいの7万2434円が毎月かかった場合(世帯の誰かが市区町村民税を課税されている世帯で介護保険は1割負担)、月4万4400円を超えた2万8034円が還付される(※事例1)。
なお、要介護度ごとに決められた利用限度額を超えた自己負担分には、福祉用具購入費、住宅改修費、ショートステイなど入所時の食費や住居費、差額ベッド代、日常生活費は対象にならない。食費と居住費については、別途「食費・居住費の軽減制度」が用意されている。
上の例のように、1世帯で父親と母親など複数人の介護をしている人は、世帯で合算されるので高額になるケースもあるだろう。
この高額介護サービス費が、2017年から月の上限額が引き上げられた。以下で解説していこう。
高額介護サービス費は3年間の緩和措置が
2017年(平成29年)8月から、世帯の誰かが市区町村民税を課税されている世帯で現役並みの所得ではない人は、介護保険サービス費用の月額自己負担額の上限額が、3万7200円(表2)から4万4000円に引き上げられた。
ただし、上限額が4万4000円で上限に達した場合は、年間にすると52万8000円かかることになるが、世帯が全員65歳以上で介護サービス自己負担割合が1割の世帯は、年間上限額が44万6400円(月額3万7200円の12か月分)に据え置きとなっていた(※表3)。
これは、急激に年間の自己負担額上限が上がるのを緩和するための3年間の時限的措置となっている。2020年(令和2)7月で3年の期限が終わり、上限が撤廃されるというわけだ。
参考/厚生労働省「月々の負担の上限(高額介護サービス費の基準)が変わります」https://www.mhlw.go.jp/content/000334526.pdf
緩和措置終了で8月から負担が増えるのはどんな人?
これまで長期で介護保険サービスを利用していた人は、2017年(平成29年)8月から月の上限が上がっていたとしても、年間の自己負担額の上限は改正前の44万6400円で計算されていたため、値上がりの実感はなかったかもしれない。
しかし、2020年(令和2年)8月1日から、この時限措置が撤廃されるため、月の上限負担4万4000円に緩和されていた人は、年間の自己負担額が52万8000円に引き上がる。
上限撤廃で負担が増えるのは、以下のようになっている。
・現在、現役並みの所得がない人
・世帯の誰かが市区町村民税を課税されている世帯
・世帯全員が65歳以上・介護サービスが1割負担の人
・1年以上の長期で介護している人
これらの上限に当てはまる人は、実質年間8万1600円も自己負担額が増えることになる。
上記事例1の場合、月額4万4400円を超えた金額の2万8034円が毎月還付されていた。1年間その状態が続いていた場合、年間上限の44万6400円を超える8万1600円が追加で還付されていたが、2020年8月からはその分の還付がなくなるというわけだ。
※参考/厚生労働省「高額介護(予防)サービス費に係る激変緩和措置の終了について」http://www.roken.or.jp/wp/wp-content/uploads/2020/07/vol.854.pdf
介護費が高額になる人が知っておくべき制度
介護サービスが高額になったときに利用できるのが高額介護サービス費だが、介護費と合わせてさらに医療費も高額になったときに使えるのが、「高額介護合算療養制度」だ。
今回の上限撤廃により、年間の自己負担額が8万1600円上がった人でも、医療費と介護保険の自己負担が年間56万円以下であれば、「高額介護合算療養費制度」を使えば、還付を受けられる可能性がある。
高額介護合算療養制度を使うと、医療費と介護費の自己負担額の合算額が毎年8月1日~翌7月31日の1年間において、所得に応じた自己負担額の上限を超えた分が還付される。
申請方法は、まず市区町村に介護費にかかる自己負担額証明書を発行してもらい、この証明書を医療保険者(国民健康保険、会社員なら健康保険組合)に添付して申請することで還付を受けられるようになる。介護にかかる部分は介護保険から、医療にかかる場合は医療保険から還付される。
介護サービスにかかる費用の自己負担額は、年々増えていくことが予想されるため、公的に補助される分は最大限活用したい。
文/大堀貴子さん
ファイナンシャルプランナー おおほりFP事務所代表。夫の海外赴任を機に大手証券会社を退職し、タイで2児を出産。帰国後3人目を出産し、現在ファイナンシャルプランナーとして活動。子育てや暮らし、介護などお金の悩みをテーマに多くのメディアで執筆している。
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