倉田真由美さん「秘書兼漫画家、ありかも?」くらたまね~&らいふVol.2
漫画家の倉田真由美さんの元に知人から「秘書をやってみませんか?」という連絡が舞い込んだ。今年55才を迎えるにあたり、今後のお金や生活のことも気になり始め、何か新しいことにも目を向けていきたいと思っていたところ。実際に会って話を聞いているみると――。
執筆・イラスト/倉田真由美さん
漫画家。2児の母。“くらたま”の愛称で多くのメディアでコメンテーターとしても活躍中。一橋大学卒業後『だめんず・うぉ~か~』で脚光を浴び、多くの雑誌やメディアで漫画やエッセイを手がける。新たな描きおろし漫画も収録した最新の書籍『夫が「家で死ぬ」と決めた日 すい臓がんで「余命6か月」の夫を自宅で看取るまで』も話題に。
秘書のスカウト、その後のこと
「秘書やってみませんか」
最近知り合った知人に、こんな打診を受けました。そして、満更でもない私…。
秘書の仕事なんて今まで考えたこともありませんが、今年は55才になる年、ちょうど新しいことにもチャレンジしてみたいと思っていた頃です。今の仕事であり、本来好きなことである「漫画を描く」「文章を書く」ということは当然一生続けていくつもりですが、それ以外のことも並行してやってみたいという気持ちは年々強まっています。
漫画家兼秘書。
こんな肩書きを持つ人、日本でもそんなにいないはずです。秘書業が自分に向いているかはともかく、せっかく声をかけていただいたので前向きに話を聞いてみたいと思いました。
但しこの話を持ってきてくれた知人の秘書ではなく、知人の知人が秘書を探しているということなので、こちらにやる気があったとしても即採用決定というわけではありません。まずは、間を取り持ってくれる知人Aさんに会って話を聞くことになりました。
「倉田さん、お久しぶりです」
銀座でランチでもしながら、ということで店の予約までしてくれたAさんは、一代で事業を立ち上げ成功させた経営者です。顔が広く様々な分野の知人がいて、今回秘書を探しているというのも彼の事業とはまったく別分野の人でした。
直接の面接でもないので普段着で来ましたが、店に着くなり場違いで少し怖気付いてしまいました。銀座の超有名ブランド店が入ったビルの最上階で、着飾ったご婦人たちの談笑がさざめいています。
「こんにちは。今日はわざわざありがとうございます」
私は挨拶をした後、履歴書を持ってこなかったことが脳裏をよぎりました。しかしそのことを口にする間もなく、ランチタイムがスタートしました。
「さっきお手洗いに行ったら手洗い場を使っている女性がきらびやかな人ばかりで、ちょっと気後れしてしまいました」
「ははは。まあ、銀座ですからね」
何気ない会話をひとしきりした後、私は本題を切り出しました。
「ところで、秘書のお話ですが…」
するとAさん、「いやあ、そのお話ですが」とやや申し訳なさそうに言いました。
「先方に倉田さんのことを伝えると、既に倉田さんのことをご存知で。何というか、秘書というのは難しいのかな、と…」
ああ、やっぱり。もしかしたらと思っていたことでした。
「倉田さんの得意な漫画を使った広報のお仕事とか…秘書ではなくても、いろいろ考えられると思います」
Aさんはフォローしてくれましたが、秘書の打診はAさんの勇足で、私の名前を出すとやんわりお断りされたようです。
新たに自覚させられたこと
私自身、ふんわり話を聞いてみたいなと思っていたくらいなので特にショックを受けたわけではないですが、年齢以外にも難しい条件を背負っているんだなと新たに自覚させられることにはなりました。Aさんが恐縮されているのを見て、逆にこちらが申し訳ない気持ちになってしまいました。
1時間ほどで食事が終わり、Aさんにお礼を言って帰途に着きました。
甘い話なんて、なかなかないよねー…
期待していなかったと言ったら嘘になりますが、今回は自分から動いたのではなく降って湧いた話なので、落胆も小さくてすみます。そもそも、向こうが乗り気でも実際に引き受けたかどうかは分かりませんし。
でも、いいきっかけにはなりました。
今までとは違う世界に飛び込んでみる。
人生80年とするともうとっくに後半ですが、後半の中ではまだまだ序盤です。いや、序盤じゃなく終盤だって遅すぎるということはないでしょう。今回の体験は、今から何か探してみよう、躊躇せずに、と思えることができただけでも重畳でした。今後も何か新しいことに挑戦してみるつもりです。
