95才で今も全6場所を取材。元NHKアナウンサー・杉山邦博さん「お陰さまで」がもたらす“謙虚さ”で生涯現役を貫く
95才にしてなお、年間6場所すべての相撲取材に立つ杉山邦博さん。その底力は、毎日の晩酌や魚中心の食事、ジム通いなど、規律ある暮らしと人とのご縁を大切にする姿勢から生まれていた。「お陰さまで」という言葉を胸に、人生を朗らかに歩み続ける秘訣とは。
教えてくれた人
杉山邦博(すぎやま・くにひろ)さん/1930年、福岡県生まれ、95才。元NHKアナウンサー。相撲ジャーナリスト。1957年から大相撲中継を半世紀以上に渡って担当。定年後は東京相撲記者クラブ会友として現在もほぼ15日間皆勤で年6回の本場所の取材を続ける。
「飲む量は少なく、昼間も絶対飲まない」。365日続ける晩酌マイルール
こだわりを持っているのはお酒の嗜み方ですね。晩酌は365日、ほとんど欠かさず飲んでいますが、飲む量は決めていて、日本酒なら1合半まで、ワインならグラス1杯まで。これ以上はどんなことがあっても飲みません。例えば300ml(2合弱)の日本酒を買って帰ってきても、もったいないなぁと思いつつ、4分の1ぐらいは残して捨てます。
昼間にお酒を飲むと境目がなくなるので、「昼間は絶対飲まない」と自分に言い聞かせています。だからパーティーなどにお招きを受けても、アルコールは一切口にしません。“けじめ”は大事だと思うので、これは徹底しています。
食事は1日3食、きちんと時間通りに食べることを心がけています。朝食は8時、昼食は1時、夕食は6時半から7時の間です。魚が大好きで、主菜はもっぱら魚。肉類は1週間か10日1回程度ですね。野菜も意識して食べていますが、私は好きなものから食べる主義なので「まず野菜から」みたいなこだわりはありません。駅弁とかを買うと、真っ先に玉子焼きを食べますよ(笑い)。
最近は歯が悪くなったので、時間をかけてゆっくり食べるようにしています。もちろん腹八分目で、大食いはしません。
逆に絶対食べないのが、ニンニクです。アナウンサーになってから、人様と接するときに相手を不快な気持ちにさせてはいけないと思い、一切口にしなくなりました。アナウンサーを辞めてからも同じで、ステーキを食べるときでもニンニクは「いらない」と言います。
エチケットとしてやっていることですが、自分はまだ現役なんだという自覚に繋がっていると感じます。
息抜きはカラオケや時代劇。週に2回はプールで水中歩行も
食事会の後の二次会につき合うのは好きで、カラオケに行くことが多いですね。私はカラオケ大好き人間で、友人と行くと7~8曲は歌います。田端義男、岡晴夫、都はるみが十八番で、歌詞は3番まで覚えていますよ。もちろんそのときもお酒ではなく、水かウーロン茶を飲んでいます。
睡眠もしっかりとるようにしていて、夜は10時半過ぎに就寝して、朝は6時半か7時に起きます。1日家にいる日は、まず新聞のテレビ欄をチェックして、サスペンスものや時代劇を楽しんでいます。家の者には「お父さん、これ以前観たやつだよ」と言われますが、おかまいなし。サスペンスは「犯人は誰だ」と言いながら楽しんでいるし、『暴れん坊将軍や『水戸黄門』は何度見ても面白いね。
この20年ほどは、月7~8回のペースでスポーツジムのプールに通っています。以前は生まれ故郷の小倉(現・北九州市)の川で覚えた平泳ぎで、いつも200mほど泳いでいましたが、この1~2年はもっぱら水中歩行。昨日も600mほど歩いてきました。
あとは暇があれば自宅の周りを散歩しています。外出の際はタクシーを使わずに電車を乗り継いでいるし、コンビニや薬局へは歩いて行きます。ここ1~2年はだんだん腰が曲がってきて、歩くのがちょっと苦手になってきましたが、人に追い越されるのは当然だと思って歩いています。
謙虚さを生み出す「お陰さまで」という気持ち
周辺の友人が次々と他界して、悲しい思いをすることが増えましたが、私の場合、まだ相撲の現場で現役やOBの記者と話す機会がある。それは大きいと思います。テレビ関係者が「杉山邦博を囲む会」を20年以上やってくれているんです。やくみつるさんも参加してくれて、私のことを“師匠”と持ち上げてくれるから、そこに出かけるのも楽しみです。本場所でしか会えない人たちもたくさんいて、相撲の話を始めたら終わらないんですよ(笑い)。
私は“お陰さまで”でという気持ちを大切にしています。こうして長生きさせてもらっているのも両親のDNAのおかげだし、いまも相撲の現場で過ごさせていただけるのは、まさに出会いのお陰さま。だから挨拶するときは『お陰さまで、ありがとうございます』と必ず言うのです。
お陰さまでという気持ちを常に持っていると、人は謙虚になります。謙虚になるということは、自分と向き合うということです。大横綱の大鵬さんは優勝インタビュー32回の中で、いつも真っ先に『お陰さんで』とおっしゃいました。その言葉はいまでも耳に残っています。ホームランの世界記録者の王貞治さんもとても謙虚でした。
今日1日、怒らず、悲しまず、正直、親切、愉快に。「力とは信念だ」と思って、人生に対する責務を果たし、立派な人間として生き抜くことを誓うーー毎日をそんな気持ちで生きています。
※週刊ポスト2025年11月28日・12月5日号
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