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地域の高齢者福祉を担う総合福祉施設・特養【まとめ】

 オープン間近の話題の施設や評判の高いホームなど、カテゴリーを問わず高齢者向けの住宅全般を幅広くピックアップし、実際に訪問して詳細にレポートしている「注目施設ウォッチング」シリーズ。

 少子高齢化に対応するため、地域の高齢者福祉の拠点となる総合施設を整備する動きが東京都内でも進んでいる。小学校の跡地など、自治体が所有する土地を活用し、社会福祉法人と協力しながら特別養護老人ホームを中心とした施設を作る例が増えてきている。そこで今回は、地域の高齢者福祉を担うために整備された総合福祉施設を紹介する。

「リバービレッジ杉並」

 急速に高齢化が進んでいる日本。65歳以上の人口は2042年に約3900万人となり、ピークを迎えると予想されている。国はその対策として、高齢者の尊厳の保持と自立支援のために、できる限り住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最期まで続けられるように支援・サービス提供体制の構築を目指している。これが地域包括ケアシステムと呼ばれているものだ。

 2019年3月に東京都杉並区にオープンした「リバービレッジ杉並」。総合福祉施設と謳っている通り、こちらの施設では特別養護老人ホーム、ショートステイ、小規模多機能型居宅介護、訪問看護の4つの事業が展開され、さらに同じ施設内でカフェと貸し出しスペースを運営している。

 リバービレッジ杉並を運営しているのは社会福祉法人「真光会(しんこうかい)」。昭和54年の法人設立以来、東京都青梅市を中心に地域密着で福祉拠点作りに取り組んできたという。現在は18事業で約400人の職員が働いており、子供やパラリンピック選手を対象としたスポーツ事業、無料学習塾の運営など、地域公益事業にも積極的だ。創始者は元々旅館業を営んでいたが、戦後に困窮している高齢者などの様子を見て、私財を元に社会福祉法人を立ち上げたそうだ。蛇足だが、いずれの宗教法人とも関係性はない。

 杉並区の土地を真光会が借りるかたちで、設立・運営しているリバービレッジ杉並。杉並区の公募で選ばれた提案には、カフェや貸し出しスペース以外の部分の設計にもこだわりがあるという。例えば、こちらの施設の中心部分である特養。10名前後の人数で1つのユニットを形成するユニット方式の場合、見守りのしやすさなどの理由からリビングを取り囲むように居室を配置するのが一般的だが、ここは全く違ったコンセプトの住空間となっている。

「私たちはご入居者が静かな環境で過ごせるように、リビングから居室を離して作りました。見守りのしやすさという職員目線ではなく、ご入居者の生活の質を優先させました。死角がある分は、眠りスキャンを入れるなどICTを活用してカバーしています。照明にもこだわりました。直接あたる照明はダウンライト以外はなく、ほとんどを間接照明にして、落ち着いた雰囲気で過ごせるようにしました」(リバービレッジ杉並統括施設長の野崎康弘さん)

 地域の総合福祉拠点として、住み慣れた地域で健康に暮らしていくためのサポートをするためには、医療面の体制整備も欠かせない。リバービレッジ杉並には、看護師が日中の時間帯に常駐しているので、利用者に何か問題が起こってもスムーズに医療につなげることができるという。

 看護師のいない時間帯の対策として、機能強化型在宅療養支援診療所を運営している医療法人社団「悠翔会」と連携しているそうだ。機能強化型在宅療養支援診療所とは、24時間往診に対応できる体制を確保することや過去1年間の緊急往診の実績件数など、厳しい基準を満たしている診療所のこと。ターミナルケアを積極的に行い、全国的にも評価されている悠翔会との連携は、利用者や家族にとって大きな安心感となっているようだ。

→地域の福祉拠点として子供から高齢者まで集う総合福祉施設<前編>
→離職率9%!人材育成に力を入れている総合福祉施設<後編>

「目黒中央の家」

 目黒区には長らく新設の特別養護老人ホームがなく、「目黒中央の家」が区内7か所目で実に19年ぶり。中重度の要介護者の増加が区の課題となっており、入所希望者の長期待機解消が求められていたという。旧区立第六中学校南側跡地を活用して、区が選定した事業者である社会福祉法人「奉優会」が民設民営している。

 目黒中央の家は目黒区内では初めてとなるユニット型特養。特養には「従来型」と「ユニット型」の2タイプあり、従来型は4人部屋など多床室となっていることが多い。一方、ユニット型は、10人前後の入居者を1つのユニットとして専任の介護スタッフがケアにあたる。ユニット型は個室なのでプライバシーが確保され、一人ひとりの状況に合わせた個別ケアがしやすいとされている。

「目黒中央の家では、1ユニットに個室が12あります。ユニットケアの理念は、暮らしの継続です。ご自宅にいる時の暮らしををそのまま継続することを目指しています」(施設長の小林健太郎さん 以下「」は同)

 特養にどのようなイメージを持っているだろうか。介護付有料老人ホームと比べて、費用は安いが長い入居順番待ち、大部屋でプライバシーが守られにくく、レクリエーションなど生活の楽しみが少ない…。もし、このようなマイナスイメージを持っていたら、「目黒中央の家」はそのようなイメージを覆すかもしれない。

 この日に行われていたのは理学療法士による体操。身体機能の向上や低下の予防に効果があるという。7月に開設してからまだ日が浅いので、入居者それぞれの心身の状態を見ながら行っているという。日々の体操だけではなく、「ハーモニカ演奏会」「読書会」「ご長寿祝賀会」などレクリエーションや行事にも力を入れていて、入居者にも好評のようだ。

 全室個室なので、気兼ねなく家族が訪問して一緒に時間を過ごすことができる。各ユニットにある共同生活室は自宅のキッチンとリビングの役割を果たしていて、他の入居者との交流の場にもなっているそうだ。食事の際にはここでご飯を炊いているので、食欲が刺激されるという。

「充実しているハード面に負けないように、ケアの質を日々高めています。そのために1階の交流スペースを利用して、職員の研修にも力を入れています。個別ケアに取り組んでいくためにも、24時間シートの内容をさらに充実させていきたいですね。大切にしているのは、その人らしさを尊重することです」

 いかがだっただろうか。19年ぶりに目黒区に開設され、地域の福祉拠点としても期待されている「目黒中央の家」。全室個室のユニット型で、介護付有料老人ホームと比べても遜色ないハード面。今後、特養のイメージを覆すシンボルになっていきそうだ。

→全室個室のユニット型!従来のイメージを覆す特別養護老人ホーム<前編>
→小規模多機能居宅介護、保育園もある目黒区の特別養護老人ホーム<後編>

「渋谷区つばめの里・本町東」

 少子高齢化を実感させられる小学校の廃校と、その跡地を利用した高齢者向け施設の誕生。文部科学省は~未来につなごう~「みんなの廃校」プロジェクトを立ち上げ、未活用の廃校施設の情報を集約して一般公開し、廃校施設等の情報と活用ニーズのマッチングを後押ししている。活用事例も公表されており、各地で高齢者施設などに生まれ変わっている様子を見ることができる。2018年にオープンした「渋谷区つばめの里・本町東」も小学校の跡地を活用した施設の一つだ。

 渋谷区つばめの里・本町東は、渋谷区基本構想の福祉分野の未来像である「あらゆる人が自分らしく生きられる街」の実現のために、高齢者が住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを営めるように整備されたという。施設の持ち主は区で、社会福祉法人カメリア会が運営を委託されている。地上5階・地下1階の建物には特別養護老人ホーム(以下、特養)を中心に、グループホーム、ショートステイ、在宅療養支援ショートステイ、デイサービス、トレーニング室、多目的ホール、地域包括支援センターが入っており、地域の高齢者を支える拠点として申し分のない機能が揃っている。

「地域のニーズに合ったサービスを提供しています。ワンストップでサービスを提供できるので、こちらにいらして頂ければ、高齢者の介護に関わる基本的なことには対応できます。在宅の方向けのショートステイとデイサービス、認知症でお体がお元気な方にはグループホーム、そして身体的機能が低下してきている方には特別養護老人ホーム。複合型の施設なので、それぞれの方の状態に合ったサービスを受けることができます」(施設長の山匠さん。以下、同)

 こちらには音楽療法の専門家である音楽療法士が常勤している。音楽療法には音楽を聴くことや歌うこと、楽器を演奏することで脳を活性化させ、心身に安定をもたらす効果があるとされている。認知症の予防や軽減にも効果があるとされ、介護施設などでも導入が進んでいる。懐かしい音楽を聴いて当時のことを思い出す回想法としての活用も増えてきているそうだ。

 施設の機能の中心となっているのが、定員100人の特別養護老人ホームだ。常時介護が必要で、在宅での生活・介護が困難な人が10人ずつのユニットと呼ばれる単位に分かれて、職員に支えられながら生活している。渋谷区では、特養の入居対象となるのは原則として要介護3~5と認定された人。自治体によって基準が異なるので、特養への入居を希望する場合は事前に確認をしておきたい。

「特養では一人ひとりに合わせた個別ケアを目指していて、何を求めているのか、どのようなケアが必要かを見つけることを意識しています。介護職だけでその方の思いをサポートすることはできないので、多職種が連携するチームケアを実施しています。例えば、車椅子から立ち、歩きたいという気持ちがある方のサポートをするために、機能訓練の担当がリハビリメニューを考え、食事の担当が食事の形態を食べやすいように変えることで摂取できる栄養を増やすといった連携をしています」

→ワンストップサービスで地域の介護ニーズに応える総合福祉施設<前編>
→多職種が連携してチームケアを実践している総合福祉施設<後編>

 いかがだっただろうか。地域の高齢者福祉のニーズに合わせて整備されている総合福祉施設。今回紹介したような施設が地域に与える恩恵はハード・ソフト両面とも大きい。自分自身や家族が住んでいる地域に整備計画があるか否かをチェックしておきたい。

撮影/津野貴生 取材・文/ヤムラコウジ

※施設のご選択の際には、できるだけ事前に施設を見学し、担当者から直接お話を聞くなどなさったうえ、あくまでご自身の判断でお選びください。
※過去の記事を元に再構成しています。サービス内容等が変わっていることもありますので、詳細については各施設にお問合せください。

→このシリーズのバックナンバーを見る

●新型コロナ感染が心配で自宅にこもりがちな高齢者におすすめな運動3選

●高齢の親は扶養に入れると得か損か… 別居でも扶養できる?

●西城秀樹さんの命を繋いだ妻の手料理、野菜は小皿方式で【第6回】

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