新型コロナ感染が心配で自宅にこもりがちな高齢者におすすめな運動3選
新型コロナウイルス感染の拡大は未だ先行きが不安。特に高齢者や持病のある人は、外出を控えるように心がける生活が続いている。そんな中、デイサービスやリハビリなどにも出かける機会が減り、筋力の衰えをはじめ身体機能への影響も懸念されている。
自宅など屋内で、楽しく体や頭を動かすエクササイズをご紹介する。
→新型コロナでデイサービスに行けない!? 北海道の介護職員から悲痛な声
若返りリトミック【動画あり】
「音楽を楽しみながら、頭と体を刺激して認知症の予防につなげる」として、注目を集めている「若返りリトミック」。
若返りリトミックの目的は、音楽の持つ力を使って「あたま」「からだ」「こころ」の若返りを図ること。今回指導してもらうのは、この中でも「体の若返り」にポイントを置いたものだ。
おなじみの唱歌「富士山」を歌いながら運動する。それでは早速、「富士山」を歌いながら、手の運動スタート! 動画を参考に、一緒にやってみよう。
協力/国立音楽院(https://www.kma.co.jp/)
撮影/政川慎治
ひざを痛めない「「ボートこぎ運動」
高齢者に多いのは、張り切ってランニングなどをいきなり始め、ひざを壊してしまうケース。そこで、樋口さんがおすすめするのが “ローイング”と呼ばれる運動だ。
「“ローイング”とはボートこぎ運動のこと。持久力を高める有酸素運動と、筋力を高めるレジスタンス運動を同時に強化できる最強のトレーニングです。日本ではあまり知られていませんが、欧米では人気のエクササイズで、多くのジムで行われています。実際に3か月トレーニングを行った70才のかたがたは、骨密度の低下も抑えられました」(樋口さん・以下同)
やり方は舌で紹介するが、腕と脚を動かし、ボートをこぐ要領で行う全身運動で、床に座って行うため、ひざを痛める心配がない。体幹と下半身の筋肉を効率よく鍛えることができ、腕を回して肩まわりを動かすため、肩こりの改善効果もあるのだ。いいこと尽くめなので早速始めよう!
体を動かすことを楽しいと感じる、まさに“動楽”でないとトレーニングは続かない。そこで、樋口さんがすすめるのが“座ってできるエクササイズ”。自宅で、テレビでも見ながら始めてみよう!
用意するのは100円ショップやスポーツ用品店で販売しているエクササイズ用のチューブと座布団だけ。チューブは硬さによって強度が変わるので、最初は柔らかめのもので始めてもOK。腕と脚を同時に動かすのが難しい場合は、腕だけ動かす、脚だけ動かす、と別々にやってみよう。
【1】体育座りをしてチューブを持つ
床に座布団を敷き、体育座りをする。両脚をそろえて足の裏にチューブをかける。チューブを手に持ってしっかり握り、ひじを伸ばす。
【2】両足を前に蹴り出し、両ひじを後ろに引く
「いち」と掛け声をかけて、両足を前に蹴り出し、ひざを伸ばす。同時に胸を張って、両ひじを後ろに引く。
【3】両肩を回して前に伸ばす
「に」の掛け声で、上半身の力を抜き、両肩を後ろに回しながら両ひじをしっかり前に伸ばす。
【4】両ひざをお腹に引き寄せ両脚を曲げる
「さん」の掛け声で、両ひざをお腹に引き寄せ、両脚を曲げる。この時、お尻が浮かないように注意。ボートをこぐイメージで、1~4をリズムよく繰り返す。(3~5分×1日3回) 【椅子に座ってエクササイズ】 余裕があれば、椅子に座って簡単に行える筋トレにも挑戦を。衰えやすい下半身の筋肉を強化できるので、デスクワークの合間などに行ってみよう。1日2~3セットを目安に。
【椅子に座ってエクササイズ】
余裕があれば、椅子に座って簡単に行える筋トレにも挑戦を。衰えやすい下半身の筋肉を強化できるので、デスクワークの合間などに行ってみよう。1日2~3セットを目安に!
●太ももアップ
鍛えるのは、腹部・体幹の筋肉。椅子に深く座り、両手で椅子の座面を持ち固定する。お腹と太もも前部の筋肉を意識し、大きく息を吐きながら片方の太ももをゆっくり持ち上げ、ひざを胸に近づける。これを交互に行う。左右各10~20回。
●ひざプッシュ
鍛えるのは、体幹の筋肉。椅子に深く座って背筋を伸ばし、足裏は床につける。片方のひざに両手を重ねて置き、つま先を床につけたままゆっくり上げる。同時に両手で下に押し5~10秒キープする。片脚10回。
●ひざ関節伸ばし
鍛えるのは、太もも前部の筋肉。椅子に深く座って背筋を伸ばし、両手で座面を持つ。片脚のひざの関節をゆっくり伸ばし、つま先が天井に向く状態で5秒キープ。ゆっくり下ろし、交互に行う。片脚10回。
●つま先アップ
鍛えるのは、ふくらはぎ・すねの筋肉。椅子に座って背筋を伸ばし、両足の裏全体を床につける。両足のかかとを床につけたまま、両足のつま先だけを同時に上げる。10~30回。
●かかとアップ
鍛えるのは、ふくらはぎ・すねの筋肉。椅子に座って背筋を伸ばし、両足の裏全体を床につける。両足のつま先は床をつかむようにしてつけたまま、両足のかかとだけ同時に上げる。10~30回。
教えてくれた人
樋口満さん/早稲田大学スポーツ科学学術院教授
イラスト/小山ゆうこ
座って行う太極拳「椅子タイチ」
太極拳には、他にも医学的に多くの効果が実証されていることから、医療機関や医師、理学療法士が協力し、世界的太極拳選手と手を組んで『メディカルタイチ(動く医薬)』が2016年に作られた。その後、介護が必要な高齢者でも行えるようにと、椅子に座って行う『椅子タイチ』も誕生した。
椅子タイチは、特に3つの効果が期待できるという。
【1】姿勢がよくなり深い呼吸ができるようになる
正しい姿勢が身につき、胸郭を開いて深い呼吸ができるようになると、体の隅々まで酸素が行き届くようになる。
「さまざまな指示系統を司る脳は、筋肉に比べて20倍もの酸素が必要。肺の空気をできるだけ多く吐き切る=深い呼吸は、脳を活性化するためにも不可欠なのです」
【2】糖と脂肪の両方を効率よく代謝できる
運動は、激しければ激しいほど体内の脂肪は使われず、糖のみが消費されてしまう。
一方、椅子タイチの運動強度は、酸素摂取量が30%でやや速足の散歩(同50%)よりも軽い運動にあたるが、糖と酸素を効率よく代謝することができる。
「息がそれほど上がらず、1時間でも続けていられる動きなので、運動が苦手な人や体が硬い人でも行いやすく、運動効果が期待できます」
【3】認知症とうつ病の予防ができる
ゆっくりと低強度の運動を長時間行うことができるため、脳のエネルギー源となる物質のケトン体が出やすい体になる。
「ケトン体は、脳の細胞に直接働きかけるとともに、新しい神経細胞をつくる物質にかかわっているので、この椅子タイチは認知症予防にもなります。活性酸素を処理してアンチエイジングに働き、うつ病の予防にも効果的です」
また、開発に携わった武術太極拳選手・齋藤志保さんは、椅子タイチの利点を次のように話す。
「座って行うため、転倒の心配や体への負担が少なく、上半身の力を抜いて筋肉を伸ばすストレッチ効果も期待できます。また、骨密度や筋力を上げ、脳への刺激・血流を活性化できるので、効果を実感しやすいのです」
【科学的根拠が認められている太極拳の9つの健康効果】
1.高齢者の転倒を予防する
2.バランス、柔軟性、筋力を高める
3.敏捷性と耐久性の向上
4.心肺機能を高める
5.血圧を下げる
6.慢性の痛みを改善する
7.不安症・うつ症状を改善する
8.睡眠の質を高める
9.幸福感・健康感がアップする
椅子タイチは、基本となる正しい姿勢と呼吸、体の動かし方のポイントが学べるため、太極拳の入門編としてもおすすめだ。まずは礼からスタートし、順を追って一連の動きを行っていこう。大切なのは、全身の力を抜き、呼吸を意識しながら途中で止まらないよう、ゆっくり体を動かことだ。
メディカルタイチ認定インストラクターの齋藤志保さんにやり方を教えてもらった。
一、礼
太極拳では演舞や試合を行う前に必ず「抱挙礼」という礼をするが、椅子タイチでも同様に行う。「左の手のひらは“文”、右手のこぶしは“武”で、合わせて“文武両道”。2つを重ねることで、相手に敬意を表します」(齋藤さん。以下「」内同)。
椅子に浅く座って背筋を伸ばし、両脚をそろえ、足の裏をしっかり地面につける。胸の前で右手のこぶしと左の手のひらを合わせる。右手は、親指を外に出してこぶしをにぎり、人さし指に添える。左手は、人さし指~小指をくっつけて真っ直ぐ伸ばし、親指は曲げる。
ひざは90度に曲げ、ひざ先の延長線に手がくるようにする。
二、起勢
まず体の緊張を解き、深い呼吸がしやすい姿勢を身につける運動から。「肩の力を抜くことが大切です。手に合わせて“吸って~、吐いて~”と、ゆっくり呼吸をすることで、酸素が全身を巡り、二酸化炭素が体外に運び出されます。そして気の流れが整い、頭と体がスッキリします」。
【1】礼の姿勢から、両手をひざに置く。鼻から息を吸いながら、手の甲を上にして両手をゆっくり4つ数えながら肩の高さまで上げていく。
【2】口から息を吐きながら、両手をゆっくり4つ数えながらひざに下ろす。→1と2を自然な流れで5回繰り返す。
三、首
体を上から順に動かすことで、全身の血流を促進できる。1の姿勢でゆっくり深呼吸を数回行い、呼吸が整ったら、首筋から脳の血流をアップさせる。「タイチで必要なのは、メリハリの効いたキメポーズではなく、ゆったり自然に体を動かすこと。ゆったりした動きは呼吸を深くする助けにもなります。円を意識しながら上半身を動かしましょう」。
【1】椅子に浅めに腰かけ、両脚をそろえる(以下、これが基本姿勢)。右手は手のひらを下にして胸の高さに上げ、左手は手のひらを上にして、腰の高さでキープ。
【2】右手のひらでボールを小さく押しつぶすようにして、ゆっくり下ろし、おへその下あたりで両手のひらを合わせる。
【3】両手を重ねたまま、ゆっくり息を吸いながら4つ数えて左のひじを後ろに引く。同時に、顔をゆっくり右に向け、左の首筋を伸ばす。
【4】ゆっくり息を吐きながら4つ数えて2→1へと動作を戻し、ボールを転がすように両手を動かし、左右の位置を変える。
【5】左手を4つ数えながら下ろして右手のひらに合わせたら、ゆっくり息を吸いながら4つ数えて右ひじを引き、顔を左に向ける。→1~5をワンセットに3回繰り返す。
四、肩
腕をひねって胸を開き、空気を深く吸い込む運動。「スマホなどで無意識のうちに体を丸めて猫背になり、呼吸が浅くなっている人が多い。腕をひねることで肩甲骨を動かせ、胸郭が開くので、深く、大きく息を吸うことができるようになる。腕をひねりながら体を倒し、両腕で大きな円を描くイメージで行って」。
【1】リラックスして基本姿勢に戻し、手のひらを上に返してゆっくり両腕を広げる。そこから4つ数えながらゆっくり息を吸いつつ小指を手前から上に回すように腕をひねる。肩甲骨を背中で寄せるつもりで、背筋も伸ばす。
【2】手のひらを内側に返し、4つ数えながらゆっくり息を吐き、頭を下げながら肩を丸める。→1、2を動きを止めず5回繰り返す。
五、脊椎
美しい姿勢の要となるのは、一般的に背骨といわれる脊椎の部分。「手を上げて、腰から頭までの上半身を引き上げた後、腰から首まである脊椎の骨の隙間を一つひとつ広げるイメージで体を伸ばします。次に、仙骨から腰、背中を丸めて動かします。この時、ひざが開かないように注意すると全身の柔軟性が高まります」。
【1】基本姿勢でリラックスした状態になり、鼻から息を吸いながら、ゆっくり両腕を上げる。手のひらは前に向けてばんざいの格好になる。
【2】口から息をゆっくり4つ数えて吐きながら上体を倒し、斜め前方に体を伸ばす。
【3】鼻から息を吸いながら、脊椎全体を動かすようなイメージで腰を曲げていく。口から息を吐きながら1の姿勢に戻る。→1~3をワンセットに動きを止めずに5回繰り返す。
六、腰
血流の要となる腰をしっかり動かす運動。「腕と一緒に体を左右水平にねじると、顔と手だけが横を向き、肝心の腰が動いていないことがある。ボールを抱えているイメージで行うと、腰からきちんと体が動き、胸郭が開いて呼吸が深くなります。頭と腕を動かしすぎないように注意して」。
【1】両腕を胸の高さで広げ、大きなボールを抱えるように、両腕で大きな円形を作る。
【2】ボールを抱えているイメージのまま、4つ数えながらゆっくり息を吸うとともに上半身を左に向け、4つ数えながら息を吐きつつ元に戻したら、右向きも同様に。動きを止めず5往復する。
七、股関節・ひざ・かかと
上半身を上に伸ばした状態から、下半身を動かす運動。「足を前に出す時にひざを高く上げる必要はありませんが、かかとをトンと床に置くのがポイント。“かかと落とし”は、骨からオステオカルシンという長寿ホルモンを効率よく分泌させ、骨の再構築を促すとして注目の運動療法。この動きを取り入れることで、骨粗しょう症予防にもつながります」。
【1】基本姿勢をとり、両手のひらを下に向けて指を組み、頭の上に置く。
【2】指を組んだまま、手のひらを上に返しながら天井に向かって伸ばす。同時に右足のかかとを前に踏み出してトンと落とす。手のひらを下に返しながらかかとを戻す。→左足も同様に行い、交互に計5回繰り返す。
八、バランス
足を持ち上げることで、太ももの筋力アップにつながる動き。「上半身が前や後ろに傾きすぎないように注意しながら片手を上げ、ひじとひざを近づけます。体がグラつかないよう、もう一方の手で椅子の座面や手すりを持ち、支えにしてください。繰り返すことで、手の支えがなくても重心が動かず、バランスがとれるようになります」。
【1】基本姿勢になり、リラックスした状態から右ひじを曲げて顔の高さくらいに上げ、ゆっくり3つ数えて、右ひざをひじに近づけるイメージで持ち上げる。つま先は伸ばして下に向ける。体がぐらつくようなら、左手で椅子を持ち、体を支えて。
【2】ゆっくりと3つ数えながら手足を下ろして基本姿勢に戻り、左側も同様に。→左右交互に1、2を計5回繰り返す。
すべての動作が終わったら、最後に、二の“起勢”の動作を5回繰り返して呼吸を整え、一の“礼”をして終了。
教えてくれた人
齋藤志保さん/メディカルタイチ認定インストラクター。
撮影/菅井順子
構成/介護ポストセブン編集部