「特養」の利用料は誰もが割安なわけではない!介護付有料の方が安くなる人も…元ケアマネが教える特養の費用が高くなる場合とその対策
「特別養護老人ホーム」(特養)は公的な介護施設なので入居費が安い。しかし、これは誰しもに当てはまるわけではなく、人によっては有料老人ホームのほうが割安になるケースもある。「安いから」と入居して後で困らないために、特養の費用が高くなってしまう人の特徴や対策について、専門家に解説いただいた。
この記事を執筆した専門家
中谷ミホさん
福祉系短大を卒業後、介護職員・相談員・ケアマネジャーとして介護現場で20年活躍。現在はフリーライターとして、介護業界での経験を生かし、介護に関わる記事を多く執筆する。保有資格:介護福祉士・ケアマネジャー・社会福祉士・保育士・福祉住環境コーディネーター3級 X(旧Twitter)https://twitter.com/web19606703
特養は民間の有料老人ホームより安い?
特別養護老人ホーム(以下、特養)は、公的な施設のため「民間の有料老人ホームよりも安い料金で利用できる」と思っているかたも多いのではないでしょうか?
たしかに、有料老人ホームの料金は一般的に高めの設定ですが、入所する人によっては、実は、特養の料金の方が高くなることがあります。
そこで、特養の費用が高くなる人の特徴を紹介します。
特養の費用
特養では、民間の有料老人ホームのように、入居にあたって前払いする入居一時金が必要なく、費用負担は毎月の利用料金のみとなります。
介護保険が適用されるのは、施設サービス費のみです。この中には、オムツ代も含まれています。
食費、居住費、日常生活費は保険適用外のため、全額自己負担になります。
特養の費用が高くなる人の特徴
特養の費用が高くなる人の特徴を見ていきましょう。
【1】介護保険の自己負担が2割・3割の人
特養の施設サービス費には、介護保険が適用されるので基本的に料金の1割を負担します。
しかし、一定以上の所得があるかたは、介護保険の自己負担割合が2割または3割になるため、2倍、3倍の料金を負担しなければなりません。つまり、1割負担の人よりも負担する額が高くなります。
なお、施設サービス費は「高額介護サービス費」の対象となるため、個人の所得や世帯の所得によって決まる月々の負担額上限を超えた金額は、介護保険から支給されます。
※参考/厚生労働省「高額介護サービス費の負担限度額が見直されます」
https://www.mhlw.go.jp/content/000334526.pdf
【2】食費と居住費の軽減を受けられない人
食費と居住費が安くなる軽減制度が受けられない人も、特養の費用が高くなります。
特養では「負担限度額認定(特定入所者介護サービス費)」という軽減制度によって、食費と居住費を軽減することができます。
ただし、負担限度額認定を受けられるのは、以下の3つの認定要件のすべてに該当するかたに限られます。
・本人及び同一世帯全員が住民税非課税であること
・本人の配偶者別世帯も含むが住民税非課税であること
・預貯金などの合計額が基準額以下であること
負担限度額認定(特定入所者介護サービス費)とは?
特定入所者介護サービス費の対象者はは、収入や預貯金などにより1~4の区分に分けられていて、区分が上がるほど負担が増えます。
■特定入所者介護サービス費(補足給付)の支給対象者
設定区分|対象者|預貯金額(夫婦の場合)
第1段階|・生活保護を受給している人等|要件なし
第1段階|・世帯全員が市町村民税非課税 ・老齢福祉年金受給者|1,000万円(2,000万円)
第2段階|・世帯全員が市町村民税非課税 ・本人の公的年金年収入額※+その他の合計所得金額が80万円以下|
650万円(1,650万円)
第3段階(1)|・世帯全員が市町村民税非課税 ・本人の公的年金年収入額※+その他の合計所得金額が80万円超~120万円以下|550万円(1,550万円)
第3段階(2)|・世帯全員が市町村民税非課税 ・本人の公的年金年収入額※+その他の合計所得金額が120万円超|500万円(1,500万円)
第4段階|・市区町村民税課税世帯|補足給付の支給対象外
※表/厚生労働省「サービスにかかる利用料」
https://www.kaigokensaku.mhlw.go.jp/commentary/fee.html
預貯金等の資産とは?
「預貯金等の資産」に含まれるものは、次の通りです。
・預貯金(普通・定期)
・有価証券(株式・国債・地かた・債社債など)
・金・銀(積立購入含む)など
・投資信託
・現金(いわゆるタンス預金)
なお、宝石、絵画、骨董品、家財などの評価額の判定が困難なもの、自動車、生命保険は資産に含まれません。
上記のように、住民税課税世帯の第4段階に当てはまるかたは、負担限度額認定の対象外となるため、特養の費用が高くなります。
ただし、第4段階でも、特定の要件により食費や居住費の軽減措置を受けられるケースもあるので※、施設や自治体に相談してみるといいでしょう。
参考/厚生労働省「高齢夫婦世帯等の居住費・食費の軽減」
https://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/topics/0508/dl/01e.pdf
預貯金を減らして対策するケースも
前述のように預貯金がネックとなり、費用が高くなってしまう場合があります。Aさんの事例をもとに、対策を考えてみましょう。
Aさん(83才・要介護3)
・現在ひとり暮らしで、特養への入所を検討中
・収入は国民年金のみ6万円
・住民税非課税世帯に該当
・預貯金850万円
Aさんは、住民税非課税世帯に該当しますが、預貯金額が基準額(650万円)を上回るため、負担限度額認定は受けられません。
Aさんのようなケースでは、現在の預貯金を生命保険や宝石、絵画など「預貯金と見なされない資産」にあらかじめ変えておくことで、負担限度額認定を受けられる可能性があります。
【3】ユニット型特養へ入所を考えている人
特養の部屋には、4つのタイプがあり、利用する部屋のタイプにより利用料が異なります。
そのなかでも、全て個室のユニット型特養への入所を検討しているかたは、特養の費用が高くなります。
ユニット型特養では、10人以下の入所者を1グループごとに介護する「ユニットケア」を行っています。ユニット型とは、共用のリビングスペースを取り囲むように個室が配置されているのが特徴です。
個室なのでプライバシーが保たれるほか、ユニットごとに職員が配置されているので、顔なじみの関係を作りやすいというメリットがあります。
従来型特養の「多床室(大部屋)」とユニット型特養の「ユニット型個室」の2タイプにおける、第4段階の利用料を確認してみましょう。
なお、第4段階の費用負担額は施設との契約によって決まるため、具体的な金額は各施設によって異なります。
ここでは、基準費用額(国が定めた標準的な目安)で利用料を記載しています。
※表/厚生労働省「介護報酬の算定構造」より。
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000728262.pdf
多床室とユニット型個室の費用を比較(合計額)
■<多床室>の月額負担額
要介護3 100,360円
要介護4 102,400円
要介護5 104,410円
■<ユニット型個室>の月額負担額
要介護3 137,320円
要介護4 139,390円
要介護5 141,400円
※すべて第4段階、1割負担の場合。施設サービス費、居住費、食費、日常生活費の合計。
上記の内容から、ユニット型個室は多床室よりも毎月の利用料が3〜4万円程度高くなることがわかります(1割負担の場合)。
そのため、年収や資産が多く、特養の軽減制度を受けられないかたや、介護保険の自己負担割合が2割、3割のかたは、ユニット型特養の第4段階の利用料よりも安く利用できる有料老人ホームを入所先に選ぶ人もいるようです。
特養は誰でも安いわけではないので条件の確認を【まとめ】
特養の費用は、介護保険の自己負担割合が2割、3割のかたは、費用負担が増えるので、入所するかたによっては、有料老人ホームよりも高い利用料になることがあります。
また、所得や資産が多いかたが特養に入所する場合、食費・居住費の軽減制度が受けられないため、月々の費用負担が高くなります。
さらに、ユニット型特養を選んだ場合は、毎月の利用料が13〜14万円と高額になることも珍しくありません。
今回ご紹介したケースに該当するかたは、料金的な面からみると、特養の入所にこだわらず、比較的料金の安い有料老人ホームも入所先の選択肢として検討してみてはいかがでしょうか。
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