高齢の親は扶養に入れると得か損か… 別居でも扶養できる?
高齢の親を扶養に入れると税金が安くなったり、親の健康保険料の支払いがなくなったりとお得に。しかし、損してしまうこともあるという。今回は親を扶養に入れる際のメリット・デメリットについて、ファイナンシャルプランナーの大堀貴子さんに解説いただいた。
扶養には「税法上の扶養」と「健康保険上の扶養」がある
扶養には、扶養する人の税金負担を軽減することができる「税法上の扶養」と父母が支払う健康保険料の支払いがなくなる「健康保険上の扶養」の2つがある(配偶者を扶養する場合には、さらに「国民年金保険上の扶養」もある)。
「税法上の扶養」のメリットとは
→所得税や住民税が減税される
「税法上の扶養」とは、納税者が家族を扶養している場合、所得税の控除対象となる扶養家族の人数や年齢により、一定金額を課税所得から控除することができることをいう。
この控除によって所得税と住民税を減らすことができる。税制上のデメリットはとくにないため、以下の条件に当てはまるなら、「税法上の扶養」に入れるのがおすすめだ。なお、離れて暮らす別居の場合も適応される。
●「税法上の扶養」に入れる条件を確認
・配偶者以外の親族(6親等内の血族及び3親等内の婚族)または都道府県知事から養育を委託された里子や市町村長から養護を委託された老人。
※6親等内の血族及び3親等内の婚族とは、例えば本人の従兄弟・伯叔父母、父母、配偶者の父母、曾祖父母などが含まれる。配偶者の従兄弟や伯叔父母は含まれない。
・納税者と生計を一にしていること(別居でもOKだが控除額は異なる)。
・合計所得金額が38万円以下(令和2年以降は48万円以下)、またはパート・アルバイトなどの給与収入のみは103万円以下。
・青色申告者の専業専従者として一度も給与の支払いを受けてないこと。または白色申告者の専業専従者でないこと。
年金暮らしの高齢者を扶養に入れる場合は…
なお、年金収入のみの方は、年金収入から年金控除額を差し引いた合計所得金額で算定される。
例えば、令和2年以降に65歳以上で年金収入350万円の人は、
●350万円×75%-275,000円=2,350,000円>48万円
となり、48万円を超えるため、扶養に入ることはできない。
一方、65歳以上で年金収入157万円の人は、
●157万円×100%-110万円=47万円<48万円となり、扶養に入ることができる。
つまり、60歳~65歳なら108万円未満、65歳以上なら158万円未満の年金収入なら扶養に入ることができる。
「税法上の扶養」控除額の金額は同居・別居で異なる
扶養控除額の金額は年齢や同居・別居で異なる。70歳以上の扶養親族は、同居しているかどうかで控除額が変わる。
なお、入院等で1年以上別居している場合も同居とみなすことができる。
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「健康保険上の扶養」のメリットとは
→健康保険料や介護保険料が不要に
「健康保険上の扶養」とは、会社員・公務員の扶養者の健康保険の扶養に入ることをいう(自営業等、国民健康保険加入者は扶養に入れることはできない)。
親を健康保険上の扶養に入れると、親が自分で支払っていた健康保険料、介護保険料を支払う必要がなくなる(65歳以上からは介護保険料のみ年金から天引きとなる)。
ただし、75歳以上になると自動的に「後期高齢者医療保険制度」に加入するため、「健康保険の扶養」には入れない。
例えば、親が自分で国民健康保険料を支払うと報酬月額11万円の場合10,296円(東京都、年間123,552円)となり(※居住地や収入によって異なる)、扶養に入れるとこの保険料の支払いが不要になる。
●「健康保険上の扶養」に入れる条件を確認
「健康保険上の扶養」(協会けんぽの場合)を例にすると、以下のようになる。ただし、父母が自営業の場合、税制上控除できる「減価償却費」は収入から控除されないので、注意したい(健保によっては控除できるところもあり)。
・被保険者の直系尊属、子、孫、兄弟姉妹で、主として被保険者に生計を維持されている人(別居でもOK)
・被保険者の収入により生計を維持されている人、同居していること(三親等以内の親族、配偶者または事実婚上の妻の父母と子ども)
・収入基準
収入は、過去の収入ではなく、扶養にいれる日以降の年間の見込み収入額。収入には、雇用保険の失業等給付、公的年金、健康保険の傷病手当金、出産手当金も含む。
・同一世帯の場合、年間収入が130万円未満または60歳以上または障害厚生年金を受けられる程度の障害がある場合は180万円未満、かつ被保険者の年間収入の2分の1未満。
・同一世帯でない場合、年間収入が130万円未満または60歳以上または障害厚生年金を受けられる程度の障害がある場合は180万円未満、かつ被保険者からの援助による収入額より少ない収入。
・給与所得等の収入なら月額108,333円以下、雇用保険の受給者なら日額3,611円以下であること。
会社の健康保険組合により異なることもあるため、詳しくは勤めている会社の健康保険組合に確認が必要だ。
「健康保険上の扶養」のデメリットとは
「健康保険上の扶養」のデメリットは、父母が入院や手術等を受け医療費が高額になったときに顕在化する。
健康保険では、入院など医療費が高額になったときに、負担限度額以上のお金を還付または事前申請で支払わなくて済む「高額療養制度」がある。
例えば、負担限度額が4万円なら、医療費の自己負担額(差額ベッド代等健康保険適用外の費用は除く)が10万円かかっても事前申請すれば自己負担額は4万円のみ、または10万円支払っても払い過ぎた6万円は還付される。
この負担限度額は扶養者の収入によって限度額が決まっているため、扶養する側の収入が多いほど負担限度額が高くなってしまう。
例えば、中小企業が多く加入する協会けんぽの場合、標準報酬月額28万円~50万円の扶養者の場合、自己自担額は最低でも8万円程度かかる。
一方、親の収入が低く住民税の非課税世帯であれば70歳未満の自己負担限度額は35,400円となり、70~75歳未満は24,600円または15,000円となる(※住んでいる市町村によって異なる場合もある)。
つまり、高額な医療費がかかったときのことを考えると、毎月の親の国民健康保険料を払ったほうが自己負担額を抑えられるケースもある。
なお、勤務する会社によって健康保険の種類が異なるため、自分が勤務する会社の健康保険の負担限度額を確認することが必要だ。
【まとめ】高齢の親を扶養に入れるべき?
「税法上の扶養」は、扶養に入れることで所得税・住民税が減りかつデメリットがないため、条件を満たしているならば扶養に入れるのがおすすめだ。親が同居していなくても「税法上の扶養」に入れることができる。
一方、「健康保険上の扶養」については、高齢になるほど医療費が高額になる可能性が高いため、扶養には入れずに親の毎月の国民健康保険料を支払ってでも自己負担上限額を抑えた方が良いケースも。
ただし、75歳以上の父母は後期高齢者医療保険に加入するため「健康保険上の扶養」に入れることはできない点は注意したい。
文/大堀貴子さん
ファイナンシャルプランナー おおほりFP事務所代表。夫の海外赴任を機に大手証券会社を退職し、タイで2児を出産。帰国後3人目を出産し、現在ファイナンシャルプランナーとして活動。子育てや暮らし、介護などお金の悩みをテーマに多くのメディアで執筆している。
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