西城秀樹さんの命を繋いだ妻の手料理、野菜は小皿方式で【第6回】
糖尿病、脳梗塞、そして、晩年は多系統萎縮症という病気を抱えながらも常に前向きに病に立ち向かっていた西城秀樹さん。秀樹さんを支え、共に歩んできた妻の木本美紀さん。秀樹さんの命を繋いできたひとつに妻の手料理があった。シリーズ6回目は、美紀さんが工夫した木本家の食生活をクローズアップ。
→第5回:「西城秀樹さん闘病中もあきらめなかった家族旅行の思い出」を読む
たんぱく質豊富な鶏肉で筋力アップを目指す
糖尿病も抱えていた秀樹さんの食事について医師など専門家に相談しながら、美紀さんは日々の献立には工夫を続けてきたという。
「秀樹さんは本当に食べることが大好きな人でした。ずっと食欲は旺盛でしたが、2017年ごろから家の中でもバランスが取りづらくなり転ぶことが多くなっていました。お医者さまに相談しながら、その頃は特に筋力をつけるための食事作りを心がけていました。筋肉を作るのはたんぱく質ですから、なるべくお肉やお魚、豆腐、卵を使った料理を多く作るようにしていました。
彼は昔からお肉が大好きなのですが、好んで食べるのは牛や豚。鶏肉はあまり積極的に食べなかったんです。でも良質なたんぱく質が豊富な鶏肉は、ぜひ食べて欲しかったので、鶏肉を使った料理は色々と試行錯誤しました。美味しい美味しいってよく食べてくれたのは鶏天かな。スパイスを効かせたタンドリーチキンも好きでしたね。でも、鶏肉に根菜を合わせた薄味の筑前煮はあまり箸が進まず、なかなか食べてもらえなくて…」
苦手だった野菜料理を克服した小皿方式
病を抱えた秀樹さんに長年寄り添ってきた美紀さんの頭を悩ませたのが、秀樹さんに野菜を食べてもらうことだった。
「結婚当初は、秀樹さんは野菜料理は好まないようでした。でも、糖尿病を抱えていたので血糖値を上げにくい食べ方をしなくてはいけません。ですから、野菜を先に食べて、汁物、お肉やお魚の主食、最後に白いご飯という順番で食べて欲しいのですが、仕事中心だった彼の食生活は外食が多かったので、大好きなラーメンや丼物など炭水化物から食べるクセがついていたようでした」
家ではいつもダイニングテーブルでメインの肉料理が並ぶのを心待ちにしていた秀樹さん。その様子は妻としては嬉しく思っていたものの、最初からすべて並べてしまうと野菜料理は一番最後に食べるか残してしまうと考えた美紀さんは、ある工夫を思いつく。
「なんとか先に野菜を食べてもらいたくて、お料理屋さんのように料理を一品一品小皿に分けて、ひと皿ずつ出してみたらどうかと思いつきました。最初にサラダを出して、それを食べ終えたら次にまた小皿でお浸しを出して、その次はお野菜の煮物を出してと、コース料理のように少しずつ食卓に出したんです。
最初のうち秀樹さんは、野菜のお皿は残して、はじによけたり、メインの料理を早く出すように急かしたりしていましたが、小皿方式を辛抱強く続けていたら、野菜も残さずに食べもらえるようになりました。血糖値も安定してきて、野菜から食べる小皿方式に彼もだんだん慣れてくれました」
その甲斐あって、野菜への苦手意識を克服した秀樹さんは、2009年から『趣味の園芸やさいの時間』(NHK Eテレ)に司会として出演。2011年の脳梗塞で一時番組を休んだが、翌年には番組にスペシャルゲストとして出演し、以下のように語っている。
《園芸を通して野菜が病気をしたりトラブルに遭ったりしながらも成長していく様子がわが子を育てているように感じる。勉強になることがたくさんあって、野菜を育てているようで、野菜に育てられている気持ちです》
「家族全員、子供たちも同じように小皿でひと皿ずつテーブルに出すようにしました。お皿をたくさん使うので洗い物は増えましたが、食べている量も把握でき、今では子供たちも野菜が大好きになりました。野菜のほか、お酢の健康効果はよく聞きますので、健康のためには、食事の中でお酢をもっと摂って欲しかったのですが、秀樹さんは酢の物も苦手だったんです。だから、スープにお酢を入れて酸辣湯風にしてみたり、鶏の煮物に酢を入れてみたり、調理に工夫もしていました」