介護施設訪問レポート|地域の福祉拠点として子供から高齢者まで集う総合福祉施設
高齢者向けの住宅の中から、話題の施設をピックアップ。記者が訪問し、施設で働く人の思い、設備、サービスなどをレポートする。今回は、東京都杉並区にある総合福祉施設「リバービレッジ杉並」だ。
リバービレッジ杉並
介護と無縁の生活を送っている人にとっては、特別養護老人ホーム(以下、特養)と有料老人ホームの明確な違いは分かりにくいかもしれない。どちらも高齢者が入居し、介護サービスを受ける施設だが、違いの一つとして運営主体が挙げられる。特養は社会福祉法人や自治体が運営し、有料老人ホームは株式会社など民間が運営している。
地域に開放された塀のない総合福祉施設
2019年3月に東京都杉並区にオープンした「リバービレッジ杉並」。総合福祉施設と謳っている通り、こちらの施設では特別養護老人ホーム、ショートステイ、小規模多機能型居宅介護、訪問看護の4つの事業が展開され、さらに同じ施設内でカフェと貸し出しスペースを運営している。
リバービレッジ杉並を運営しているのは社会福祉法人「真光会(しんこうかい)」。昭和54年の法人設立以来、東京都青梅市を中心に地域密着で福祉拠点作りに取り組んできたという。現在は18事業で約400人の職員が働いており、子供やパラリンピック選手を対象としたスポーツ事業、無料学習塾の運営など、地域公益事業にも積極的だ。創始者は元々旅館業を営んでいたが、戦後に困窮している高齢者などの様子を見て、私財を元に社会福祉法人を立ち上げたそうだ。蛇足だが、いずれの宗教法人とも関係性はない。
「社会福祉法人として地域の福祉拠点になることを大きなミッションだと考えていますので、名前にも“総合”とあえてつけています。地域の高齢者はもちろん、子供たちや親御さん、地域の方々にも利用してもらえるような拠点にするために、スポーツ教室を行ったり、カフェの運営をしています」(リバービレッジ杉並統括施設長の野崎康弘さん。以下、「」は同)
こちらでは、スポーツ教室や様々な学びの場を通じて、子供たちの力を育てる「キッズ元気プロジェクト」を実施しているという。本部のある青梅市で6年ほど前から無料の学習塾やスポーツ教室を運営し、地域の子供たちを明るく元気に育てる活動に取り組んできた。その蓄積を活かして、杉並区でも地域の子供たちを支援している。
「高齢者施設をずっとやってきましたが、社会福祉法人としてもっと広い領域のことをやるべきではないかと数年前から思うようになりました。高齢者のみならず、地域のみんなが集まれる拠点作りをする必要があるということで取り組んでいます。収支差額の3%を地域に還元するという目標を立てて実践しています」
カフェと貸し出しスペースは、道路を挟んだ向かいにある緑豊かな妙正寺公園とまるでひと続きになっているかのように建てられている。カフェではコーヒーや紅茶、食事、スイーツが楽しめ、近所の住民の憩いの場になっている。貸し出しスペースは1時間1000円で借りることができ、地域の人や団体がスポーツやサークル活動、催し物、パーソナルトレーニングなどに利用しているそうだ。野崎さんによると、地域との交流が深まることは中にいる高齢者にとってもメリットがあるという。
「高齢者施設は外との交流が少なくなりがちで、そうすると地域との関係が切り離されてしまいます。保育園などとの交流も大切で意義がありますが、どうしても単発のイベントに終わってしまいがちです。地域の方々とつながり、どんどん中に入ってきていただきたかったので、建物を作る時に塀を作りませんでした。入居されている方が閉じ込められているような気持ちにならないようにという思いもあります」
リビングと居室をあえて切り離した特養
杉並区の土地を真光会が借りるかたちで、設立・運営しているリバービレッジ杉並。杉並区の公募で選ばれた提案には、カフェや貸し出しスペース以外の部分の設計にもこだわりがあるという。例えば、こちらの施設の中心部分である特養。10名前後の人数で1つのユニットを形成するユニット方式の場合、見守りのしやすさなどの理由からリビングを取り囲むように居室を配置するのが一般的だが、ここは全く違ったコンセプトの住空間となっている。
「私たちはご入居者が静かな環境で過ごせるように、リビングから居室を離して作りました。見守りのしやすさという職員目線ではなく、ご入居者の生活の質を優先させました。死角がある分は、眠りスキャンを入れるなどICTを活用してカバーしています。照明にもこだわりました。直接あたる照明はダウンライト以外はなく、ほとんどを間接照明にして、落ち着いた雰囲気で過ごせるようにしました」
※眠りスキャン:入居者の睡眠状態や起床、離床などの様子をベッドに敷いたセンサーで把握できる機器
居室は部屋ごとに違う明るい色になっていて、気分良く過ごすことができる。家具は備え付けなので入居もスムーズ。
居室のトイレの入り口と壁は広く開放できるので、車椅子での移動や介助を受けやすくなっている。居室から共用部に至るまで、機能性とデザインにこだわっているという。
入居者が快適に過ごすための配慮は共用部のちょっとした所にも。フロアの少し引っ込んだ人目につかないような場所にくつろげるスペースが用意されている。居室以外のゆっくりと過ごせる場所は入居者にも好評だという。
いかがだっただろうか。昭和54年の設立以来、こつこつと積み重ねてきた実績を活かし、地域との交流を建物の設計と運営に組み込んでいるリバービレッジ杉並。杉並発の新しい福祉の拠点に地域が寄せる期待は大きい。
撮影/津野貴生 取材・文/ヤムラコウジ
【データ】
施設名:リバービレッジ杉並
公式WEBサイト:https://rvsuginami.jp/
所在地:東京都杉並区清水3-3-13
最寄駅:JR「荻窪」駅からバス(7分)「中瀬中学校」下車徒歩4分、西武新宿線「下井草」駅から徒歩15分、または「下井草」駅からバス(5分)「中瀬中学校」下車徒歩4分
類型:特別養護老人ホーム、ショートステイ、小規模多機能型居宅介護、訪問看護
運営法人:社会福祉法人真光会(しんこうかい)
敷地面積:3506.83平方メートル
延床面積:3882.84平方メートル
室数・定員: 特別養護老人ホーム・60人、ショートステイ・10人、小規模多機能型居宅介護・登録定員29人、通い18人、宿泊9人、訪問看護(外部事業所と事業連携)
入居要件:特別養護老人ホーム・、ショートステイ、小規模多機能型居宅介護、訪問看護
構造:鉄筋コンクリート造・地上3階
開設年月日:2019年3月1日
料金:特別養護老人ホームの1ヶ月(30日)あたりの負担金
要介護1・第1段階6万7841円(内訳:施設サービス費2万7041円、食費9000円、居住費2万4600円、金銭管理費1000円、日常生活品費基本パック6200円)~要介護5・第4段階16万9723円(内訳:施設サービス費3万7023円、食費4万5900円、居住費7万6500円、金銭管理費1000円、日常生活品費安心パック9300円)
※施設のご選択の際には、できるだけ事前に施設を見学し、担当者から直接お話を聞くなどなさったうえ、あくまでご自身の判断でお選びください。