介護施設訪問レポート|小規模多機能居宅介護、保育園もある目黒区の特別養護老人ホーム<後編>
高齢者向けの住宅の中から、話題の施設をピックアップ。記者が訪問し、施設で働く人の思い、設備、サービスなどをレポートする。今回は、東京都目黒区にある特別養護老人ホーム(特養)「目黒中央の家」だ。
目黒中央の家
東京・目黒区に19年ぶりに開設された特別養護老人ホーム(特養)「目黒中央の家」。旧区立第六中学校南側跡地を活用し、広々とした敷地に5階建ての建物が建てられている。その中には、前編で紹介したユニット型の全室個室の特養だけではなく、ショートステイや小規模多機能居宅介護(※)、保育園、地域交流スペースが入っている。
※「通い」を中心として、要介護者の様態や希望に応じて、随時「訪問」や「泊まり」を組み合わせてサービスを提供することで、中重度となっても在宅での生活が継続できるよう支援するため、小規模多機能型居宅介護が創設された(厚生労働省「小規模多機能居宅介護の概要」より)。
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複合福祉施設の中で小規模多機能型居宅介護が果たす役割とは
小規模多機能型居宅介護では、自宅から通える「通いサービス」や「宿泊サービス」、自宅への「訪問サービス」が受けられる。住み慣れた自宅、地域で可能な限り自立した生活ができるよう、心身の状況や置かれている環境に合わせたサポートをしてくれる。家庭的な環境と地域住民との交流も特徴の一つ。
「認知症の方は、いつもの生活環境から変化があると混乱してしまうことがありますが、ここには訪問や通い、泊まりの機能があり、同じ職員が対応しているので安心感があると思います」(社会福祉法人「奉優会」小多機事業部第一統括課長の森太さん)
利用を申し込むことができるのは、目黒区に住民票があり、介護認定を申請している人。定員は18名で、料金はサービスを受けた量に関係なく定額制だ。そのため、利用者やその家族、地域の住民の制度に対する理解と協力が不可欠だという。
「ここには特養があるので、機械浴など必要な設備は一通り揃っています。小規模多機能を利用していた方が特養に入居される場合、その方の状態や人となりを職員が把握しているので、受け入れがスムーズだという利点もあります」(施設長の小林健太郎さん 以下「」は同)
泊まりの部屋にも工夫が凝らされている。利用者のライフスタイルや価値観に合わせて、「書斎的雰囲気」「リラックスできる趣味部屋」「心地よい香りで優雅な空間」「和の空間」の4種類から選べるという。1階のカフェスペースや2階の機能訓練室など建物全体を活用した運営もここならでは。
「最近は在宅復帰もキーワードになっています。特養から在宅に復帰する場合、自宅近くに対応してくれるサービスが少ない場合がありますが、こちらの小規模多機能には通いと訪問、泊まりが準備されていますので、ご自宅に復帰された後も一か所でまとまった支援ができます」
保育園の園児との交流
「目黒中央の家」の3階にある「優っくり保育園」は事業所内保育所。事業所内保育所とは、従業員の児童並びに地域で保育を必要とする0歳から2歳の乳幼児に保育活動を提供する家庭的な認可保育園のこと。同じ建物に入っているので、特養の入居者とも自然な形で日常的に交流があるそうだ。認知症の入居者が子供と触れ合うことで、普段見せないような笑顔を見せることもあるという。
「目黒中央の家のコンセプトは新福祉創造です。特養とショートステイ、小規模多機能型居宅介護があり、さらに法人として新しい取り組みとなる保育園を運営しています。12名が定員で8名が事業所内保育です。地域に貢献しながら、職員が産休から復帰しやすくし、働きやすい環境を整えたいと思っています。高齢者施設でお子さんの声が聞こえるのはすごくいいですね。入居者の方々も触れ合うのを楽しんでいるようです」
地域交流スペースや災害備蓄倉庫も併設
地域コミュニティの中心だった中学校の役割を引き継ぐ目的も含め、1階にWi-Fiやプロジェクター、図書コーナーなどの設備も充実した地域交流スペースが作られている。災害備蓄倉庫もあり、非常時には福祉避難所としても機能するという。
いかがだっただろうか。特養に加えて小規模多機能型居宅介護や保育園、地域交流スペースを持つ「目黒中央の家」。年月と共に高齢者のためだけに留まらない地域の福祉拠点に育っていきそうだ。
撮影/津野貴生 取材・文/ヤムラコウジ
【データ】
施設名:「目黒中央の家」
公式WEBサイト:https://www.foryou.or.jp/facility/megurochuo/w121/
所在地:東京都目黒区中央町2丁目32-23
最寄駅:東急東横線「学芸大学」駅から徒歩7分
類型:特別養護老人ホーム
事業主体: 社会福祉法人奉優会
敷地面積:2,218.72平方メートル
延床面積:4,718.16平方メートル
室数:96室(ショートステイ12室含む)
入居要件:原則、要介護3以上。
ただし、要介護1・2でも、やむを得ない事情で、居宅において日常生活を営むことが困難である場合(下の「特例入所の要件」に該当する場合)には、特例的に入所が認められる。
特例入所の要件:認知症である者であって、日常生活に支障を来すような症状・行動や意思疎通の困難さが頻繁に見られる。
知的障害・精神障害等を伴い、日常生活に支障を来すような症状・行動や意思疎通の困難さ等が頻繁に見られる。
家族等による深刻な虐待が疑われること等により、心身の安全・安心の確保が困難な状態である。
単身世帯である、同居家族が高齢又は病弱である等により家族等による支援が期待できず、かつ、地域での介護サービスや生活支援の供給が不十分である。(目黒区ホームページより抜粋)
構造:鉄筋コンクリート造5階建
開設年月日:2019年7月1日
料金:介護保険1割負担の場合の食費・居住費・各加算など込みの1か月(30日)あたりの利用料金は以下の通り。
要介護1:12万7683円
要介護2:13万56円
要介護3:13万2642円
要介護4:13万5014円
要介護5:13万7386円
食費:4万1400円(1日あたり1,392円)
居住費:5万9100円(1日あたり2,006円)
介護保険負担割合1割の場合。一定以上の所得のある場合は、負担割合が2割、3割となる場合がある。日常生活費・理美容・クラブ活動費などは、実費がかかる。
※施設のご選択の際には、できるだけ事前に施設を見学し、担当者から直接お話を聞くなどなさったうえ、あくまでご自身の判断でお選びください。
●住空間のデザインにこだわり抜いている介護付有料老人ホーム<前編>