地域に根ざし高齢者サービスの拠点となる特別養護老人ホーム<前編>
オープン間近の話題の施設や評判の高いホームなど、カテゴリーを問わず高齢者向けの住宅全般を幅広くピックアップし、実際に訪問して詳細にレポートしている「注目施設ウォッチング」シリーズ。
今回紹介するのは、世田谷区の特別養護老人ホーム「千歳敬心苑」だ。
千歳敬心苑
2017年3月10日、東京世田谷区の烏山区民会館で、あるイベントが行われた。「千歳敬心苑」開設20周年記念事業「実践報告会」だ。千歳敬心苑にとって初めての実践報告会。当日は300名ほどが来場し、会は大盛況。介護職員がこれまで実践してきたことを整理し、発表する場だ。この会は千歳敬心苑の人材育成担当の山口晃弘さんが発案し、実行委員長を務めた。
介護の現場で必要な「ビジョン」とは?
山口さんが人材育成担当として千歳敬心苑に来て最初に行ったのは、どういった介護をするかビジョンを作ることだったという。
「まず職員全員と面談をし、現場に入りました。そして『私たちは、敬いと真心で地域社会から最も必要とされる介護サービスを創造します』というビジョンを策定しました」(山口さん)
次に山口さんが行ったのが、実践報告会の提案だ。初めてのことに戸惑う職員も多かったが、日時と会場を決めて突き進む山口さんに周囲も段々と感化されていった。報告会の資料に掲載された、入居者と笑顔で写る職員の写真がその日々を物語っている。
地域で必要とされ愛される施設を目指す
千歳敬心苑は施設近隣の小学校と相互訪問を定期的に行うなど、地域との交流にも力を入れている。小学生が来苑してレクリエーションをし、入居者がゲストティーチャーとして小学校を訪問するなどの交流だ。秋祭りなどの季節行事には、お囃子サークルなどがボランティア参加するなど、地域に根ざした20年の積み重ねがある。
これだけにとどまらず、千歳敬心苑では地域の「買い物難民」のための施策にも取り組んでいる。「世田谷区で買い物難民?」と思われるかもしれないが、実は東京都内でも買い物に苦労している高齢者は多い。公共交通手段が、体の不自由になってきた高齢者全員のニーズを満たしているわけではないのだ。そこで地域貢献の一環として「買い物キャラバン」という無料の買い物送迎を始めた。実施にあたって民生委員と連携を取り、困っている高齢者の把握に努めている。
他にも高齢者や障がい者の居場所作りのために月に1回、千歳敬心苑で夕食を共にする「ちとせdeご飯」という企画を行っている。一食500円で、自力で来ることが難しい人には送迎も行っている。いずれも地域の福祉のニーズを探りながら、改良を行っているという。
招かれて1年で力強く様々な施策を進める山口さん。介護の世界で挑戦を始めるきっかけとなったのはある入居者との出会いだった。
山口さんが最初に働いた施設に「長生きなんてするもんじゃない」といつも話す入居者の女性がいたという。職員にも気遣いを忘れず、仕事を手伝ってくれるなど、交流を深めていった。そして、彼女がガンで亡くなる前日、山口さんの口から自然と「いつか偉くなって長生きする甲斐のある世の中にするからさ。もう長生きしたくないなんて思わないでくれよな」という言葉が出た。彼女は「今はもうそんなこと思っていないよ。あなたに会えて良かった」と応じ、それが最後の会話になった。
山口さんは今、施設での仕事に加えて、講師をしたり、『最強の介護職、最幸の介護術 ─“燃える闘魂”介護士が教える大介護時代のケアのあり方─』(ワニブックス)を出版するなど精力的に活動を続けている。
* * *
次回後編では、施設の詳細な紹介と山口さんを招いた遠藤苑長に話を聞いていく。介護に取り組む職員の姿勢が、入居者にどういった影響を与えるのかが浮き彫りにされる内容だ。
【データ】
施設名:千歳敬心苑
公式WEBサイト:http://www.keisinen.or.jp/chitose/index.html
所在地:東京都世田谷区給田5-9-5
最寄駅:京王線「千歳烏山」駅東口(新宿寄り)を北側に出る。関東バス烏山バス停(八千代銀行隣)から北野行で約10分、給田境下車徒歩1分
類型:介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)
運営主体:社会福祉法人 敬心福祉会
敷地面積:3504.14平方メートル
延床面積:4337.77平方メートル
室数:個室/24室、2人部屋/10室、4人部屋/12室
入居要件:原則、要介護3以上。ただし、要介護1・要介護2で、やむを得ない事情により特別養護老人ホーム以外での生活が困難な方の場合には応相談
構造:鉄筋コンクリート造 地上3階・地下1階
開設年月日:1997年4月14日
料金:入所一時金などの初期費用はなし。月額費用として介護サービス費と生活費(居住費・食費・その他日常生活費)を自己負担する。介護サービス費は介護度によって異なる。
※利用負担額目安(参考)
<個室利用月額>介護保険1割負担分+居住費+食費
負担段階と介護度が「第1段階・要介護1」で3万6487円~「第4段階・要介護5」で11万918円
<多床室利用月額>介護保険1割負担分+居住費+食費
負担段階と介護度が「第1段階・要介護1」で2万6887円~「第4段階・要介護5」で9万3218円
撮影/津野貴生
【このシリーズのバックナンバー】
●入居者のための設備が充実した足湯のある介護付有料老人ホーム<前編>
●入居者のための設備が充実した足湯のある介護付有料老人ホーム<後編>
●手厚い介護・看護体制が評判の介護付有料老人ホーム<前編>
●手厚い介護・看護体制が評判の介護付有料老人ホーム<後編>
●タワーマンションの中にある都市型サービス付き高齢者向け住宅
●コミュニケーションを重視し個別ケアに取り組む介護付有料老人ホーム<前編>
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